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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

一番悪いのは誰でしょう?

作者: 柚希 幸希

さて問題です。

天罰が最も当たるべき人は誰でしょう?

一番かわいそうなのは?

そして、誰が一番の策士だと思いますか?

 何もかもが理想通りに、進んでいるはずだった。

 直属の上司である課長との不倫がバレて、その日のうちに退職となった。

 ラッキーだったのは、自己退職扱いとなり、退職金と手切れ金までもらえるということ。

 なぜなら課長の奥さんは、社長の娘であり会社の専務だったから。

 仕事上の関係で結婚してからの3年間、身内以外には秘密にしていたらしい。

 そんなこと知らなかった、私は彼にだまされたと泣いてみせたら、多めにくれたのだ。



『すべて計画通りだよ。私、クビになっちゃった』

『おつかれさん。こっちもうまくいった。あのプロジェクト、うちの会社が担当することになったよ』


 この言葉を最後に、智哉(ともや)とは連絡がとれなくなった。



 智哉の住んでいたアパートに行くも、すでに引き払われていた。

 彼の会社に行き、受付で社長に取り次ぐようお願いするも冷たくあしらわれ、警備員には不審者よりも雑な扱いをされた。

 それ以降、ビルにさえ入れてもらえない。

 しかたがないので会社の外で見張っていると、見慣れた高級車が姿をあらわす。

 運転席には智哉。

 そして。

 私の指定席である助手席には、知らない女性が座っていた。

 


 とりあえずアパートに帰り、中学からの下僕(げぼく)に智哉の個人アカウントを探させ、内容を確認した。

 写真とともに、近々結婚すると書いてある。

 幸せそうによりそう智哉と映っているのは、私ではなく、さっき助手席に座っていた女性。

 智哉の取引先で、最も権力のある会社社長の、一人娘であるらしい。

 半年前に社長の紹介でお見合いをし、意気投合して3カ月前に婚約していたと書いてある。



 つまりは。

 この3か月間、私は騙されていた?

 すぐさま、智哉の裏垢を見つけ出してもらい中を見ると、信じられないことばかりが書いてあった。


『あの会社に勤めている女をゲット。そいつの上司は運のいいことに、あのプロジェクトの最高責任者だった。オレ、ツイているかも? 』


『頭が悪いらしく、プロジェクトの事は何も知らないらしい。オレ、人選間違った?』


『結婚ちらつかせたら、協力してくれるんだと。チョロ! なんでも、あの課長がいつも、目の敵のようにして小言ばかりを言ってくるから、ウザくて仕方ないんだと。 まあ、お前ほど使えないのが部下なら、誰もが文句の一つも言いたくなるわ』


『飲み会だったらしい。あの課長にしこたま飲ませ、ラブホに連れ込んで、睡眠薬入りの水まで飲ませるとか、ヤバくね? しかも寝てしまった課長を素っ裸にした後で、お互い裸になってベットに寝転んだところを自分の顔が映らないように写メとるとか、やることえげつなー。『あのクソ上司とは、寝てないからね』って念押ししてきてキモ! ていうか、手慣れてる? ナニこの女!  俺、そこまで頼んでないのに。でもこの写真は使えそうだから、大事に持っておこう』


『会社のあちこちにあの写真を貼っといたって、すごくね? ナニ勝手にそこまでしてんの? 軽率すぎないか? そんなにしてまで俺と結婚したいの? オレ、バカな女は勘弁なんだけど。 あいつ、自分がバカなのわかってねーのかな? 』


『あの会社に匿名で例の写メを送ったら、うちに決定した。契約も交わした! サイコー! あの女、どうすっかな? 見た目だけはいいし体の相性もいいから、キープしておきたいんだけど、バカだしな! 』


里恵(りえ)との結婚を社長が許してくれた。優秀な融資先ゲット! あの女、もったいなけど捨てないといけないな。 今回の事がバレるとしたら、あの女からだろうし。 あいつ、バカだから』


 記録は、ここまでで終わっていた。

 つまり、私は騙されていたどころか、利用され、ポイ捨てされたってこと? 


