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緋色の英雄  作者: 夕凪
冒険の始まり

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19/26

新たなる旅立ち

 翌日、モーガンはイステルの部屋の戸を叩いていた。昼を過ぎても、イステルが起きてこなかったからだ。不意に扉を引いてみると、鍵はかかっておらず、部屋の中は綺麗に整えられていた。


 モーガンは、机の上に置かれた金貨の袋と一通の手紙を見つけた。手紙を開くと、文字が長々と綴られている。


「フッ、あいつめ。相も変わらず、手紙だとお喋りだな。こんなに書くなら、口で言ってくれよ……」


 そう呟きながら、モーガンはイステルの手紙を読み始めた。


『宿の主 モーガンへ

 何も言わずに出ていくことを許してほしい。

 この先、大きな戦いが起こるだろう。その時は、この金貨を使って集落の皆を助けてほしい。


 何かあれば、トラストン殿の屋敷に来てほしい。俺はそこにいる。

 それと、俺がいなくなったという噂を流してほしい。そうすれば、アイスロンド集落が狙われることもなくなるだろう。


 ひと段落したら、またこの集落に来ようと思う。ここは暮らしやすい。

 寒さは辛いが、人々の優しさで心は温まった。


 もし、また来ることがあれば、宿を利用させてほしい。

 ――イステル』


 モーガンは手紙を読み終えると、静かに折りたたんでポケットにしまった。金貨の袋を手に取り、部屋を後にする。そして、扉の前に掛けられていた「イステル」と書かれた木札を外した。


 ◇◇◇


 イステルは、アイスロンド集落から離れたアイシクル村へと到着していた。トラストンの屋敷は、ここからさらに遠い平原にある。徒歩では限界があるため、馬車を探しに来たのだ。


 馬車を探して歩いていると、どこからか香ばしい匂いが漂ってきた。周囲を見渡すと、馬車の停留所付近に屋台が並び、肉の串焼きが売られている。


 イステルは屋台に近づき、串に刺さった焼けた肉に視線を落とした。。極寒の地では貴重な、温かい食事だ。そして、店主の顔を見る。


「これは、何の肉だ?」

「いらっしゃい! フォレストボアの肉だよ! 一串、銅貨四枚だ。どうだい?」

「……やけに安いな。三つもらおう。」


 イステルは銀貨一枚と銅貨二枚を渡し、串焼きを受け取った。兜を少し上げ、肉にかぶりつく。


 フォレストボアは森に棲む魔物で、脂肪が少ない。そのためジューシーさは控えめだが、旨味はしっかりと凝縮されている。


 肉を味わいながら、イステルは店主に尋ねた。


「すまない。この辺りで、安く馬車を借りられるところはないか? リンドウ平原まで行きたいんだが。」

「リンドウ平原? あー、今の時間だと、ちょうどみんな出払っちまってるな。

 二十分くらいすれば次の馬車が来るだろうけど……高いのばっかりだよ。」

「そうか……いくらくらいだ?」

「そうだな。リンドウ平原までなら、銀貨八、九枚ってところかな。」


 イステルは思案した。実は、宿にほとんどの金貨を置いてきてしまっている。


 串焼きの代金を差し引くと、手持ちは金貨三枚、銀貨五枚、銅貨二十四枚。決して余裕があるとは言えなかった。


「……まあ、目的地までは持つか。ありがとう、助かった。」


 礼を言い、イステルは馬車を待った。串焼きを食べ終え、数分後に馬車が到着する。中から五人ほどが降りていった。


 イステルは馬車に乗り込んだ。料金は銀貨八枚。車内には、すでに一人の客がいた。


 茶色のフード付きローブを身に纏い、隅に腰掛けている。顔はフードに隠れ、よく見えない。だが、イステルはこの人物に、妙な違和感を覚えた。


 やがて馬車は出発し、リンドウ平原へ向かう。到着までは三時間ほど。車内には沈黙が流れていた。


「……一人旅ですか?」


 ローブの人物が話しかけてきた。男にしては、やや高い声だ。


「……ああ。そのようなものだ。そちらは?」

「私は仕事でね。重要な任務なんだ。」


 その瞬間、ローブの人物は懐から玉状の物を取り出した。イステルはそれを見て、咄嗟に馬車から飛び降りる。


 直後、馬車は白煙に包まれた。煙玉だった。


「……刺客か。」

「……さすがだな、元王国騎士。イステル・ローズブラッド。」


 白煙の中から、敵が拍手をしながら歩み出てくる。イステルは即座に剣を抜いた。


 その時、相手の顔が見えた。白髪に黒い瞳の女。


 そして、周囲に広がる白煙。その光景が、イステルの知る“ある情報”と結びつく。


「……白髪に黒目、そして白煙。お前は“白煙のグルーシャ”だな?」

「お、正解。」


 白煙のグルーシャとは、煙玉と短剣を使った暗殺を得意とする女だ。殺しの後に残るのは、白煙と破片のみ。国家ですら捕縛できていない、凶悪な暗殺者だ。


「……なぜ、俺を狙う?」

「アンタさ、恨まれすぎなんだよ。正義の味方でも気取ってた?余計なことに首を突っ込みすぎたんだ。」

「……王か。」

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