四番艦 「報告会議」
<前回のあらすじ>
異世界転移した船好き船舶工学大学生「碧」は転移した国、「レヴァンクレス皇国」に伝わる神話の軍神の話を聞く。貴方は国を他国の脅威から守る存在、軍神だと言われエルネア王国という国から我が国を守ってほしいと懇願される。船の設計と建造の権利を貰った碧はそれを引き受け、協力する事になった。
「アオイ様、こちらです」
碧は大広間を出てエゼリオンとバルドウィンと共に広い廊下を歩いていた。
(さっきは艦が造れると聞いて即決してしまったけど冷静になると不安になってきたな…。この世界の技術レベルもなんも知らないし…)
(というか自然にタメ口で話してしまったけど…軍神として振る舞うならタメ口の方が良いか…)
碧は難しい顔をしながら廊下を歩く。
「着きました。アオイ様」
3人は扉の前で立ち止まった。扉の前では近衛兵が扉を厳重に守っている。
近衛兵はエゼリオンとバルドウィンの後ろに居る碧を見て状況を理解したのか扉の方向を向く。
「エゼリオン皇帝陛下、バルドウィン宰相閣下、軍神アオイ様、お三方が御到着なされました」
胸の張った大きな声で報告し、扉を開く。エゼリオンを先頭に後ろにバルドウィン、碧が部屋に入る。本当に入っていいのかという思いが碧の脳裏に浮かぶ。
「ガタッ」
エゼリオンが部屋に入った瞬間、真剣な面持ちをした5人が一斉に椅子から起立する。重々しい空気の部屋を歩き、エゼリオンは皆が囲む長机の前に立つ。
「これは公式の場ではないから皆楽にしてくれ。アオイ様、紹介します」
「こちらがグスタフ・フォルスター陸軍大将、コンラート・ヘルベク海軍大将、軍事魔法技術研究所のイリス・カルディナ所長、陸軍兵器開発局のカイル・ローベン総局長、海軍兵器開発局のラーティス・フェイル総局長。5人は我が国の軍事を担当する最高幹部達です」
「次に皆に紹介する。このお方こそ我が国を救う為、力を貸して下さる『軍神アオイ』様である」
エゼリオンは大きな声で、しかし落ち着いた声で5人に碧を紹介する。
5人は驚きと喜びを必死に隠した顔で碧を見つめる。
(いやだから軍神とかじゃないんだけどなぁ…いいや、説明するのも色々面倒だし…)
碧は内心諦めていた。
「陛下、つまり成功したのですね」
グスタフはその堅物そうな顔から喜びをこぼす。
その問いにエゼリオンは自信に満ちた顔で頷いた。
「えぇ…っと…」
「アオイ様、先程ご紹介に預かった通り、私は海軍大将を務めております、コンラート•ヘルベクでございます。お合いできて光栄にございます」
話の流れの速さに困惑する碧の気持ちなど構いなく話しかける。
「はぁ…はい…」
「私は陸軍大将のグスタフ・フォルスターと申します。これからよろしくお願いしますぞ、アオイ殿」
「俺は海軍兵器開発局のラーティスと言う。よろしk…」
「僕は陸軍兵器開発局のカイル・ローベンです。以後お見知りおきを」
カイルはラーティスの言葉を遮り、食い気味に言う。
「私は軍事魔法技術研究所のイリス、よろしくお願いします…」
「あぁ…はい、よろしく」
「…よし、皆自己紹介は終わったな。それでは会議に移ろう。早くアオイ様に現状を説明しなければならないしな」
「まぁそうしてもらえると嬉しいのだが…、あの2人はあのままで大丈夫なのか?」
碧は先ほどから言い合いしてるカイルとラーティスを指差して言う。
「いつもの事です。気にしないでください」
エゼリオンは呆れ気味に言う。
「そ、そうか…」
「それではこれより、現状の我が国が置かれている状況の確認と、我が軍の現状報告の会議を始める。会議の進行はバルドウィン、お前に任せる」
「はっ」
バルドウィンは返事をすると机に置かれた巻かれた紙を広げ、後ろの掲示板に貼る。
碧はその地図を見た瞬間、目を見開いてはっとする。
「これがこの世界の地図です。アオイ様は初めて見るかもしれません」
「この紡流海と蒼海という海に挟まれた島、これが我が国、レヴァンクレス皇国、その左に位置している島がエルネア王国です」
「なるほど、本当に島国なんだな…」
碧は何かを思いながらバルドウィンの説明を聞く。
「アオイ様にも先ほど言った通り、今から1ヶ月ほど前、エルネア王国との間で大規模な海戦が起こりました。それを我々は『紡流海海戦』と呼んでおります。皇国海軍は勇猛果敢に戦い、何とか王国軍の本土上陸を阻止することに成功し、その海戦から1週間後、休戦を結ぶことができました。しかしその戦いにより出撃した軍艦の8割近くを失う大損害を受けてしまいました。