 今度は里恵という、クソ女のアカウントを探してもらう。

 表向きのアカウントには、結婚が決まったとの報告、それと同時に変な女に困っているとも書いてあった。


「はあ~? この変な女って私の事? ふざけんな! パパの権力と財力でしか、男に相手にされないドブスのくせに! 」


 ついでに裏垢(うらあか)も見つけたと連絡があったので、そちらものぞいてみる。


『智哉との結婚、パパがなかなか許可してくれない。なぜ?』


『やったー! あの会社の契約を智哉がとってきたら、結婚してもいいって! 智哉には頑張ってもらわないと! 』


『競争相手の担当者が、かなりの曲者で手ごわいんですって。 もし契約が取れなかったら、結婚はどうなるの? 友達に自慢した手前、後には引けないんだけど? 』


『智哉が、利用できるバカ女をゲットしたって言ってた。早くどうにかしてよね! 』


『結婚をちらつかせたら協力するとか、ホントにバカな女! 分厚い化粧でごまかしただけの、ドブスなだけあるわ。男ウケばかりを狙ったような見た目も中身も下品なバカ女、私たちのためにせいぜいがんばりなさい! 』


『あのバカ女、とうとうやっちゃったよ! でもこの写真、女の顔が分からないわね? あの会社にせっかくだから、匿名で誰だか伝えとこっと。そしたら智哉の会社に決めてくれるよね? 』


「お、お前かーーー!! 」


 顔が映っていないあの写真で、何故すぐに女が私だとバレたのか?

 実はずっと、謎だったんだよね?

 それにしても2人してバカ女! バカ女って!

 怒りが収まらないまま、私は情報収集をさせた人物を呼び出した。


「遅い! いつまで待たせる気?」


 呼び出したのは、中学の時からずっと友達でいてあげている、野崎 美憂(のざき みゆ)

 頼めばすぐに何でもしてくれる、とても都合のいいヤツだ。


真理子(まりこ)に頼まれたものを買っていたから、遅くなったんでしょう? 」


 大きな買い物袋を両手に持って、恨めしそうな目で私を見ながら、部屋にはいってきた。


「口答えをしないで! 中学の時から何度も言っているでしょう! それよりお腹が空いているんだから、さっさとテーブルに出しなさい! 」


 美優がテーブルに並べている食料を乱暴に手掴みすると、かたっぱしから口の中へと放り込んでいった。

 人のお金で食べるご飯は、いくら腹が立っていてもおいしいものだわ。


「真理子。今日はいつも以上に、荒れているわね」


 タブを開けた冷たいビール缶を私に差し出しながら、美優は遠慮がちに聞いてくる。


「そうなのよ! 私、だまされたの!」


 乱暴にビール缶を受け取り一気に飲み干すと、今までの事をすべて教えてあげた。


「ね? ひどい話でしょう、私、利用されて捨てられたんだよ! あのクズ共に! 」


 感極まり、両手でテーブルを力いっぱい叩いてしまった。

 皿や缶がぶつかり、ガチャガチャと耳障りな音を立てる。

 

「ぜーったいに許さない! あいつらに地獄を見せてやるの! 美憂、なんかいい方法ないの? 」


 次から次へと怒りがこみ上げてくるのだが、どうしていいのかが分からない。

 悔しくて気が狂いそうだわ。

 あんなやつら、苦しんでみじめにのたれ死んでしまえばいいのに!

 この私を利用してぼろ雑巾のように捨てたんだもの、それくらい当然だよね?


「えっと、この話、知ってる? 」


 頭を抱えながら、髪をぐしゃぐしゃにかき乱す私に、美優がある話を教えてくれた。

 小さい頃に、お祖母さんに聞いたという昔話を。


 この地域には、さびれた小さな神社があり、そこには池がある。

 その池は、昔から水死体がよく発見されるために気味悪がられ、水が濁って中が見えないので、底なし沼だと言われている。

 危険視されているために、あまり人がよりつかないことでも有名な場所であった。

 そんないわくつきな池の、すぐそばにあるという(ほこら)の前で、0時ちょうどにお願いをした後、願いごとを紙に書いて池にしずめると、水神様が願いを叶えてくれるという。


