十五番艦 「恋」
魔道具を使った燃焼炉を作る為、海軍軍需統括部に「軍事魔法技術研究所の方に行ってほしい」と言われた碧とエノア。2人は軍事魔法技術研究所がある魔法都市『ペテルトリンネ』に急行馬車で向かう事になった。
「アオイ様!これが今日乗る急行馬車『ペテル号』です!」
エノアは自信満々に手を広げ、流線形のシンプルな馬車とそれに繋がれた灰色の毛並みをした2頭の黒馬を指し示した。
「これが4日の道を7時間で進む馬車か…馬車の形もそうだけど馬も普通の馬とは違うような…」
「その通りですアオイ様!この馬は『グラ二』っていう東南にのみ生息する一般的な方法で使役できる中では世界最速の魔物なんですよ!」
「へぇーそれは凄…ちょっと待って今魔物って言った!?」
「ぁぁ大丈夫です!おとなしめの魔物ですしちゃんと人間に飼育されてるので!」
「そ…そっか…でも魔物を飼育する事があるのか」
「はい。大体の魔物は人類に敵対的で危険ですけどね。中には温厚な魔物もいるんですよ」
「へぇ、この世界に来て俺の認識がかなり変わった気がするよ」
「あれ…そういえばロイ軍需統括長も同行する予定だった気がするんだけど」
「はい。その予定でしたが…仕事が立て込んでいて来れなくなってしまったと連絡がありまして。どうやら新しい鉱石の調達に手間取っているらしいです」
「あぁそれで…それ多分俺がこの前頼んでた鉱石…だよな…」
「そうですね。恐らくは」
(ロイ軍需統括長…ごめん!そしてありがとう頑張ってくれ!)
碧は深くそう思った。
「もうそろそろ乗りましょうか、アオイ様。あまり時間もありませんので」
碧とエノアが一方にしか座席が無い馬車の椅子に座る。御者が手綱を引くと「ヒヒーン゛」ととても普通の馬では出ない鳴き声が響く。
「アオイ様!動き出しましたよ!」
ガタンと馬車が動き出すと“パカラッパカラッ”と蹄鉄が地面を蹴る音が鳴る。
「確かに早いけど…まだ普通の馬車でも出せそうな速さだな」
「まだまだですよ!ここからどんどん早くなっていきますから!」
エノアの言う通り、すぐに初めは足音として認識出来ていた音もだんだん足音には到底聞こえない騒音になっていた。
「うわぁ…凄い…」
碧は馬車の窓からどんどん早く流れる背景をじっと見つめる。
「……」
エノアはその碧を恍惚な目で見つめている。
「そういえばエノア。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「えっあっはい!何ですか!?」
エノアは頬を赤らめて焦った様子で言った。
「だ…大丈夫か…?」
「はっはい大丈夫です!それで聞きたい事とは?」
「あぁ、ペテルトリンネの事をもっとちゃんと知りたくなって」
「なるほど。確かに午前の勉強の時間で少し触れた程度ですもんね。ペテルトリンネをよく知るには魔法関連の知識が多少必要になります。アオイ様、『魔気』と『魔天脈』は覚えてますか?」
「えっと確か…魔気が空気中に含まれる魔力の事で、魔天脈が普通の場所より魔気が出やすい場所の事だっけ。魔天脈周辺は魔気の濃度が高いから魔法の研究に最適…っていう」
「そうですそうです!よく覚えてましたね!」
「エノアのお陰だよ。エノアの午前の勉強分かりやすいし」
「そっそうですか…!ありがとうございます…」
エノアはまた赤くした顔を下げながら言った。
「…あっえっとそれでですね、ペテルトリンネのあるユーマル川の上流付近がその魔天脈なんですよ!」
「なるほど。それで魔法都市なのか」
「そうです。その為ペテルトリンネはその強い魔気、魔力を利用した魔法研究や魔道具開発が盛んで軍事魔法技術研究所や軍事魔導工房、皇立魔法研究所や民間の魔法関連施設などが多くあります。他には自然と共存した都市の風景とかが魅力ですね」
「そしてその様な土地の都合上、エルフの人々に好まれる土地でもあるので、エルフの血が入っている人々が多く住む都市なんですよ」
