表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

「陣痛イイ!」とはなにごとだ?

 私は人の顔を見ただけで、その人の才能や向いている仕事を判別できると言ったし、その能力で作り出した作品も多い。

 けど、予想もしない結末を迎えることもある。


 2003年だったか、その前後だと思うが、コミケで偶然すれ違った男性の話をしよう。名前はもう忘れたので、仮にD氏と呼ぶ。

 私の見たところ、D氏はシナリオライターとして適性があった。それまでに彼の書いた文章を読んだことがあるわけではない。ただ、顔を見ただけでそう気が付いた。

 そこで、D氏を呼び止めて、話を聞いてみると、やはり彼はシナリオライターとしての経歴を持っていた。直感が当たったわけだ。


 私は彼が今作るべき作品を一つ提案した。

 とある古参のゲーム会社が80年代に発表したアクションゲームに、美少女の剣士が異世界で冒険する内容の作品がある。とりあえずここでは「V」と呼ぶ。これを、ノベルゲームとしてリメイクし、D氏がシナリオを書けば売れること間違いなし。そう言ったのである。

 この企画は、D氏の顔を見た瞬間に思いついたものである。これはつまり、彼が一番うまくやれる仕事が、この企画だったということだ。


 もしもこの提案通りに「V」のリメイクが作られていれば、私の読みどおりに売れていただろう。


 D氏は私の提案を喜び、自分の仕事仲間を集めて企画を形にしていった。問題は、あくまでもリメイクなので、元作品を作ったゲーム会社であるT社に許可をもらわなくてはいけないことだ。これもシナリオのプロットを完成させてから企画を持ち込めば、実現は難しくない。そう思われた。


 ところが、そこで恐ろしいことが起きた。

 最初に私とD氏が会って話をしているところに、たまたま遭遇した無関係の別人が、私の話に聞き耳を立てていた。そして企画を盗み、T社に先回りして権利を取得し、リメイク版を作り始めてしまったのである!

 なにそれ。


 この業界では、こういう仁義もクソもない行動をする人間がときどき現れる。

 まったく笑えないことに、これによって途中までD氏が話を進めていたリメイクの企画はとん挫してしまった。私にもどうしようもなかった。


 それから数年後、果たして、この「V」リメイクは発売されたのだが、もちろん私の提案とはまったく関係ない作品なので、シナリオはD氏とは別の人が書いていた。しかもエロゲー。

 そして、ある意味伝説的な一本となった。

 とにかく、テキストが酷い。

 作中でヒロインが悪役に凌辱されてモンスターを出産するという展開(トホホ……)があるのだけれど、そこでヒロインが叫ぶセリフが「陣痛イイ!」なのだ。

 エロゲーなんだからエロシーンが入るのはわかる。わかるが、こんなシチュエーションとセリフで抜けると思ったのか。企画を盗むにしたって、もうちょっとマシなシナリオライターを準備できなかったのだろうか。

 当然というか、なんというか。

 この作品はまったく売れず、T社はその翌年に潰れた。


 近年になって「V」は正式なリメイク作品が作られたが、公式サイトでも、この駄作版「V」は存在しない扱いになっている。なぜって、そりゃあそうだろう。


 なお、企画を不当に奪われたD氏は、コネを結集して、企画を盗んだ人間に復讐を果たしたという。これは人から聞いた話である。それが具体的に何をやったのかは知らないし、そもそも真偽もわからない。私も調べるつもりもない。関係者も口をつぐむだろう。

 これは語られることのない物語である。

 あな恐ろしや。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