2016年アメリカ大統領選挙
嫌な予感はしていたけれど、やっぱり2024年大統領選挙はトランプが勝ってしまった。
ドナルド・トランプという人物は、発言は無茶苦茶であるし、軍事への理解もないので、動乱の時代の政治家としては問題が多い。
なんでこの人が大統領選挙に勝ってしまうのか。その理由を、昔ある政治家に教えたことがある。その政治家とは……以前「想定外の訪問者」のエピソードで、2003年にアメリカから来た3名の民主党政治家の話をしたが、そのうちの一人である。
名前を、ヒラリー・クリントンという。
もう隠すこともないだろう。私と彼女の会話は先のエピソードどおり「なかったこと」にされているから、この物語は公式に記録されることはなく、認められることもない。
私が彼女に教えた情報はいくつかあるが、そのうちの一つが大統領選挙のことだった。
つまり、ヒラリーとトランプが争った2016年の大統領選挙のことである。
「あなたは大統領選挙に出馬するつもりでしょう? そのとき争うことになるのは、実業家のドナルド・トランプです」
私がそう教えると、ヒラリーは笑い出した。そして何か一言つぶやいた。そばにいた日本語の通訳がすかさず彼女の言葉の意味を教えてくれた。ヒラリーの言葉は「楽勝だわ!」という意味だったようだ。
そして、その言葉を聞いた瞬間、私は彼女が重大な間違いをしていることに気が付いた。
楽勝のわけがない。
「あなたが負ける確率は、現状20パーセントくらいです。油断はできません」
そのように忠告すると、彼女は明らかに機嫌を損ねていた。おそらく、トランプに負ける可能性はゼロだと思っていたのだろう。だから私の言葉は心外に思えたのだ。
私は「負ける可能性」について、解説した。
「90年代以降、アメリカでは労働者の地位の低下が起きている。企業はアメリカの国外に工場を作り、外国人を雇ってお金儲けをしている。それで企業がいくら儲かっても、国内の労働者には何も還元されない。国内ではレッドネックなどと呼ばれ、差別されている白人の貧困層のことを忘れてはいけない。彼らにだって一票はあるのだし、既存の政治家に不信感や不満を抱けば、トランプに投票するだろう。これが、あなたが負ける可能性だ」
こういう意味の話をした。
しかしヒラリーは鼻先で笑って、また何かをつぶやいた。
通訳がいうには「それは負け犬でしょ?」という意味らしい。
……これは洒落になってないぞ。
「今の言葉、ぜったいに人前じゃ言っちゃいけませんよ! 命とりですからね!」
私ははっきりそう教えたが、彼女の反応は鈍かった。
彼女の認識では、貧困層の白人は大した票田にもならない「どうでもいい人」なのだ。だから脅威を感じておらず、他人事のような反応になる。
私の忠告にも関わらず、2016年のアメリカ大統領選挙で、ヒラリーはトランプ支持者のことを「嘆かわしい人々」と呼ぶ失言をしてしまい、敗れた。
ヒラリーは、私の話の意味をもう少し考えるべきであった。
2024年の大統領選挙期間中に、現大統領であるバイデンがトランプ支持者のことを、「ゴミ」呼ばわりしたのも、ヒラリーと同じ失敗を繰り返している。
カマラ・ハリスの選挙戦略も、トランプ支持者を切り崩す内容になっていない。
民主党が採用すべき戦略は、アメリカ国内に暮らす労働者たちに寄り添うことだった。
「私はあなたたちの味方です、あなた達を尊重し、アメリカ国民として誇りに思います」
そう言って、彼らの生活を守る政策を打ち出すべきであった。
トランプは政治家として問題だらけだが、ここだけはうまくやっていた。これは見習うべき点だ。
民主党が負けたのも、やむを得ない。
ところで、私が3名のアメリカ民主党員と話をした後で、私の元を訪れたアメリカ人の映画監督がいる。マイケル・ムーアである。
私は彼に、先ほどヒラリー・クリントンと話した内容について説明した。
マイケル・ムーアは撮影した映画の中で、アメリカの貧困層について何度か触れている。だから、私の話に納得してくれたようだ。後に2016年の大統領選挙で、彼がトランプ勝利を予見できたのは、こういう背景がある。
また、別のエピソードで話したとおり、後に私は日本の保守政治家S氏に会い、2016年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが勝利することを教えた。この情報は、このときヒラリー・クリントンに会ったときに仕入れたものだ。彼女に会わなかったら、S氏にこの情報を提供することはできなかっただろう。
さてはて。来年から再びトランプ政権が始まってしまう。
ウクライナはどうなるのだろうか。闇は落ちてしまうのだろうか。
前回の政権運営の反省から、トランプがもう少し学習して、賢明に立ち回ってくれればいいのだが。
いずれにせよ、私にできることはもう残っていないのだ。ため息をつきながら、成り行きを見守るとしよう。