薬物依存
目で探しても埒があかないと思ったので、気であゆみの姿を感じることにした。
すると、VIPと書かれた四方を壁で囲まれた個室からあゆみの気を強く感じることが出来たのだ。
なるほど、いくら目で探しても見つからないわけだと納得しながら、僕は壁をすり抜けて室内に入った。
部屋の中には、あゆみと見知らぬ男が、ソファにー腰を深く落としカクテルで乾杯している姿があった。
「これ、手に入れるの苦労したんだぜ!」
顔のあちこちにピアスをした男性が、ポケットから袋に白い粉末の入った物を自慢げにあゆみに見せていた。
「ねぇ、剛。どうやって手に入れたのよ」
あゆみは興味津々で袋に目をやりながら男性に詰め寄っている。
なるほど、先ほど、あゆみに電話をかけてきたのは、この男性だとその時思った。
剛はあゆみの彼氏なのだろうか? と少し僕は嫉妬めいた気持ちになってしまう。
だが、そんな事を考えても実体の無い僕には無縁なことも同時に覚えてしまう。
「兄貴から、買ったんだよ。なんでも最高にトリップできるそうだぜ。これ使ったら、おまえが前から言ってたピーターパンのように空を飛べるんじゃないか。それと、大好きな死んじゃった彼氏とも逢えるかもな」
剛の放った言葉に僕はハットした。もしかして、あゆみが薬に依存するようになったのは……。
また、僕は目頭が熱くなってしまった。それと、ピーターパンの事も……。
僕は剛の言った事をきっかけに、三年前のあゆみにプロポーズした夜のことを思い出していた。
そう、あの夜はちょうどクリスマスイブの日だった。
その日は、少し早めの夕食をあゆみと一緒にとってから、前から彼女が行きたがっていたディズニーランドに向かったのだった。ジャケットの右ポケットに婚約指輪をしのばせて。
そして、アトラクションをいくつか回った後に、シンデレラ城の広場で、その日最後のショーを見たのだった。
そのショーで盛大な花火をバックにピーターパンが優雅に空中を泳いでいた。
あゆみは、目を輝かせながら彼の姿を追っていた。
僕は、あゆみの肩を抱きながら「いつか一緒に空に飛べたらいいね」なんて事を口にしたのだった。
それは、とてもロマンチックな夜であって、僕はその後、あゆみにプロポーズしたのだった。
それからというもの、あゆみは口癖のように空を飛んでみたいと言う様になった。
そんな、思いにふけっていると、あゆみが剛に薬をせがんでいる姿が素敵な思い出をかき消してくれた。
「ちょうだいよ。それ」
あゆみは、剛から袋を奪い取ろうとしたが、そう易々と剛も袋を渡すわけもなく、あゆみの手は空振りを見せていた。
「ダメだよ。そんな簡単にやれるわけないよ。相場はグラム3万だ」
「あたし、そんなお金持ってないよ。いつもの値段で分けてよ」
「だったらよ」
剛は、そう言いながら、あゆみのミニスカートに手を伸ばした。
「ちょっと、何すんのよ! 一回寝たぐらいで、彼氏づらすんなよ。汚い手で触らないで」
あゆみは、目をつり上げさせ剛の手を払いのけると、汚い言葉で罵った。
すると、剛はいきなり、あゆみのほっぺたに平手うちをした。
「何言ってんだ。このアマぁ。現に、のこのこと店にまで来たのも薬が欲しくてたまらないのだろ? どうせ、薬が切れたら、前みたいに何でもしますってお願いしてくるのじゃないのかよ!」