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「俺に理解できないことは間違っている」と言う人々

 私が教える情報を仕事に活用する人は、漫画家や作家や編集者も多かったが、企業の経営陣に属する人々や、政治家や起業家もまた多かった。要約すると、私の能力は何かを決断しなければいけない立場にある人にとって役に立つものだったのだ。


 たとえばあるライトノベルレーベルの編集者の一件。

 手元に二人の小説家志望者がいて、どちらも実力的には問題ないと編集者は判断している。だが、スケジュールと予算の都合から一人しかデビューさせられない。どちらをデビューさせるべきか? 判断に困って、その編集者は件の二人を連れて私の元へとやってきた。

 私は二人に簡単な課題を出して、掌編程度の文章を書かせてみた。すると、明らかに一人のレベルが上であったので、そちらを推薦した。

 数年後、彼は無事にデビューし、アニメ化にも成功。売れっ子の仲間入りをした。

 私の判断は正しかったと言って間違いないだろう。


 ライトノベル作家だけではなく、漫画家でも俳優でもスポーツ選手でも、私が「この人に仕事を任せるべき」と推薦した人間は、そのあと必ずそれぞれの業界を背負う人材の仲間入りをしている。

 ほんのわずかな手がかりだけで未来を断定して、企業や政府の方針も決定してしまう私は、事情を知らない人には異様に見えただろう。


 そのせいか、私にこう質問する人がいる。

「あなたの話は、どうやったら確認できるの?」あるいは「証拠はどこにあるの?」


 もっともな質問である。

 そして、愚問である。


 私の情報は未来を見通すものである。過去のことをしゃべっているわけではない。だから証拠がないのは当たり前である。

 質問した人にそう返答すると、今度はこんな感想が来る。

「つまり、嘘なんですね?」


 うんざりするほど繰り返された不毛な会話だ。


「いずれ、明らかになる話だから」と教えても「自分に理解できないから間違いに違いない」という変な論法で否定してくる。

 私のところへわざわざ相談に来る人は、私に何ができるのかを心得ているので、こんな変な論法は使わない。他人の能力を利用するには、ただ信じるしかない。才能なんてそんなものである。


 ところが、たまたま私が誰かと話をしているところに居合わせた第三者が、この論法を使って話に割り込んでくることがある。

 そういう人に何をどう説明しても無駄なので放置したいところだが、なぜか自信満々で「嘘に違いない」と言い出すからたまらない。


 たとえば、初期のエピソード「二次創作をめぐる仁義無き戦い」を思い出してみよう。

 あのエピソードでは、大手出版社S社の法務部社員が、コミケへ来たときの顛末を話した。

 S社の社員の話から、将来的に二次創作同人誌への取り締まりがあるかもしれないという情報をかぎ取った私は、それを同人作家たちに話して「トラブルを起こすな」と警告したのだけれど、信用しなかった同人作家がわざわざS社社員を挑発するようという愚行に走ったがために、まったくの逆効果になってしまった。


 ある二次創作同人作家に対して公式なクレームが付けられるに至ったのも、S社の社員の正体が判明したのも、ずいぶんと後のことだった。

 あの一件から10年が過ぎたある日、愚行に走った同人作家の一人と話をする機会があったので、私は質問してみた。

 なんであんなバカなことをしたんだ? と。

 すると、彼いわく「わからなかったから嘘だと思った」と。そして「わからない話をする奴が悪い」という理由で私を非難し始めた。


 なんだそりゃ。

 未成年の学生ならともかく「わからない」ことは、愚行の言い訳にならない。

「わからない」のは仕方がない。人はそれぞれ能力が違い、理解できる現実も違う。

 だが、それなら沈黙しなければいけない。


 事実として、出版社と作家には明確な上下関係がある。出版社は作家の作品を書籍として発行するかどうかを決めることができる。作家はそうではない。才能があろうがなかろうが、作家志望者をデビューさせてやる義務はない。仕事を貰えなかった作家が収入源を失って餓死しても、出版社は何の責任も負わない。

 だから、作家は出版社の社員を決して怒らせてはいけない。

 デビューしていない同人作家なら、なおのことである。


 社会人であるということは、このシビアなルールに従って生きるということである。

 まして、法的に微妙な扱いの二次創作に手を出すのであれば、最低限でも著作権の知識が必要だ。「わかりませんでした」で許してもらえると思ってはいけない。


 ……余談ながら、前述の「二次創作をめぐる仁義無き戦い」で書いたが、よりにもよってS社の法務部社員に向かって「訴えられるもんなら訴えてみろ!」と、挑発をしちゃった同人作家のE氏は、今はコミックマーケットの代表者の椅子に座っている(!)。

 代表者といえば3人いるけど、名前は言わない。質問も受け付けない。

 このE氏も、私の話を根拠なく「嘘」と判断して、愚行に走った一人だった。


 過去の様々な事件を思い起こすたびに、嘆息して思うのだけど。

 自分が理解できないこと、経験したことがないことを「嘘だ」と自信満々に断定する人は、なぜこんなにも多いのだろうか?


 知らないことは知らないと言う。

 自分が知らないことを知っている先輩や、その道のプロには敬意を払って、おとなしく話を聞く。確実な反証が無い限り、他人の発言に逆らわない。

 それだけ心得れば、こういう誤りは起きないはずである。


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