十番艦 「皇国艦隊」
<前回のあらすじ>
第一造船工廠を出た碧とエノアは海軍の視察の為、目的地である第二泊地へ向かっていた。道中2人で話しながら歩いて行くと、目的地である第二泊地に到着したのだった。
「すげぇ…アレが!」
碧は感極まる声で前の光景を見つめながら言った。
「はい!アレが我ら海軍の誇り、『皇国艦隊』です!…とは言っても今はほとんど壊滅状態ですけど…」
「あぁ…そうか。先の海戦で確か41隻しか残ってないんだよな…」
「はい…しかし41隻中、大破中波した艦も多いので…実質今動かせる艦は…24隻くらいでしょうか。このストルハーヴァン軍港第二泊地には8隻の艦隊戦列艦が停泊しています」
2人は前の優雅な船団を見ながら歩いていく。どんどん近くなっていく艦に対比する様に碧の興奮は高まっていく。
「すげぇ…!3本のマストに木造の船体!舷側に並んだ砲!本当に中世の帆船だ!」
碧は目の前まで来た艦を見ながら興奮した声で言った。
(…本当に船の事になると人が変わったみたいだなぁ)
エノアは心の中で微笑みながら思う。
「っと…いらっしゃいましたね」
エノアは何かに勘付くと落ち着いた声でそう言った。
「いらっしゃったって…誰が…」
碧はエノアの言葉を疑問に思い、周りを見渡す。艦の上に数人、周辺にはポツポツと水兵らしき人影は居るが、こちら側に向かってくる人は見当たらない。
……
「10時15分。予定時刻5分前の到着、流石だな。エノア中佐」
真ん前から声が聞こえた。碧がちょうど横を向いた瞬間、右耳に渋く低い声が響く。
その声を聞き、碧は勢いよく正面を向いた。
「ありがとうございます、海軍大将閣下。本日はよろしくお願いします」
エノアは右手を眉まで上げて形式張った敬礼をする。
(コンラート大将…いつの間に真ん前に…全く気付かなかった。…乱世に老いぼれを見たら生き残りと思え…。この言葉をやっと理解できた。やはりここは異世界か…)
碧は堂々と前に立つその老人に敬意と何とも言えない恐怖を覚えた。
コンラートは碧の方に顔を向ける。
「アオイ様、昨日ぶりですね。改めて、海軍大将を務めております、コンラート・ヘルベクでございます。本日はどうぞよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします。まさか海軍大将が同伴してくれるとは…」
碧は困惑しつつ言った。
「はい。軍神様に御見せする訳ですからな。それ相応の立場の者でないと無礼だと思いまして」
「このコンラート、軍神様に我らの誇りである皇国艦隊を御見せする大役を任せられた事、誠に恐悦至極に存じます」
「こちらこそとても嬉しいです、大将閣下。俺この優雅な艦を見られる事をとても楽しみにしていました!」
碧は感極まる声で言った。
「それはよかったです。それでは最終準備をしてきますので少々お待ちください」
コンラートはそう言うとまた船団の中に去って行った。
「…そういえばエノアは中佐なのか。中佐だから…えっと少尉中尉大尉…」
「尉官の上、佐官で少佐の一つ上ですね」
「そんな偉い人だったのか。その歳で中佐ってかなり凄いんじゃないか?」
碧は驚きながらも落ち着いた声で言う。
「そんな事ありませんよ。戦時下ですし、戦死した士官の穴埋めです」
エノアは微笑みながらそう言った。
「そうか…それでも中佐に選ばれたって事はそれだけ優秀って事だし凄いと思うぞ」
「アオイ様…はい!ありがとうございます!」
エノアはこれまで以上に嬉しそうな声でそう言った。
「アオイ様、準備が完了しました」
「これよりアオイ様の海軍視察の為の模擬演習を開始する!」
コンラートは急ぎ足で戻って来ると軍人らしい威厳ある声でそう言った。
「「「抜錨!!」」」
艦から大きな声が港中に響き渡ると艦から伸びる鎖が上がる。鳴り響く金属音に波の音はかき消され、一つの大きな錨が海面から姿を現した。
錨が完全に上がりきると、杖を持った3人の人が艦左舷の甲板に立つ。
「風よ…我が声に答えよ。威を伝う大気の円環より、突風を吹かせたまえ。我、皇国に忠誠を誓う者なり」
3人が一言一句同じにそう言うと空中に魔法陣が出現し、そこから強い風が瞬間的に吹き荒れた。
碧の黒髪とエノアの銀髪が風になびく。
「凄い…これも魔法なのか…」
輝く魔法陣が曇りの無い碧の瞳に映る。
「…アオイ様は魔法を見たことが無いのですか?」
コンラートは目を輝かせる碧にそう言った。
「はい、俺が元居た世界には魔法なんて無かったですから」
「ではこれから見る出来事にアオイ様は大層驚かれる事でしょう」
コンラートは少し笑いながら言う。
「正直今でも相当驚いてますよ」
そんな話をしていると船は横方向に動いていく。5メートル程、石造りの桟橋から離れると甲板上の3人は斜め後ろに体を動かし、艦を斜めに進ませた。
「なるほど。風を起こして艦を桟橋から離して出港させるのか!」
「その通りです。こちらの方が色々と早いですから」
「今から出港するのは我が皇国艦隊が誇る、旗艦『アマテリア級艦隊戦列艦』です」
「アマテリア級艦隊戦列艦…」
碧はボーっとその優雅な船体を見つめる。瞳は一瞬の瞬きすら許さない
「「「パパパパ パパパパ パパパッパ パッパパー」」」
透き通るようなラッパの音が軍港中に響いた。
「「「出港!!」」」
そう大きな声が聞こえると3本のマストから大きな帆がバサッと落ちる。帆が風を孕み、アーチ状の曲線を描くと、艦は何者かに押されるように前進する。帆には皇国の象徴、輝く太陽が記される。ちょうど刻は昼、晴天だった。
めっちゃ期間が開いてしまって申し訳無いです。誤字脱字、ここの文少し変、ここはこうした方が良いなど思ったら是非コメントをお願いします。