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ピーターパンのように。

 僕の言ったことに対して、あゆみは完全に言葉を失ったようだった。


「死んだはずの俺がここにいる詳しい理由は説明できないけど、俺はあゆみに薬をやめて欲しいんだ。このままでは愛しているあゆみが廃人になってしまう姿なんか見ていられない。だから、俺の為だと思って薬をやめてくれ」


「そんな事、急に言われても信じられるわけないじゃん。それに、あたしにしたら、何をいまさらって感じなのよ。それに、もし、本当に有紀だとしたら、あたしがどんな気持ちで有紀の死を受け入れたと思ってるのよ。もう、有紀が突然いなくなって、寂しくて、寂しくて……。薬をやったのも、幻覚で有紀に逢えたからなの。せめて、幻覚でもいいから、有紀に逢いたいと気持ち、分かるわけないでしょ」


 


 そういい終わると、あゆみは泣き崩れてしまった。


 僕は、あゆみの姿を見ていたたまれない気持ちになってしまう。


 そして、あゆみの肩を抱いていた。


「なぁ、あゆみ。夢が叶ったら、薬止めることって出来ないかい?」


「夢って」


 あゆみは嗚咽を漏らしながら聞き返してきた。


「ほら、ピーターパンのように空を自由に飛びたいって言ってたじゃないか。もし、その夢が叶ったら、薬を止める努力をして欲しいんだ」


「あなた、もしかして、ほんとに有紀なの?」


 あゆみは、僕の言葉を聞いて、少し信じてくれてるような素振りを見せてくれた。


「でも、いくら有紀だとしても、空なんか飛べるわけないよ。もし、叶えてくれたら薬を止めれるかもしれない。だって、これからは、その夢で生きていけそうな気がするもん」


「本当か、あゆみ。だったら、今から空を飛ぼう。さぁ、そこにある上着を羽織って、しっかり防寒するんだ。上空は物凄く寒いからさ」


 僕は、そう言って、あゆみに剛が投げ捨てた上着を渡していた。


 あゆみは、半信半疑で上着をきた。


「それじゃ、あゆみの夢を叶えに行こうとしようじゃないか」


 僕は、あゆみの手を強く握ると、彼女をアパートの外に連れ出した。


 そして、彼女の背中から腰に手を回して空に上る準備をした。


 



 あゆみは、これから始まることに緊張しているのか、回した手から、胸の鼓動が伝わってくる。


「じゃ、行くよ!」


「うん」


 僕は、精神をコントロールして少しずつ、あゆみと一緒に空に舞い上がっていった。


 二人で飛ぶのと、剛の体のためか、物凄い負荷が精神コントロールの邪魔をしてくる。


 


 でも、そんなことも、あゆみの「わぁ、凄い綺麗だし素敵」という声を聞いたので我慢できるってものである。


 上空高く、舞い上がった僕とあゆみの視界の下には、街のイルミネーションが冬の空に見事に映しだされ、幻想的な夢の空間をつくりあげてくれていた。


「なぁ、あゆみ、どこに行きたい」


 あゆみは、少し悩んでから、シンデレラ城と答えていた。


「よし、分かった。じゃ、もっと飛び易いように両手を前に広げて」


 僕は、あゆみに万歳のポーズをさせると、ディズニーランドに向かって北の方向に飛んだ。


 ディズニーランドに向かってる間、僕達は、無くしていた時間を取り戻すように、いろいろな話をした。それは、とても幸せな時間であってして、このまま、永遠に続けばいいと願いたいものであった。


 しかし、そんな幸せな時間も長くは続いてくれなかった。


 それは、シンデレラ城が目前に見えた時ぐらいから、僕の体に異変が生じ始めたからである。


 それは、激しい胸の動悸を伴って、僕に襲いかかってくるものだった。


 やはり、他人の体に憑依して、飛行するのには無理があったのである。どんどんと体から熱を奪い去り体が冷えてきて、全身が痛みだしてきたのだ。それでも、僕はあゆみに楽しい時間を過ごしてもらうために我慢して飛び続けた。しかし、ディズニーランドを一周した時には、僕の体力はほとんど残されてなく、飛んでる高度がみりみる下がっていくのだった。このままでは、完全にコントロールを失い、あゆみもろとも、墜落してしまうので、僕はやもえず、人気のいない場所に下りることにしようと思ったのである。


 そして、少しずつ高度を下げていた時に、前方から、凄い速度で迫ってくるものが現れた。


 目を凝らしてよく見ると、それはチョビン部長だった。


 


 僕は、それが妖精のティンカーベルだったら、どれだけ良かったことかと思うのだった。


「おーい、有紀。もういいだろう。早く地上に降りろ。でないと、お前そのものの存在が消滅してしまうぞ」


 しかし、僕にはチョビンさんの声を聞いた時から、体力に限界が来てしまい、完全にコントロールを失うところであった。


 だから、地上に自らの意思で降りるというよりは、墜落といっていいほどに、急角度に地面に向かっていたのだ。


 「もう、ダメだ」と思った時、僕の体はふわっと浮いて、バランスが元に戻った。見ると、隣でチョビンさんが苦しそうな表情をして、僕達の体を支えてくれたのだった。


 そして、そのまま、サポートする形でチョビンさんは、僕達を地上に降ろしてくれた。


 地上に降り、肩で息をする僕にチョビンさんは激しく叱責してきた。


「有紀、お前はとんでもないことをしてしまったな。いいか、勘違いするなよ。お前を地上に無事降ろしたのは有紀のためじゃない。お前が憑依した体の持ち主とあゆみちゃんの為だ」


 僕は、素直にチョビンさんの言ったことを受け入れるしかなかった。


「それとな。先ほどCEOと有紀に処罰が決定されたから、報告しておく。有紀、お前をカンパニーから解雇する。それと、もう一つ……」


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