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いわゆる反体制派についての、憂鬱な記録

 マイケル氏と話をした一件は、思わぬ副作用をもたらした。

 私たちの会話は、コミックマーケットの会場で行われた。当然、周囲には無関係な他人がいて、会話を聞いていた。

 マイケル氏との会談後、どういうわけか私の周辺に左翼関係の人間がたむろするようになった。しかも、敵対的な反応を示している。私のことを「ネトウヨ」と呼んで、ひそひそと中傷する者がいると気が付いたのは、間もなくのことだ。

 私は訪問者を、政治的なスタンスで差別はしない。右翼も左翼も扱いは同じである。

 そして、その人の人生にとって最も正しいと判断される選択肢を提示する。


 才能に恵まれた人には、その才能の使い方を。

 身に過ぎた夢を追う人には、諦めを。

 危険が迫る人には回避の方法を。

 罪人には人生をやり直すチャンスを。


 私のやったことは、それだけである。

 最初から最後まで、情報提供しかしていない。

 私以外にはわからない貴重な情報が多く、信じた者はそれなりに得をするが、信じなかった者は何も得られない。信じるか信じないかは当事者の自由意思に任される。何も強制しない。

 ここにイデオロギーは存在しない。ネトウヨ呼ばわりされる(いわ)れはない。

 この状況に、私はただ当惑するしかなかったのだが、そのうち私だけではなく、私に相談を持ち掛けた小説家や漫画家にも「ネトウヨ」だの「人種差別主義者」のレッテルを貼る人間が現れたので、笑いごとでは済まなくなった。

 

 いわゆる反体制派がどうしてこういう行動をしたのか。理由が判明したのは、ずっと後のことである。

 以前に書いた「保守政治家のS氏」と会談したあと、左派の人々と話をする機会があったのだが、そこで、私のことをネトウヨ呼ばわりしてきた当事者に遭遇したのである。これは2013年のことだっただろうか。


 彼女(つまり女性だった)は左派団体のメンバーだった。

 彼女の言い分では、私は「黒人男性の医者」から仕事を奪おうとする人種差別主義者らしい。

 ナニソレ。


 前回「ポップスの帝王」で書いたように、私はマイケル氏が医療事故により死亡することを予見していた。そしてその医者が黒人男性であることだけを知っていた。

 だから、黒人男性の医者の診療を受けないように、雇用しないようにと、マイケル氏に提案したわけである。

 これを、彼女は人種ヘイトによるものだと決めつけて、私と、私を訪問した人々をネトウヨの関係者と断定したのである。

 ……ふざけるな。


 この話をしたとき、すでにコンラッド・マーレ―医師による医療事故は起きた後であり、マイケル氏は亡くなっていた。私は話の経緯を説明したが、彼女はポカンと口を開けて当惑していた。私の話の意味を、まったく理解していなかったのだ。


 そんなことわかるわけないじゃないの、などと言い訳めいたことをブツブツつぶやきながら、その女性はまたこう言った。

「XXXXがすぐ近くにいたのに、嫌な顔をしてなかったじゃないですか。あれは何故ですか?」

 XXXXというのは、人の名前だ。誰のことかは知らない。その時まで聞いたことがない名前であったし、聞いた直後に忘れるような、ありふれた名前だった。

 彼女が説明するには、そういう名前の有名なネトウヨがいて、コミケで話をしている私のすぐ側に立っていたらしい。

 彼女の頭の中では、それが私がネトウヨの仲間であることの動かぬ証拠なのだ。


『XXXXが近くにいるなら、普通の人間なら嫌悪感で表情に変化が出るはずだ! だがお前は平然としていた! だからお前はアイツの仲間でネトウヨだ! ドン!(取調室の机を叩く音)』


 ……そういう論理展開らしいのだが、意味がわからない。

「そんな人知りませんよ。だいたい私の周辺にどんな人がいたか、あなた、名前を挙げられますか? マイケル・ジャクソン氏もいたし、ハリウッドの俳優もいた。誰でも名前を知っている企業のCEOだっていた。その人たちもみんなネトウヨ関係者だとでも?」

 私がそう言うと、女性は視線を泳がせた。


 おそらく私は、彼女の世界観から完全に逸脱した存在なのだろう。悪のネトウヨを断罪したと思ったら、まったく無関係だったわけだ。

 その次の彼女の行動は、不愉快極まりなかった。

 一言も謝らなかったのだ。


 その女性の他にも、その場には複数の左翼団体の構成員が集まっていて、私の話を聞きたがっていた。気が乗らなかったが、情報を求める相手には無償で与えるのが私の方針である。

