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緋色の英雄  作者: 若葉
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なぁ…お前、何か隠してることはねぇか?

 翌日、イステルはギルドを後にした。当然怪我は良くなるはずもなかった。駆け足程度ならできるが、戦闘は難しいレベルの怪我である。イステルはそのまま宿へと向かった。


 宿にはストックがいた。ストックはイステルを見るなり手を軽く振って挨拶をした。


「よぉ、怪我の具合はどうだ?あれから付近を捜索したんだが、それらしき魔物は見当たらなかった。一応住民には警戒するように報告はしてある。それにしても、お前を追い込む魔物なんてこの近くにいたんだな。」

「…あぁ。実に、手ごわい魔物だった。面倒をかけてすまない。」

「フン、俺としては、もう少し寝込んでて欲しかったがな。せっかくのチャンスを無駄にしちまった。まぁいい、俺は依頼を受けに行く。どうせまだ絶対安静だろ?少しの間ゆっくりしてろや。」


 ストックはそう言ってギルドへ向かっていった。イステルは宿の裏庭へといった。イステルは裏庭の五か所に丸太を設置した。イステルは中央に立ち、ゆっくりと剣を抜いた。緋色の刀身が、太陽によってより一層輝いている。


 イステルは次の刹那、全速力で丸太を斬りかかった。五本の丸太を斬るのにかかった時間は六秒といったところである。イステルは大きくため息をついた。


「…遅い。」


 イステルの剣は、以前よりもはるかに遅くなっていた。怪我が直接的な原因ではない。強敵と戦うことが少なくなり、感覚と体が鈍ってしまっている。これでは、次にロールコンが来ても勝つことは難しい。イステルは剣を鞘に納めた。


「…久しぶりにやるとするか。」


 イステルは次に、森へと向かった。森には大きな岩が一つと、木々が広がっている。イステルは宿からヘビニウムで作られた棒を持ってきた。これはとても頑丈で重い金属である。これといって他には鋼と性質はほとんど変わらない。ただ、何よりも重いのが最大の特徴である。つまり、剣の修行には最適な練習用具なのである。


 イステルは可能な限り全速力で棒を岩に叩きつけた。岩に棒が当たる度に轟音があたりに響き渡る。初めはただの素振りであった。そこからだんだんと速度を上げていき、さらに打ち方を変えていく。やがては息をつく間もない速度で打つ。これを体力が切れるまで行う。体力が切れたら十分ほど休憩し、また再開する。この動作を一日中行った。


 ◇◇◇


 やがて、日が落ちてきた。イステルはようやく棒を振る手を止めた。棒から手に伝わる衝撃で、手が震えてしまっている。加えて全身の筋肉が悲鳴を上げている。息が上がり、全身に暑さを感じている。以前なら軽々とこなしていた修行だが、今はすっかりと体が衰えてしまっている。イステルはこの現状に不満を感じていた。


「体力も落ちている。一刻も早く戻さなくては。」


 イステルは酷い疲労感に襲われながら、宿に戻った。すぐに風呂へと入り、その日は寝た。特に悪夢を見ることもなく、何の夢も見ることはなかった。


 翌日、イステルは走っていた。常に一定の速度で集落の外壁を走り回る。朝から晩までこれを繰り返す。筋肉痛が酷くなるが、そんなことはお構いなしに続けた。流石に一日休んだだけでは疲労感がなくなるわけがなく、この日は常に息が上がっていた。


 さらに翌日、一日目の修行と同じことをした。今回は走りながら木々に木刀を当てていく。指定した数の木を叩き、時間内にゴール地点まで走る。ルールは単純だがこれが難しい。少しでもミスがあれば時間がかかってしまう。速さと正確さの両方を兼ね備えなければ記録を縮めることは難しい。イステルはまたも、これを一日中続けた。


 四日目に入ると、イステルはかなり回復していた。イステルはギルドへ行って依頼を受けた。今日の獲物はBランクのアイスライノである。名前の通り、氷を身に纏ったサイの魔物である。この魔物は視力がとても低く、目に入る動くもの全てに突進をしてくる。効率よく倒すには、アイスライノの視界に入らずに攻撃するしかない。


 イステルは今日、敢えてアイスライノの視界に入った。アイスライノはイステルに向かって突進をしてくる。イステルはアイスライノの突進を全身で受けとめた。アイスライノの体重が乗った突進を受け、かなり遠くまで飛ばされてしまった。イステルは素早く受け身をとり、もう一度突進を受け止めようとした。


 それから一時間近く経ち、イステルはようやくアイスライノを討伐した。この日以降、イステルは暫くの間、アイスライノのみを狩るようになった。冒険者たちもイステルの行動に疑問を抱えていたが、特に追求しなかった。しかし、唯一ストックだけはBランクの依頼を受ける回数が増えていたことを、誰も知りはしなかった。


 アイスライノを討伐し始めてから三日後、イステルは食堂にいた。今日のイステルの食事はフォレストボアのステーキである。この雪原の地域ではフォレストボアの肉は珍しい。たまたま食堂のシェフが期限の近いものを格安で売っていたのである。イステルがステーキを頬張っていると、そこにストックが現れた。


「なぁ、ちょっと話いいか?」

「…どうした?」


 珍しく真剣な顔つきで話しかけてきたストックを見て、イステルは警戒した。ストックはゆっくりと椅子に腰を掛け、ワインを注文した。ジョッキに注がれたワインを見て、ストックは微笑を浮かべた。


「…なぁ、一つ聞いていいか。」

「…なんだ?」


 ストックは大きく息を吸った。イステルもその様子を見て息をのんだ。そして、ストックの口から言葉が放たれた。


「なぁ…お前、何か隠してることはねぇか?」

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