 ただし。

 水神様にお願いを聞いてもらうためには、いくつかの手順を踏まなければならない。

 まず、池のすぐ近くにある祠に、花びらが4枚あるドクダミの花を6本お供えし、願いごとをする。

 次に願いごとを紙に書き、4回折って先ほどの花をそのすきまに差し込み、池にしずめたら家に帰る。

 次の日、朝の9時に池の水面を確認する。

 お願いごとを書いた紙とドクダミの花がなくなっていれば、願いは必ずかなえられるという。


「でもひとつだけ、注意しなければならないことがあるの」


 それは、願いが叶った後のこと。

 お礼に、水神様の花嫁にならなくてはならない、というものであった。


「花嫁になるためには、一度も男性と関係を持ったことのない、清らかな女性であることが求められるわ。でも真理子は昔っから、彼氏の入れ替わりが激しいじゃない? つまり、花嫁にならなくても、願いを叶えてもらえるって事 」


 つまり。

 これって私のためだけに用意された、最高の復讐方法ってことじゃないの!

 


 早速、試してみることにした。

 まずは、4枚の花びらのドクダミを手に入れなければならない。

 もちろん美優に用意させ、願いごとに何を書いてやろうか、あれこれと考えた。

 文章ももちろん、美優に考えさせた。

 私の文章力じゃ、神様に分かってもらえるかどうかわからないし。

 とても充実した、楽しい時間だった。


 夜。

 アラームが鳴ると、0時に間にあわせるうように急ぎ足で、例の祠に一人で来た。

 怖かったけど、美憂が言うには、この儀式は誰かに見つかると、やり直しになるらしい。

 手にもっている懐中電灯の明かりをたよりに祠にたどりつくと、花をそなえてお願いをした。

 紙に書く内容は、すでに決まっている。


『私、辰見 真理子(たつみ まりこ)をだました中西 智哉(なかにし ともや)旗石 理恵(はたいし りえ)渡辺 拓海(わたなべ たくみ)にバツをあたえてください。ぶざまにみじめでかわいそうなのを! 』

 

 確実に叶えてもらえるように、実名を漢字で書いた。

 もっとも効果が高いらしい筆ペンを使ったので、文字がうまく書けなくて悪戦苦闘したが。

 読めるでしょう、多分。

 4つに折ると、祠にそなえた6本のドクダミの花を差し込んで、池に浮かべた。

 真っ暗で誰もいない、虫の声一つしない静まり返った場所であるためか、突然、背筋に冷たいものがスーッと走ったような気がする。

 ブルリッ! と体を震わせると、まるでその場から逃げるように、全力で走った。

 恐怖のあまり心臓がバクバクと痛いくらいに激しく動いてたのに、部屋にもどるとすぐに寝てしまった。


 次の日、朝の9時に池を見に行った。

 願いごとを書いた紙もドクダミの花も、どこを探しても見つからなかった。



 夢を見ていたような気がする。

 突然。

 まるで水のように透き通った、それでいて艶のある男性の声が聞こえた。


『願いを叶えてやろう。そやつは、お前をだましたのか』


『ええ、そうよ』

 

 私が男の問いに答えると。


『わかった』


 確かに、そう聞こえたのである。

 


 あの儀式をしてから4日後。

 これといって、とくに何もない日が続いていた。


「頭にきすぎて勢いでやったけど、本当にあいつらに(ばち)があたるのかしら? 」


 冷静になってみれば、意味のないことをしたかも? 何やってんの私、これもみんな美優のせい・・・と思っていたのだが。


「え?」


 夕方、テレビをぼんやりとみていた時である。


『◎◎会社の社長、△△会社のプロジェクト内容をライバル会社へ流出か! 』


 という見出しが、目に飛び込んだ。


「確か◎◎は、智哉が作った会社よね? 社長が情報もらしたってコレ、智哉の事?  △△会社って例のプロジェクトの会社じゃん! 」


 どうやら、△△会社は智哉を告訴するらしい。

 この件による損害は、数百億円にものぼるもので、智哉の会社はかなりヤバイのだとか。

 しかも、押しかけて来たマスコミから逃げるために、あの高級車で逃走。

 その際に運転を誤って事故を起こし、救急車で病院に運ばれ、現在植物人間状態であるとアナウンサーが言っている。


「え? コレ、もしかして私の願い、叶った・・・? 」


 心臓がバクバクしている。

 神様が、水神様が私の願いを聞いてくれた?

