天使の規約違反
剛の言ったことを聞いて、あゆみは「うわぁ」と叫んで剛に殴りかかったのだが、すぐに腕をつかまれ、
そのままソファーに押し倒されてしまった。
そして、剛はあゆみの体に馬乗りになり乱暴に服を脱がそうとしていた。
「何するのよ。もう嫌だってぇ。止めないと声上げるからね」
「やってみろよ。誰も声あげたって助けにこねぇからよ。だってこの店は兄貴から俺が仕切りを任せてるからな」
それでも、あゆみは必死に抵抗を見せて、「誰か、助けてぇ」と大声を張りあげた。
すると剛は、その声を消すために、あゆみの喉に手をかけた。
このままでは、あゆみが危ない。
いったい、僕はどうすればいいのだ。
僕は、何とかしなければいけないと思い、気がつくと、やってはいけないカンパニーの規約に反する事を犯してしまった。その行為とは、剛の体に憑依してしまったのだ。
剛の体に入った瞬間に、僕の体は引き裂かれそうな痛みに襲われる。
それは、恐らく、剛の心と邪悪なカルマが僕という異物を排出しようと抵抗しているのだと思われた。
僕は痛みと戦いながら、必死に剛の体を制御するのに努めた。その甲斐あってか、数分もしないうちに、剛の心をある程度押さえ込むことに成功したのだった。
しかし、初めて行ってしまった憑依なので、どれくらいの時間持つのか想像すらつかない。
ただ、分かっているのはそんなに長い間憑依が続けられないということだった。
それは、僕自身の体力の著しい消耗から伺い知れるからだ。とにかく、早くあゆみを逃がさないと、いつ憑依が解けてしまうか分からない。
僕は、剛の体を操りながら、あゆみの首にかかった手を払いのけさせた。それから、あゆみの体から離れて、「早く逃げろ」と叫んでいた。
あゆみは、最初、突然の剛の変化にきょとんとした表情をしていたが、ただならぬ気配を感じたのか、すぐに「あなた、一体誰よ? 剛と感じが違う」と僕によって憑依された体に聞いてきた。
僕は、痛みと戦いながら「いいから、早くここから立ち去れ!」と叫んでいた。
その声を聞いて、あゆみは「うん。誰だか分からないけど、ありがとう」と言うと、室内から急いで飛び出していった。
僕は、あゆみの気配が消えるのを確認してから、剛の体から抜け出した。
剛は、僕に憑依された後遺症からか失神してしまいソファーに倒れこんでいた。
僕は、そんな剛の姿を見て、咄嗟の事とはいえ、とんでもない事をしてしまったと自らの行為を反省した。
どんな事情があったにしろ、カンパニーの規約に反してしまった。とにかく、規約に反してしまった事を上司のチョビン部長に報告しないといけないのだった。
そして、僕は店から出ると、チョビンさんに報告するために一旦、カンパニーに戻ることにした。
カンパニーは天界にあるため、上空に向かって飛ばないといけないのだが、先ほどの憑依のダメージの為か、うまく飛ぶことが難しくなってしまっていた。
それでも、僕は残りの力を振り絞ってカンパニーに向かったのだった。いつもより、三倍近くの時間をかけてカンパニーに戻ると、チョビンさんが、心配そうにカンパニーの玄関先で僕を待っていてくれた。
すぐに、チョビンさんは、僕の体の異変に気づき駆け寄ってきてくれた。
「有紀、一体何があった?」
「す、すみませんチョビンさん。僕は規約を破ってしまって……」
「とにかく、話は後だ。今は休息をとれ」
そう言うと、チョビンさんは、小さかった体を変化させ、僕よりも一回り大きな体に変わると、僕を背中に抱えて自室まで運んでくれた。僕は体力を消耗していたためにチョビンさんの背中で眠りについた。
気がつくと、僕は自室のベッドで目を覚ましていた。
「おお。だいぶ顔色がよくなったな」