 不承不承ながら、彼らに今後の日本と世界に起きる事件についての情報を与えた。

 先に、保守政治家のS氏に供給したのと、だいたい同じ情報であるが、彼らの行動や発言に釘をさす意図もあったので、少し言い方を変えている。


 まずは、ロシアによるウクライナ侵攻とその影響について。

 これは、先に保守政治家のS氏に伝えたのと同じ情報だ。

 ウクライナ侵攻では、降伏したウクライナの市民へのロシア軍による拷問や虐殺が相次ぐため、平和な統合は不可能であること。

 ロシアによる占領が成功すると、間違いなく世界中で軍拡競争が再開され、核の拡散は不可避であること。第三次世界大戦の危機が現実化すること。

 逆にロシアが敗北しても、平和な時代は終わりをつげ、二度と世界は元に戻らないこと。

 左派は概してロシア寄りの態度を取るものだが、ウクライナ侵攻は世界の平和を破壊するものであるため、私は彼らに、決してロシアを擁護しないで欲しいと要望した。


 二つ目に、2020年前後と推測されるウィルスのパンデミックについて。

 これについては、保守政治家のS氏に対応を依頼したこと、ならびに疫病の鎮圧については決して邪魔をしないで欲しいと要望した。

 HPV(子宮頸がんワクチン)のように、反ワクチン活動をされては困るのだ。


 情報を提供したものの、左派の人々の反応は芳しくなかった。

 半信半疑の有り様で「なぜそんな情報がわかるのかが理解できない」とか「なぜこんな平凡な日本人が、内外の有名人から注目されているんだろう?」とか、そんな疑問をお互いにつぶやいていた。基本的な部分で私の能力が理解できていなかったのだ。

 なお、その場にいて私の話を聞いた人間が、日本の左派のすべてというわけでもないし、従わない人も当然いただろう。だからウクライナ侵攻でロシア寄りの立場を取る人も、反ワクチン活動をする人も、現に存在している。

 だいたい私は情報を与えて「お願い」するだけで、命令できるわけではないから、そうなるのも当然ではある。


 ところでネトウヨ扱いされていたのは勘違いだったと確定したあとも、左派からの私の扱いは「敵」のままであった。左派から見て保守政治家のS氏は敵であり、敵に情報提供をした私も、結局は敵と認識されていたわけだ。

 政治思想の左右に関係なく「選挙に勝って政権を取ったのであれば正統な日本政府として認める」というのが私の立場だが、左派に言わせると「あんなのは選挙じゃない。だから政府も認めない」とかなんとか……それはどうかと思うが。

 態度が酷いと私が文句を言うと、とある映画評論家のセンセイの返答は「うるさい! たとえ今回は誤解でも、お前は別のところで何か悪いことをしてるんだろう!」とのこと。

 もちろん証拠もなければ根拠もない。一度敵と認識した相手は、何が何でも悪い奴ということにしてしまうわけだ。


 政治の本質は数の暴力である。どれくらいの人間を味方に引き入れることができるかで、政治勢力の強弱は決まる。ある立場の人間から見て「正しい」とか「間違っている」などということは、ごく限定的な意味しかない。

 だから政治家の仕事の多くは、話し合って妥協をすることである。そうしないと最大多数を味方にできないし、数の暴力で対抗勢力に負けてしまうからだ。

 左派がいつまでたっても政権を奪えないでいるのは、妥協を拒否して敵に回さなくていい相手を敵にしてしまうからだろう。私への態度を見れば、そう推測するしかない。


 この話には、また不愉快な余談がある。

 私はかつて数多くの漫画の企画立案を行ってきた。そのうち、2004年に出版社E社の雑誌向けに立案した漫画が一本あったのだが、他の立案した漫画が続々と連載開始され、あるいは終了しているというのに、その一本だけが10年近い月日が流れても一向に開始されなかった。

 私はそれを不思議に思い、また、出版業界で力を持つ左派に疑念を抱いてもいたので、この漫画の粗筋を話して、何か知らないかと質問した。すると、その場にいた男が笑いながら一言。

「ああ、それなら俺が止めさせた」

 なんだそりゃ。

「何故そんなことを?」と私が聞くと、その男は一言「だって、お前は敵じゃないの」

 当然のことをしたという口調である。

 こんなことをされては、企画を託した編集者も、漫画家も、巻き添えで不幸になるばかりではないか。

 この時まで、私は日本の左派に対して多少の敬意を抱いていたが、今は幻滅している。あまりにも近視眼的で大局が見えていない。敵か味方かという判断はするが、正義もクソもない。これは一朝一夕には改善しないであろう。

 世代交代でもしない限り無理ではないか。

 この会話から数年が過ぎて、やっと問題の漫画は連載が開始された。左派の人々に何か方針転換でもあったのか。それはわからない。

 もうその漫画は連載終了したし、アニメ化も映画化も果たしたが、結局、私がスタッフに加えられることはなかった。

 つまり私個人としては、何ら歓迎すべきことはないのだった。


予定は未定という言葉はあるけど、次回はリアルタイムで進行中の悲喜劇について書こうと思う。

私はアメリカで第二次トランプ政権が本格始動してからというもの、ずっと胃の痛い日々を送っている。どうも、何かとんでもない失敗をしてしまったらしいことに気が付いたからだ。

その失敗とは、イーロン・マスクという男の話だ。

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