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強運か? 凶運か?

 この世界は偶然と必然が複雑に入り混じり、事実の解析を拒む。

 私の身の上に起きた事件は「なぜそうなったのか?」が、まったく不明なことが多い。


 あえて説明すると、私は「異常に運が良い」。そうとしか説明できない。

 この世界の重要人物に、なぜか遭遇し、コネができる。


 しかし望まざる来訪者も呼び寄せる。

 この世界の、最悪の部類の人間もやってくるのだ。

 だからこの点で、私は「異常に運が悪い」ともいえる。


 始まりは、90年代後半のあるコミケ。一人の男との遭遇だった。

 名前は聞いていないので、ここではB氏と呼ぶ。

 B氏は部下と、愛人らしき女性を引き連れて私のところにやってきた。

 どうもテレビ局とか芸能界とか、そういう方面の人物だったようだけど、詳細は不明だ。

 要件を尋ねると「ここに来れば金儲けのネタが貰えると聞いたからここに来た」という。

 そういえば、過去にもときどきコミケで遭遇した人に、ちょっとした親切心から儲け話を教えてやったことがある。そのコネが、どこかでこの人物に届いたようだ。


 ところが、その時に限って私には何もアイデアがなかった。

 気まずい沈黙。そしてふと、私は男の後ろにいる女性と目が合った。

「あれ? F子さん?」

 女性は私の言葉を聞いて、顔をしかめた。なぜお前がここにいる? 彼女の目はそう言っていた。

 男が連れてきていたのは、知人のF子さんだったのだ。


 私は大学生のころ喫茶店でバイトをしていたことがあった。F子さんは、そのときの先輩である。

 別に仲が良かったわけではない。彼女は私に仕事を教えたが、私がミスをすると舌打ちをしたり、さり気に肘打ちしてくる。そういう人であった。

 追記すると、彼女は私がこれまでの人生で会った女性の中で、一番……言いにくいけど、外見が醜かった。


 その外見は、本人もコンプレックスだったようだ。客にバカにされることは日常茶飯事。

 しかし、私は一緒に仕事をするうちに気が付いていた。

 F子は骨格が美しいのだ。背中のライン、バストのライン、ヒップのライン。いずれもモデルができるくらいに美しい。

 そこである日、客に笑われて肩を落としているF子を、私はこう言って慰めた。

「君は骨格が綺麗です。問題なのは、目元と鼻だけだから、ちょっとだけ整形すれば、すごい美人になれます」

 それから間もなく、私はバイトを辞めた。


 そのF子が、見違えるような美人になって、目の前にいた。

 私の推測は当たり、最低限の美容整形で、F子は化けていたのだ。

 変な偶然もあったものだ。

 しかしF子にとっては望まざる再会だったようだ。整形前の姿を知っている人間が現れたのだから。

 F子が固まってしまったので、その反応からB氏は私とF子が知り合いであることに気が付いた。B氏が問い詰めた結果、F子は整形前の姿を知られてしまった。


 ここからF子が不幸になる展開を予想するかもしれないが、ご心配なく。


 B氏は、私のF子へのアドバイスが非常に的確だったことを認め、得体のしれない才能があることを認めた。それ以後、B氏の口コミを聞いたらしい芸能人や、日本の政治家が私の元を訪れるようになったのだ。


 どうもB氏は、けっこうな大物だったようである。

 日本の政治は右翼団体の存在なしでは成り立たず、彼らは日本のテレビ業界と芸能界に隠然(いんぜん)たる影響力を持つ。そこにも通じる人物だったようで……。

 ここいらへんの事情はあまり詳しく書けない。


 日本の政治に何か口出ししたければ、官僚になるか、ジャーナリストになるか、芸能界やスポーツで大きな功績を上げて知名度を上げて、政界に転向するなどの面倒な手順を踏むか、そんな苦労が必要だ。

 しかし、私のようにレアなコネを手に入れて、途中経過をすっ飛ばしステージに立つ人間もいるわけだ。

 信じがたいほどの幸運と、他人にまねできない特技があってのことだけど。


 なおF子は、整形前の顔を知られた結果、B氏との関係は疎遠(そえん)となってしまった。

 ここで放り出すわけにもいかないので、私はF子の新たなパトロン探しを手伝い、どうにか良い相手を見つけた。

「あたし、お金と権力のある男が好きなんだ」

 彼女は笑顔でそう言うと、去っていった。なんという正直者だろう。

 そうしてF子への借りを返したはいいけど、私はそれ以後「どうもアイツは女衒(ぜげん)らしい」という、あまり好ましくない(事実とも違う)評判もついて回ったのである。


 現実には、私は私に与えられるはずだった報酬を辞退して、代わりにF子のパトロン探しを有力者に依頼するという方法で問題を解決している。女性を斡旋(あっせん)することで報酬を受け取る女衒(ぜげん)とは真逆の存在である。


 正体不明の、なぜか助言がことごとく的中するヤツ。

 それを言い表す適当な言葉は、少なくとも日本語にはない。

 人はどうやら、正体不明で権威のない人間には、卑俗な呼び方をするものらしい。

 だから私は、どう活躍しても「変なヤツ」から昇格することはなかった。


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