コンラート海軍大将、海軍の現状説明をお願いします」
バルドウィンは元から多い顔のしわを更に多くして言う。
「はい、現在の海軍の現状は最悪と言っていいでしょう。海戦前は204隻あった軍艦も今では41隻、そのうち大破6隻、中破11隻、小破5隻と確認しております。負傷した水兵、海軍魔導兵、一部参戦した陸軍魔導兵も多く…現状の海軍は皇国を守れる力は無いと判断せざるを得ません…。報告は以上となります」
「ありがとう…次に海軍艦艇の修繕と新たな軍艦の建造について、ラーティス海軍兵器開発局長、報告をお願いします」
「はい、海軍工廠では現在、中破の艦艇を重点的に修理しており、小破の艦艇は民間の造船所に修理を委託している状況です。新たに建造も可能ではありますが今から建造しても元の水準まで戻すのに、全力で全造船所を稼働させても早くて10年はかかると思われます。報告は以上です」
「ありがとう、これにて海軍の現状報告は終了です。アオイ様、質問はございますでしょうか」
バルドウィンがそう言うと碧は下に向いていた顔を上げて尋ねる。
「あぁ、気になったのだがエルネア王国が攻めてこないという可能性は無いのか?追い返したのなら敵艦隊の被害も相当なものだと思うが…」
「それについては僕が説明します」
神妙な面持ちで上座に座っていたエゼリオンが答える。
「確かに王国艦隊にもかなりの被害があったとの事です。しかしエルネア王国は我が国より国力、軍事力が上…正確な数は分かりませんが我が軍が撃沈した艦数はせいぜい160隻程度、エルネア王国の国力ならおそらくまだ250隻程度を保有していると思われます。そして今回は外交努力により何とか休戦出来たという状態…あくまで休戦、停戦では無いため再度侵攻してくる可能性が高い…いや、確実に進行してくるでしょう」
「右足を負傷しただけの肉食動物が、死にかけの草食動物を狙わない訳がないのですから…」
エゼリオンの声はこれまでのたったここ数十分で聞いた声の中で一番悲しそうだった。
皆は顔をうつむき、その表情を必死に堪え隠す。
「そうか…軽率な発言すまなかった。それならエルネア王国の再度侵攻はいつ頃になりそうなんだ?」
「我々が戦力を整えられず、かつエルネア王国は何とか再起が可能な時間、我々の推測ではありますが一年ほどだと考えられています」
「一年…それまでに現在41隻の海軍で250隻を優に超える海軍に勝てる戦力にする…か」
「はい…、相当無理難題を言ってる事は分かっています。しかし私達には貴方様以外に頼れる方が居ないのです…。どうか私達の国を…私達が愛したこの故郷を守る為、力を貸してほしいのです。どうか…この通り…お願いします」
エゼリオンは席を立ち、頭が机に当たるギリギリまで頭を下げる。
それに続くように、机を囲む5人とバルドウィンは碧の方向を向き、深々と頭を下げた。
バルドウィンの体で隠れていた一枚の旗が碧の目に留まる。
「…みんな頭を上げてくれ。最後にもう一つ質問があるんだ。これ次第で俺がどれくらい協力できるか、海戦に勝てるかが決まる」
「その質問とは何でしょうか…」
「ラーティスさん…だっけ。この世界の軍艦はどんなものなんだ?動力とか、敵艦への攻撃手段とか」
「国によって色々変わりますが、少なくとも我が国とエルネア王国の艦艇の動力は帆とオール、攻撃手段は魔道具の魔法攻撃が主になりますね」
「帆…魔法…そうか…やっぱそうなんだな…!」
碧は下を向き、声を震えさせる。
「…アオイ様?何かあったのでしょうか…」
碧は突然顔を上げる。
「やっぱあるんだな!魔法!魔法がある世界の艦艇とかワクワクすぎんだろ!しかも動力が帆、実際に使われてる帆船を見れるんだな!ヤバイ!マジで興奮する!」
………………
「あ…アオイ様…?」
「さっきまでの冷静な姿はどこに…」
「ハハッなんか面白い方ですね」
「ん…?あっ…すまない。つい取り乱してしまった」
碧は皆の顔を見て我に返る。
「いえ…それでどれくらい協力して貰えるのでしょうか…。戦争に勝つことが…出来るのでしょうか…」
エゼリオンは不安そうな声を絞り出して尋ねる。皆もそれを心配そうな顔で見つめている。
その顔を見て碧は自信満々な声で言った。
「あぁ、安心してくれ。次の海戦、我々の完全勝利を約束する」
「…そうですか…。ありがとう…ありがとうございます…」
