十四番艦 「皇国の艦達」
急遽、海軍軍需統括部から提出された蒸気機関の燃料問題。第一回陸海共同兵器開発会議で魔道具を使った燃焼炉構想が可能か軍事魔法技術研究所に打診する事に決まる。その長い会議が終わり、碧とエノアは執務室に戻るのだった。
「アオイ様、今日もお疲れさまでした」
静寂に包まれた部屋の椅子に腰かけると優しい声が聞こえてきた。
「うん、エノアもお疲れ様。会議の議事録作成ありがとう」
「い、いえ、これも補佐官の仕事なので!」
エノアは少し照れながら笑顔で言った。
「でもまさか第一造船工廠の一棟の執務室を貸してくれるなんて。わざわざ皇都に戻らなくて良いし作業に専念出来るのは助かる」
「熱心なのは良いですけど…ちゃんと休息もとってくださいね。この1週間まともに休んでないんですから」
「心配してくれてありがとう。でも俺は大丈b…」
「「「ピーーーー‼」」」
2人が話していると部屋中に甲高い不快音が響く。碧はとっさに耳を両手で塞いだ。
「…かなり早いですね…私が応答します」
「あぁ…頼む」
エノアは執務室の隅に鎮座する箱を操作し左手を置くと、右手にペンを握り何かを紙に書き始めた。
(それにしても…まさかこの世界に通信機器があるなんて。初めて聞いた時はめっちゃ驚いたなぁ…。
あの箱の名前は『魔導無線通信機』と言うらしい。名前通り魔法を使って通信をする機械だが、音声や文章を送れる様なハイテクな代物ではない。送信側が機械自体に魔力を流し別の場所にある同じチャンネルの受信機に送り使用者がその魔力を感じ取る…という物。送る魔力の短い長いの組み合わせを一つ一つの文字に当て、それで文章を構成する。いわばモールス信号、この世界では『点撃信号』と言うらしい。この世界の技術レベルが時々本当に分からなくなる…)
「アオイ様、魔道具を使った燃焼炉構想の件で海軍軍需統括部からの通信です」
エノアは先ほど書いた紙を片手に取り、淡々と機械音声の様に読み上げた。
「“アス、グンジマホウギジュツケンキュウジョ、ヘムカウヨウ、ツタエラレタシ”
との事です」
「そうか。出来るとは言われなかったけど…無理と言われなくて良かった」
「そうですね。しかしまさか向こうから呼ばれるとは思いませんでした…」
「何か話すべき事でもあるのかな。…そういえば軍事魔法技術研究所って何処にあるんだ?」
「えっとそれはですね…」
エノアは地図を取り出すとペンで白点をぐるりと囲んだ。
「この緑丸で囲んである場所、『ペテルトリンネ』という都市にあります。『皇都 アマテリア』からだと通常の馬車で4日、急行馬車で7時間程度でしょうか」
「思った以上に遠いな。というか馬車で4日掛かる道を7時間で完走する馬車って一体…」
「ちょっと特別な馬を使っていてですね。という訳で今から馬車の手配に行ってきます。恐らく今なら急行馬車が空いてると思うので」
「分かった。頼む」
碧がそう言うとエノアはゆっくり扉の方に歩く。
「それではすぐ戻ってきますので。アオイ様はゆっくり休んでいてください」
「ありがとう。いってらっしゃい」
碧が優しい声でそう言うとエノアはご機嫌な顔で歩いて行った。
「さて…エノアには悪いけど、そうゆっくりもしてられないんだよな」
碧は引き出しから数十枚の紙の束を取り出すと机いっぱいに広げた。
「コンラート海軍大将にお願いしてた海軍艦艇の資料に目を通さなきゃな」
この国の軍艦は今まで見てきた通り中世欧州の帆船そのものだが…元の世界とは違う部分がかなりある。
まず大砲。舷側に大砲を並べるのは元の世界と同じだが、それは火薬を使わない『術式刻印型魔導砲』と呼ばれる魔道具。
どんな人間でも魔力があれば同じ威力、同じ射程の同じ魔法を行使出来る。海戦で重要なのは射撃統制、敵艦に効果的に攻撃出来る能力。例え個人の魔法の威力にばらつきがあろうと関係なく扱える魔導砲は魔法が主な攻撃手段のこの世界では主力兵器だろう。
