フィアンセだった。あゆみ
「ところで、有紀、昇級祝いの休暇はどう過ごすんだ。確か三日あったよな」
「はい。明日から三連休です。ひさびさに気になる人のところに行って、見守っていたいと思ってるのですよ」
「気になる人って?」
チョビンさんは興味があるのか、体を前のめりに乗り出して聞いてきた。
「あゆみって名前の人なんですけど。僕の生前の婚約者だった人なんですよ。事故で僕が突然いなくなったものですから、どうしてるのか気になって仕方ないのですよ」
「あぁ、なるほど、前に有紀が話してくれたピーターパンのようにお空を自由に飛ぶのが夢だって言っている女の子だね」
「ですです」
僕は、まもなくあゆみの姿が見れると思うと、自然とチョビンさんに話しながら口元が緩んでしまう。
「そっかぁ。それは気になって仕方ないよな。じゃ、これから彼女のところに向かうって訳だ。ちょうど、明日はクリスマスイブでタイミングがいいし、有紀にとってはいい休みになりそうだな。ただし、カンパニーの規約に背いていけないよ。分かっていると思うが、有紀はもう下界には存在していない状態だから、あゆみちゃんの人生には干渉しちゃいけない。あくまで見守ってるだけだからね。一応、心配だから、最初だけ俺もついていってやるよ」
「分かってますよ。で……なんでついてくるのですか。ただ、チョビンさんが僕の彼女を見たいだけじゃないですか! 心配いりませんよ、一人で大丈夫ですから」
僕は思わず、チョビンさんにつっこみを入れていた。
「エヘヘ、ばれたか。しかし、これは上司の業務命令だからな。ついて行くといったらついて行く。いや、冗談抜きで言うと、実際に彼女に会うと心が揺らいでしまう事があるんだよ。間違いがあったら手遅れになる事例も過去にあったので、最初だけお供させてもらうよ」
都合が悪くなるとすぐに上司の顔を出し「業務命令だ!」という十八番が飛び出すのだけど、チョビンさんの言うことも一理あるので、僕は仕方なく一緒にあゆみのところに向かうことにした。
僕達は都会の喧騒の中を高速で浮遊飛行しながら、あゆみを探していた。
隣で飛んでる部長は、寒さの中、元々小さい体をさらに縮こませている。
なんでも、天使を長くやってると体は小さくなっていくそうだ。
「有紀の彼女もカルマが少ないはずだから探すのは簡単だと思ったが、なかなか見つけられないね」
「ですよね。僕が生きてる頃のあゆみは、とても気配りの出来る優しい子だったので、すぐに見つかるはずなんですけど……」
しかし、僕達の予想とは違い、それから二時間探しまわってもあゆみは見つからなかった。
「ここまで、見つからないとすると……。もしかしてあゆみちゃんはカルマに……」
チョビンさんが気になることを言いだしてきた。
「なぁ有紀、ちょっと探し方を変えてみようか。悪いとは思うけど、人ってのは短期間に変わるものだしな」
「いえ、気にしないで下さい。チョビンさんの言うことはもっともだと思います。次からはカルマの気も含めて探して見ます」