エゼリオンは今にも泣きそうな顔で碧の顔を見上げる。その顔はどこか安心した様な、希望に溢れた顔にも見えた。
碧とエゼリオンは手を差し出して強く握手をする。
その景色を見つめた後、バルドウィンは静かに口を開く。
「それではアオイ様、明日から業務にあたって頂いてよろしいでしょうか?」
「あぁ、それで俺は明日何をすればいいんだ?」
「はい。大まかに海軍兵器開発局の視察と指南、そして海軍と軍艦の視察をしてもらいたいのです」
「分かった…指南か。すまないが誰か紙とペンを貸してくれないか」
「それなら僕が持ってます。どうぞ、お使いください」
カイルは自らが身に着けているバッグから紙とペンを取り出して、碧に渡す。
「ありがとう」
碧はそう言うと紙に何かを書き始めた。とても馴れた手つきで止まらず、しかし正確に書いていく。しかし文字を書いた瞬間碧の手がピタッと止まる。
「アオイ様?」
「あ、ごめん。少し考え事をしていた」
イリスの声で我に返ると先ほどの様にスラスラと書いていく。
「よし、出来た」
「アオイ殿、これは何ですかな?」
グスタフの問いに碧が答える。
「これは明日の兵器開発の指南に使う道具の設計図だ。ラーティス、カイル、すまないがこれを明日までに作ることは出来るか?」
碧の言葉に2人は困惑する。
「えぇ…まぁ出来るとは思いますが…」
「これがあるかないかで明日の指南が断然やり易くなるんだ!頼む!」
碧は困り顔の2人に手を合わせてお願いする。
「…分かりました。明日までに作って見せましょう」
「あぁ!何とか納入期限までに納めてやるぜ!」
「ありがとう。それではお願いします」
そういうと碧はさっき書いた設計図をラーティスに渡す。
「それではこれで各位、報告は終わりましたかな」
「以下を持ちまして、本会議を終了といたします。各位、ご苦労様でした」
会議が終わった後、皆解散し、碧はエゼリオンとバルドウィンに部屋を案内されていた。
「着きました。ここが貴方様のお部屋になります。何なりとお寛ぎください」
扉を開けるとそこには豪華絢爛な煌びやかな空間が広がっていた。
「おぉ…スゲェ…」
つい驚きのあまり、口から言葉がこぼれる。
「道中で言われていた紙とペンは部屋の中に用意してあります」
「それでは僕はこれで。明日はお付きの補佐官が迎えに来ますのでそれまで待機でお願いします」
「分かった。何から何までありがとう。それではまた明日」
「はい。また明日よろしくお願いします。アオイ様」
そう言うと碧は扉を閉め、紙とペンを持ち、机と向き合う。机の上にあるライターを使いランプに火をつけた後、紙を広げ、先ほどの様にまた何かを書き始めた。
スラスラと迷いなく書いていくがまた文字を書き始めた所で止まってしまった。
「やっぱりだ…文字を書くと何故か変な外国語の様な文字に変わってしまう…。これはこの世界の文字なのか?ラーティスとカイルには伝わっていた様に感じる…おそらく本当にこの世界の文字なんだろう」
「それなら日本語が勝手にこの世界の文字に翻訳されているのか」
碧はペンを置いた。
「そもそも俺は今まで日本語を話していた…いや話していた気分になっていたが…異世界の人々に日本語が通じる事自体が不思議だ。」
「文字と同じように勝手に翻訳されているのか?」
「そもそも異世界召喚自体が摩訶不思議なのに、それがまさかの軍神だぞ…?勇者とか、救世主とかじゃなく…」
「船の知識を持つ俺が、偶然船の知識を欲する国に転移された…明らかに都合が良すぎる。いや、名前が知られていたという事は初めっから俺指定だったという事か」
「そして会議室で見たあの世界地図、あれは転移する直前に読んでいた古びた本に書かれていた地図に非常によく似ていた。あの本はどこに行ったんだ?」
碧は情報を整理していく。今日あった事を箇条書きの様に言葉に出して、冷静に、そして正確に並べていく。
「…やっぱ陛下が言っていた『皇国神話』にすべてがあるような気がする…」
碧はそう結論付けるともう一枚紙を取り出し、怒涛の勢いでペンを進める。
「改めて文字に起こしてみると随分とカオスな状況だな…」
そう言うと書いた紙を机の引き出しにしまった。
「まぁいい。とりあえず船が造れるんだ!これほど嬉しい事は無い。明日までにはこれを書き切らねばな」
碧は再度ペンを走らせ始めた。
一か月ぶりですが何とか書ききりました。誤字脱字、ここの文少し変、ここはこうした方が良いなどと思ったら是非コメントをお願いします。