「エルフか。確かこの世界の種族の括りの一つだよな。人間族、獣人族、エルフ族、竜人族とある…確かレヴァンクレス皇国は人間族、エルフ族が主に住んでるんだったっけ」
「はい。レヴァンクレス皇国が建国された当時は純人間族の国でしたが、今から500年前に難民としてエルフ族を受け入れた歴史があるんです。なのでレヴァンクレス皇国は人間族国家ではあるのですが同時にエルフの血が入っている方も多く住んでるんですよ」
「へぇー、なるほd わぁあ…」
碧は言葉と途中で声が出る様な大きなあくびを吹き上げた。
「大丈夫ですか?アオイ様?」
「あぁごめん大丈夫…昨日夜遅くまで色々やってて…ちょっと眠くて…」
「色々知れて良かったよ…ありがとう」
碧は眠い目をこすりながら腑抜けた様な声で言った。
「いえ役に立てて良かったです。私はアオイ様の補佐官なの…で…」
ふと横を見ると目を瞑りすやすや眠る男の子の姿があった。
「あれ…アオイ様寝ちゃった…まぁこの1週間働き詰めだったし仕方ないよね」
静かな車内に蹄鉄の鳴らす足音らしき騒音と車輪が高速で回る音が響く。整備された滑らかな道路を走る馬車は心地よい揺れを乗客に提供している。
「この揺れなんか眠くなってくるし寝ちゃうの分かるなぁ。私も寝ちゃおうかな」
「…ていうか寝顔ちょっと可愛いかも…仕事してる時の真剣な顔も良いけど…寝てる時は普通の男の子って感じして…」
エノアはまた頬を赤らめると気持ちよさそうな顔で眠る碧の顔をじっと見つめる。
「って駄目よエノア!軍神様にそんな感情は…!平常心…私は海軍中佐の補佐官のエノア…これは仕事…」
そう自分に念仏のように唱えるていると“ガタンッ!”と馬車が大きく揺れた。
「キャッ!」
と可愛い声を出すエノアの肩に暖かいものがよりかかった感覚が体全身に走る。
えっ…?
まさかと思い横を見る。力を抜いて心地よさそうな顔で眠る碧の頭が自らの肩にもたれ掛かっている光景が見える。
ひゃえぇえぇぇ!?!?!?!?!?ちょ…かっかっ肩に…‼頭が…!?おっ…起こした方が…いやでも…もう少しこのままでも…
エノアは迷う。肩を揺らそうとする手が葛藤で交互に揺れる。ドキドキと心臓の音がうるさい、体全身が熱い。
やっぱ…起こさない方が良いよね。アオイ様はお疲れだし起こしちゃうと可哀想だしね…。断じて私がこのままが良いと思ってるんじゃない…断じて違う…そう違う‼…にしても顔が近い可愛い暖かい…
馬車はまだまだ走る。静かな車内に蹄鉄の鳴らす足音らしき騒音と車輪が高速で回る音が響く。整備された滑らかな道路を走る馬車は心地よい揺れを乗客に提供している。その中である一人の女の子が幸せな時間を過ごしていた。
ロイ海軍軍需統括長…今日来れなくてありがとうございます…
エノアは火照る頭でそう思った。
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「ハックションッ!」
一人の男が皆が一生懸命働く部屋で大きなくしゃみを響かせた。
「大丈夫ですか統括長?今日くしゃみ多くないですか?」
「んーもしかしたら誰かに噂されてるのかも…」
ロイは鼻をすすりながら言った。
「統括長を噂するって…もしかして…悪口…」
「君ってホント失礼だよね。まぁ初めの方のくしゃみは良い噂っぽいけど…今のくしゃみはなんかこう…感謝っぽいけど少し不純な理由が入ってる気がする」
「…なんでそこまで具体的なんですか。まぁ統括長の事なので当たってるでしょうけど」
「君って謎に僕に対しての信頼だけ”は”高いよね」
「統括長の日頃の行いを見てるとこうなりました。はい、お話し終了お仕事再開してください。アオイ様から頼まれてる仕事がまだ終わってないんですから」
「はいはい、分かってますよ。多分今やってるこの仕事は皇国の未来を左右するものになると思うからね」
ロイはそう言うと机の上の綺麗かは賛否が分かれる白い石を手に取った。
誤字脱字、ここの文少し変、ここはこうした方が良いなどと思ったら是非コメントをお願いします。