 その後落ち着くために、お風呂に入っていると。


 突然、あの男性の声がしたのだ。


『願いは叶えたぞ』


 と。

 でも。


『いえ、まだ叶っていないわ。あの女がのうのうと生きているじゃない』


 私の願いは、まだ完全に叶っていない。


『その女は、お前をだましたのか?』


『ええ、そうよ』


 私が男の問いに答えると。


『わかった』


 確かに、そう聞いたのである。



 その日から、6日後。

 この前と同じ、夕方にテレビをぼんやりとしてみていると。


『××株式会社、倒産 』


 という見出しが目に入った。


「確か××株式会社って、あの女の? えっと、負債額が大きすぎて夜逃げをしたのか、一家そろって行方不明? プッ! あれだけ私を馬鹿にしていたくせに! 惨めですねお嬢様、ザマアミロ! 」


 嬉しさのあまり、テレビに向かって中指を立ててしまった。

 その後、お風呂に入っていると。


 突然、あの男性の声がしたのだ。


『願いは叶えたぞ』


 と。

 でも。


『いえ、まだ叶っていないわ。あの男がのうのうと生きているじゃない』


 私の願いは、まだ完全に叶っていない。


『その男は、お前をだましたのか?』


『どっちかというと、私がだましたのかも? でもあの男のせいで、私は仕事をなくしたのよ? 天罰が下って当然よ! 』


 私が男の問いに答えると。

 

『では、(にえ)をもらう』


 今回はいつもと違う、腹の底から響くような低い声で、聞いたことのない答えが返ってきた。


「え?それはどういう・・・」


 突然、身体が勝手にブルリッとふるえた。

 と、同時に言葉にならない漠然とした不安が、一気に押し寄せてきて来たかと思うと、呼吸すらままならないような感覚に襲われる。


 バチッ・・・。

 

 という大きな音と共に、お風呂場の電気が消えた。


「寒い・・・」


 浴槽の水が、どんどん冷たくなっていく。

 体の芯まで凍りそうなほどの冷たさに耐え切れず、浴槽から出ようとした、その時である。


「キャッ! 」


 ズブズブズブ・・・。


 突然、両足をものすごい力で引っ張られた。

 そのまま浴槽の水の中へ、どんどん引きずり込まれていく。

 

「そんな、こんなに深い浴槽なわけ・・・グブブブ・・・」

 

 さらに全身が水の中に入り、底へ底へゆっくりと引きずり込まれていく。


『助け・・・て・・・』


 口の中の空気が、暗い暗い水の中で泡となって、上へ上へと昇っていくのをただ眺めながら、意識が遠のいていった。



 次の日。

 願いを叶えるというあの池に、水死体があがった。

 それは、人であったかを確認するのが難しいほどに引き裂かれ、バラバラになった体は皮一枚で繋がっているだけで、骨があちらこちとむき出しであるという、見るも無残な姿であったらしい。

 その後、DNA鑑定で女性であることが判明し、現在は身元を調査中である。



 最近、真理子から連絡がこない。

 中学時代からずっと、呼びつけては奴隷のようにこき使う、嫌な女だったけど、見ているだけなら面白い。

 あの性格の悪さで、友達も恋人もみんなすぐにいなくなるから。

 

「そういえば・・・」


 ふと、前回真理子に教えてあげた、例の話を思い出す。

 

「そういえば、願い事を(たが)えたら、問答無用(もんどうむよう)(にえ)になるって、伝えたっけ? 」


 何か、思う所があったのか。

 

 フッ、ウフフフフ・・・。


 楽しそうな思い出し笑いだけが、ワンルームの部屋の中で響いていた。



ドクダミの花言葉は「自己犠牲」

つまり、自分を犠牲にして神様に4・6・4・9(四六四九)お願いしていますよね?

では、花嫁になってしまったら、どんな運命が待ち構えているのでしょうね?

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