2つ目が『精魔領域発現装置』と呼ばれる魔道具。艦内下部中央に備え付けられている範囲内の魔力を強める魔道具らしい。これのおかげで高火力の魔導砲を撃て、その数十発の艦砲射撃にも耐えられる防護結界を維持する事が出来ると言う。
「攻撃手段と防御手段は魔法の影響でとかなり変わっているが…航行手段は帆、風以外に無い様に思える。船の形自体もそんな変わらない。これは一種の収斂進化なんだろうな」
碧はまた別の紙を取り出す。
そして次にこの国が現在保有している軍艦。
『アマテリア級艦隊戦列艦』:皇国海軍の旗艦。火球魔法が刻まれた魔導砲を全110門3層で武装している。見た目は元の世界で言えば『戦列艦』。皇国海軍の中で一番大きく、一番の戦闘能力を持つ艦隊運用前提の軍艦らしい。
『ストルハーヴァン級艦隊戦列艦』:皇国海軍の軍艦。火球魔法が刻まれた魔導砲を全96門3層で武装している。見た目は『戦列艦』。艦隊で運用される。
『ハルフォード級艦隊戦列艦』:皇国海軍の軍艦。火球魔法が刻まれた魔導砲を全84門3層で武装している。見た目は『戦列艦』。艦隊で運用される。
「大航海時代」新紀元社出版【戦列艦】
『ローベルト級機動戦列艦』:皇国海軍の軍艦。これは火球魔法ではなく岩石魔法が刻まれた魔導砲を全52門2層で武装しているらしい。基本は艦隊運用だが近海での小規模戦闘や危険海域へ行く船団の護衛、大砲を取り外し海軍の輸送艦やお偉方が利用する豪華船としても使われる事があるらしい。見た目や役割は戦列艦と言うよりも『ガレオン船』だろうか。
「大航海時代」新紀元社出版【ガレオン船】
『ウルリヒ級機動戦列艦』:皇国海軍の軍艦。岩石魔法が刻まれた魔導砲を全42門1層で武装している。艦隊運用、艦隊の目や船団護衛、近海任務などで使われる快速帆船。見た目は帆を通常より増やした『フリゲート艦』。
「大航海時代」新紀元社出版【フリゲート艦】
『グリヴェン級輸送艦』:皇国海軍の船。武装は無し。物資輸送にすべての能力を捧げており、ストルハーヴァン級以上の大きさを誇る船体の約8割は貨物置場となっている。見た目は『バーク船』にかなり近い。
【バーク船】
ここまでが「皇国海軍」が保有する軍艦。
次に『海上警総機関』この国の海の保安機関が保有する艦艇。
『アラナミ級海防艦』:これは皇国海軍の船ではなく海上警総機関の船らしい。岩石魔法が刻まれた魔導砲を全22門1層で武装している。近海警備や近海の小規模戦闘、通報艦、連絡船として使われる快速帆船。見た目は2本マストのフリゲート艦、『ブリガンティン』と言った所だろうか。
【ブリガンティン】
『サザナミ級海防艦』:海上警総機関の船。岩石魔法が刻まれた魔導砲を全10門1層で武装している。近海警備や通報艦、連絡船として使われる小型1本マスト快速帆船。見た目は『スループ』に近い見た目をしている。
【スループ】
「ここまでがこの国が保有する戦争で有用な船達かな。もう少しあるが…あとは戦争で運用出来る様な船では無いな。同型艦が全て沈んだ艦も多い。なんたって160隻近く沈んだんだからなぁ。これら41隻の皇国海軍で250隻…恐らく一年後にはもっと増えているであろうエルネア王国海軍を打破する…か」
碧は首を回し窓の外を見ると少し微笑んだ。
「まぁ頑張るしかないか。大好きな船に囲まれるこの生活を守りたいし…俺を優しく迎えてくれたこの国と人々に恩返しもしたいからな。それに机上の空論だが何とかなる算段がついた。あとは…俺が死ぬ気で頑張るだけだ」
碧はそう言うとまた机に顔を向けた。
誤字脱字、ここの文少し変、ここはこうした方が良いなどと思ったら是非コメントをお願いします。




