番組が違うじゃないか!
他の話はさておいて、今回のエピソードは創作である。フィクションである。作り話である。そういうことにしておいてくれ。
質問は受け付けない。
一種の霊能者みたいな存在として扱われた私の元には、色々な人間が訪れた。
しかし、中には邪悪な人間もいる。前回のG氏のようなケースは典型だ。
私はG氏の一件ですっかり懲りていたので、幽霊憑きは早めにあしらうことにした。幽霊が憑いてるってことは、その人物の裁きはあの世がすると確定しているわけだ。私が干渉しても何も解決できない。
そういうわけで、その訪問者(名は秘す。とりあえずZ氏とでも呼称しよう)は「幽霊憑き」であったので、一言「あなたは人を〇したことがあるようですね?」と告げて、その反応を確認したあと、お帰りいただいた。
知られたくない秘密を探り当てる霊能者と、話はしたくないでしょう?
後ろ暗いところのある人物にそう言うと、だいたいの人は去っていく。Z氏もそうだった。
問題なのはその後である。
また別の、背広をピシッと着こなしたガタイのいい男が現れて、話を聞かせて欲しいと願い出てきた。
その男の話は、だいたい以下のような内容である。
「……実は先ほどあなたが『人を〇したことがある』と言っていたZ氏ですが……うちの組の幹部に、あいつに多額の金を貸していた人がいましてね……」
この人さっき「うちの組」と言わなかったか? つまりその筋の人か。
「……その幹部はだいぶ前から行方知れずなんですよ。ひょっとして、あなたが言っていた『〇された人』ってのは、うちの幹部じゃないかと、私は疑ってまして……」
ひえっ⁉
ドン引きする私をよそに、男の話は続いた。
恐らく行方不明の幹部は、Z氏によって〇されて、どこかに埋められるか沈められるかしたのだろう。動機は、恐らくは借金を踏み倒すため。
◯体が発見されれば警察に捜査を依頼できる。仇討ちもできるだろう。
あなたの霊能力で、〇体の場所を突き止められないだろうか?
依頼はそういうものだったのだ。
この男が、Z氏が去ったあとに現れたのは偶然ではない。何かの拍子に証拠が出てこないかと、ずっと彼の組のメンバーはZ氏の監視を続けていたという。
聞いているうちに、全身から脂汗が流れ出てきた。
冗談じゃない。
私がやりたいのは「涙あり笑いありの霊能ファンタジー! ポロリもあるでよ!」
その程度のものだ。
断じて「殺し屋イチ」みたいな話にモブとして出演したいわけじゃない。番組が違う。
本当に人を〇した経験のある人間に訪問されたり、血なまぐさい未解決事件を追うスリラーをやりたいわけじゃないのだ。
しかも私は妙齢の美女なんかではない。当時も今も、おっさんである。
これって絶対に、ドラマだと中盤あたりで惨たらしい〇体になって発見されるヤツじゃないか。
「いやぁ〜。お助けしたいのはやまやまなんですが……詳しいことはわかりませんねぇ」
とりあえず当たり障りないように、私はそう答えた。
それ以外に何ができたというのか。
事実、先ほどの訪問者に憑いていた幽霊のことは「男性であること」と「かなり昔に死んでいること」しかわからなかった。捜査の役に立つほどの精度の情報は得られなかったのだ。
近年になって、件の「Z氏」は死去した。
私はひそかに、Z氏が口封じに来る可能性を恐れていたが、幸いにしてその日は来なかった。
おそらく、彼に憑いていた幽霊は本懐を遂げ復讐を果たしたことだろう。誰だったのかは、わからないままだが。
どこかの組の幹部は行方不明のままである。事件が解決することはないのかもしれない。これは私のあずかり知らない話だ。
繰り返すけどこれは創作である。フィクションである。作り話である。
質問は一切受け付けない。受け付けないってば。
最後に書いておくけど、この世には私以外にも幽霊を探知してしまう人がいるわけだが、そうした人はこの話を教訓として覚えておいて欲しい。幽霊の存在に気付くことができる人は、人を〇したことのある人間を判別できる。
だがそのために、事件に巻き込まれる可能性があるのだ。
私は助かったが、これを読む誰かが私ほど幸運であるかは、保証できない。
どうか忘れないで欲しい。