八番艦 「機械の母(マザーマシン)」
<前回のあらすじ>
ストルハーヴァン軍港に着いた碧とエノアはラーティスに案内され、第一造船工廠に入った。そこには陸軍兵器開発局長のカイルもいた。ラーティスとカイルは碧に頼まれていた謎の装置を渡す。その謎の装置に真水を入れ、熱源を置くと何かを噴射しながら回り始めた。碧はそれを【魔法に似て非なるモノ 『蒸気機関』 】と言うのだった。
「魔法と似て非なるモノって事はこれは魔法や魔道具ではないのですか?私にはどう考えても魔法の類にしか見えないのですが…」
エノアは不思議そうに聞いた。
「確かに俺たちはただの鉄を加工しただけだしな…」
ラーティスが考え詰めた声で言うと周りの技術者も確かにとでも言いたげな顔で固まった。
「これは『蒸気機関』という気体の圧力を使った装置だ。まず大前提として水は熱してしばらくたつと沸騰して水蒸気になる。ここまでは良いよな」
「はい。至って当然な自然現象ですね」
カイルは碧の質問に落ち着いて返す。
「そう。だけど水蒸気には驚くべき性質がある。それは『元の水の体積の1700倍まで膨張する』という性質」
「先ほどの装置で説明しよう」
「熱され沸騰した水は水蒸気になる。密閉された空間で体積が膨れ上がった水蒸気はどんどん生成される水蒸気に押され細い2つの出口から勢いよく噴射される。その力で球体は回るという仕組みだ」
「なるほど…体積が1700倍…って言われてもピンと来ませんが、この光景を見ればそれも納得できますね」
カイルは衰える事なく回転する球体を見ながら言うと、それに続いて他の技術者たちも縦に頷いた。
「分かりましたよ碧様!つまりこの回る装置にオールを付けて漕がせるって事ですね!」
ラーティスは確信に迫ったようなキラキラした目で言う。
「流石だラーティス!3割くらい正解だ!」
碧は勢いのいい声で言った。
「碧様それ褒めてるんですか?」
エノアは困惑した顔で言う。
「やった!ありがとうございます!」
「ラーティス、多分そんな褒められてないぞ」
カイルは呆れた声で言った。
「いや、しっかり褒めてるよ。これを見た瞬間、利用価値を見出すのはなかなか出来る事ではないと思う。実際、別世界では当時これに実用性があるとは思われていなかったからな」
「しかしこれで船を漕ぐには力が弱すぎる。そこで…!」
碧はポケットに閉まっていた紙を取り出し、目の前の大きな掲示板に貼っていく
大量の部品の設計図に構造の解説、完成後の見本図に注意点やアドバイス、懇切丁寧に書かれた大作を皆の目の前で広げて見せた。
「皆にはこれからこれを造ってもらいたいんだ!」
皆は空いた口が塞がらない。見たことのない構造の機械の設計図、それは今まで御国の為にあらゆる物を作ってきた技術者達が燃えたぎるのに十分な燃料だった。
「これはワッt…」
「アオイ様…!」
ラーティスは碧の声を遮り、何かを堪えた声が工廠中に響く。
「これを…私達が造って良いのですか…!」
「え?あぁうん。その為に書いたんだし…」
「「「「よっしゃあああああ!!!やるぞおおおおおおお!!!!!」」」」
技術者達の50000馬力エンジンの轟音よりも大きいのではないかと思えるほどの大声が軍港中に響いた。
碧とエノアは耳を強く塞ぐ。
「おーい、まだ説明は終わって無いぞー」
碧はまだ27200馬力エンジンの轟音より大きいと思える様な歓喜の声にかき消されない大声で叫ぶ。
「あっすみません…」
ラーティスは興奮を抑え、皆もひとまず落ち着いた。
「さてと…これは『ワットの蒸気機関』。さっきの蒸気の力をより強化する為の機械だ」
「仕組みは、片方の部屋に圧力が重点されると真ん中の仕切りが動く。それに連動して上の通路が動いて圧力が加わる部屋が変更される。それが永遠に繰り返されるという訳だ」
「これを使って工作機械の作製、つまりこれを『機械の母』として使う」
「え?これを船に積むのでは無いのですか?」
カイルは首を傾げて言う。
「これは船舶用のエンジンでは無いからな。何より船に乗せるならもっと馬力があるものが要る。それを造る為の設備を造る為に造るんだ」
「造る為の設備を造る為…。ここは既に設備が整ってると思いますが…」
「ならばラーティス、この世界の鉄の加工方法を言ってみてくれ」
「あぁ…はい。鍛造と鋳造です。熱した鉄を叩いて加工するものと、鋳型に溶かした青銅や鉄を流し込んで固めるもの。この2つだと思います」
「そう、確かに今は2つだ。しかしそれだけでは足りない。その2つに新たな加工方法『切削』を追加する!」
「切削…?」
皆が聞いた事のない言葉に首を傾げた。
「簡単に言うなら固まった鉄を削って部品を造るんだ。鉄の塊を回して削る旋盤や穴あけ機などを作成し、部品の精度や強度、生産数を上げる。それに鍛造鋳造で船舶用蒸気機関を造るのは強度の問題があるからな」
「なるほど!そんな理由が」
「確かに…鉄を個体のまま削れば…」
ラーティスとカイルは碧の言葉を聞くと疑問がさっぱり晴れたのか、とても透き通った声で言った。
「それじゃ説明はこれで終わりだな。あとは任せて良いか?」
「はい!後は俺たちに任せて下さい!アオイ様のご期待に添える様な物を作ってやりますよ!」
ラーティスは自信に満ちた声で言う。周りの技術者も生気に満ちた顔で碧を見つめている。
「あとラーティス、カイル。俺に様は付けないでタメ語で話してくれないか?。俺に階級は無いし、俺の方が立場が下だしな」
碧は少し微笑んだ顔で言った。
「え…いやしかし…貴方は軍神であって…」
「そうですよ!それに少し経てばアオイ様の階級は俺達より上になるでしょうし」
カイルとラーティスは戸惑った声で言う。
「まぁ…今の俺は人だからな。機械について語り合いたいし、同じ立場で話せる友達が欲しいんだ。役職についてもプライベートの場なら問題ないだろ?」
「…わかりました!アオイ様…いや、碧!」
2人は碧の要望に納得し、固まった敬語無しで言った。
碧は2人と固く握手を交わす。
「「これからよろしく!」」
「あぁ!よろしく頼む!」
3人の男は顔を合わせ、心で何かを感じ取った。
「…あっアオイ様、もう時間です!そろそろ第二泊地に向かわなくては」
エノアは首にかけてある懐中時計を見ると慌てて言った。
「そうか。それじゃみんな!頼んだぞ!」
碧は大きな声で皆に言うと手を振りながらエノアと共に造船工廠を去って行った。
その声に大勢の技術者が声を上げ、手を振り返す。
「行ってしまったなぁ。まだ施設を全然見せれて無いのに」
ラーティスは残念そうな声で言う。
「まぁ恐らく指南でまた明日来るだろうし、これから見せれる機会はいくらでもあるさ。そんな事より今やるべき事をやってくれ」
「分かっとるわ!…それじゃ全員、作業開始だ!気張って行けよ!!」
「「「「おおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」」」」
ラーティスの掛け声を皮切りに、また50000馬力エンジンの轟音の様な歓声が軍港中に響き渡った。
誤字脱字、ここの文少し変、ここはこうした方が良いなどと思ったら是非コメントをお願いします。




