リア充はみんな死ねばいい
二十代の僕は荒んでいた。
街にカップルがいた。
「死ねばいいのに」
と僕は呟いた。
芸能人の結婚発表を見た。
「法律が許すなら殺してぇ」
と僕は思った。
アニメを見た。ラブコメを見た。エロ漫画を観た。
みーんな素敵な恋をしてやがる。
気に入らねぇ。
たまに日本に現れる通り魔みたいな奴はこんな気持ちなのだろうか?
モテる通り魔なんていないだろうし。
「らっさーせ。あんざした」
新しくオープンしたコンビニ店員が気に入らなかった。
何だその挨拶?
ツンツンヘアー。細い眉。細い目。厚い唇のニキビヅラの小僧。
死ねよマジで。
「……あっ。袋いりません」
でもこんな奴が怖い自分が情けない。
それから僕はこいつがレジにいる時は怖いので他の店員が来るまで買い物が出来なかった。
今は我慢だ。どうせすぐにクビになるか逃げ出す。
コンビニの仕事は楽じゃない。
・
「ほぅ。そうなのかい?」
「うっす。大学生活は楽しいっすよ。あんざしたー」
「またねぇ」
「アイツ」はなかなか辞めない。
俺は何年もこの辺に住んでるのにご近所付き合いはほとんどない。
なのにあいつはいつも楽しそうに客と話をしている。
泥だらけで昼飯を買いに来る作業員とも仲がいい。
「媚びてんじゃねぇ、事故って死ねよ社会のゴミ」
僕は本当にこいつが嫌いだ。
・
「やっと辞めた!あいつは逃げた!」
しばらくアイツを見なかったので僕はそう思った。
ざまぁみろ根性無しがよ。
数年持ったのは褒めてやる。
・
「おつかりーっす」
「あれ?」
深夜に酒を買いに来たらアイツが来た。
なんだよ。深夜シフトにしただけか。
左手の薬指には指輪。
外を見た。
ぬいぐるみだらけの黒の軽。運転席には金髪のヤンキー女。
「こ……この野郎!」
女が出来やがった!恐らく年上の。
殺してぇ!マジでぶっ殺してぇ!
この後はあのヤリマン女とズッコンバッコン中出しセックスか!?お前みたいなやつはコンドーム破けて子供出来て地獄を見ろ!
・
アイツのツンツンヘアーが七三分けになった。
眉毛も太過ぎず細すぎず整っている。
「らっさーせ。あんざしたー」
なんかもう。疲れた。
こいつはずーっとコンビニで働いて頑張っている。
僕は37になっていた。相変わらずリア充アンチの独身だ。
認めよう。
こいつは偉い。大したもんだ。
俺はゴミ。
生ゴミでごぜーやす。
「結婚されるんですか?」
コイツと出会って十数年。初めて話しかけた。
きっかけも理由もない。
『なんとなく』が突然来たのだ。
「はいっ。やっぱりお客さんにはバレちゃいますよねー」
「あー。僕のこと認識してるんですね」
「もちろんっすよ!超常連ですもん!いつもありがとうございます!お疲れ様です!」
あっ。ヤバい。泣く。
僕も年を取った。
頑張ってる若者を見るとすぐに涙腺にくるようになった。
甲子園なんて気軽に見たら号泣する程だ。
「お客さんが好きな麦茶!大きいやつがまた発売するそうっすよ!」
「それはいいね」
僕は友達がいないので、僕がとあるメーカーの麦茶を好んで買うなんてこの世でこの子しか知らないだろう。
本格的に泣きそうだ。
僕は支払いを済ませた。
「あんざしたー!」
「お幸せに」
「あーーーざーーーっす!」
自動ドアを開けて外に出るとあの車の中に黒髪の女がいた。
あの子の彼女か。黒髪にしたのか。
両親に挨拶する時に好感度を上げるために……いや、こういう想像は失礼だな。
しかし長いこと続いたね。君ら。
目があったので礼をすると、向こうも俺よりも深い礼で返してくれた。
ヤリマン女とか思ってごめんね。
「麦茶ですか!?」
「むむむむ麦茶ですっ!」
いきなり声をかけられてビックリした。
彼女の「なんとなく」も今日だったのだろうか?
「お疲れ様です!」
「はいっ!」
何が「はい」やねん。
僕のコミュ症は筋金いりだなぁ。
「あー。超セックスしてぇ」
僕はそう呟きながら買ったばかりの麦茶をガブガブ飲んだ。
彼らとは今も軽い挨拶や世間話は出来る関係だ。
辛い時、困った時。おっちゃんに出来ることがあったら言うだけ言ってみな?
ねぇか。