未来記憶仮説
注意事項あり。
この話は、ただの推測である。
だから、まったくの見当はずれの可能性がある。それを頭に入れて読んで欲しい。
まず、いわゆる超能力と呼ばれる現象の大半は、ただの錯覚か手品である。
人間の脳みそが、直接、物理的な影響を与えることは現実にはない。意識を集中しようと、念力で空を飛んだり物を持ち上げることはできない。
ところが、歴史的な例を見ても「予知能力者」を始めとして、情報収集に関する能力については、古来より世界中に例がある。
人類に普遍に見られる現象であるということは、錯覚や手品で片付けて済むものではない。
私自身の経験から言って、予言というものは「ある日、何かをきっかけとして、突然頭に浮かんでくるもの」である。
断じて「考えたらわかる」「意識を集中したらわかる」ようなものではない。
この感覚は、ちょうど「思い出す」に近い。
この経験から導かれる個人的な「仮説」がある。
人は何のために記憶を持つのかというと、過去のデータを参照して、現在に役立てるためである。前例があることは、再び起こり得ることだから。
予知能力者の正体は、参照できるデータの中に未来の記憶が混じっている人々のことである。霊能力とか千里眼とか呼ばれているものも、おそらく能力の源泉は同じである。
ではなぜ、未来の記憶を思い出せるのか。
すべての核心にあたる真相は、おそらくこうだ。
「この世のすべての人間は、生まれた段階で、死ぬまでの未来の記憶が頭の中にある」
予知能力者にできることの大半は、普通の人にもできることである。両者は、ハードウェアとしては、違いがないはずである。
では両者の違いはソフトウェア、自分の頭脳をどのように使うかという部分にあるのだろう。
予知ができる人間が未来の記憶を持つのであれば、それ以外の普通の人も、同じく未来の記憶をもっていなければおかしい。
こう考えてみると、普通の人が予知ができないのは、その未来の記憶にプロテクトがかかっているからと解釈することができる。
逆に予知能力者は、プロテクトを破って未来の記憶を参照できるわけだ。
これが脳のバグなのか、それとも仕様なのかは不明であるが。
あくまでも個人的な仮説だ。現時点では証明する方法が発見されていない。
とりあえず、未来記憶仮説とでも呼称しよう。
世界中に予知に関する伝説や怪異譚が伝わっているのは、この未来記憶を呼び出せる人間が人種国籍民族に関係なく一定の確率で出現するからだ。そう考えれば説明が付く。
余談になるが。
私が自分の能力を使う機会があるたびに、実にたくさんのコネが生まれ、実にたくさんの人々が私の元を訪問した。それも、どんどん大物が増えていった。
これはなぜかと思っていたのだが、どうやら世の中には、予知能力者を探している人間のネットワークが存在するらしい。誰かが本物を見つけると、その情報はネットワークを通じて他の人にも伝わっていく。
驚いたことに、大企業のCEOや大物の政治家ほど熱心に異能者を信じている。
しかも、どういうわけか、彼らは漠然とではあるが、本物の予知能力者を判別する能力を備えている。これも一種の能力なのだろう。
そういうわけで、たった一人の予知能力者が世界の歴史を永遠に変えてしまうことがある。
これもまた、この世界の真実なのだ。
予知がこれほどの効果を発揮するのであれば、いつかその実在に気が付く科学者が出現するであろう。
そしていつか、予知の仕組みが科学的に解き明かされる日が来るだろう。
人工的に予知能力者を生み出す日も来るかもしれない。そしてその日、予知能力者は孤独ではなくなるはずだ。
この「未来記憶仮説」が、その一助となってくれれば嬉しい。
もちろん見当はずれの可能性もあるし、そうだったら残念であるけれど。