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第一章 5
街のあちこちで逃げ惑う人々の声や、誘導する自警団の声、その中に人々を襲撃し蹂躙しようとしている声が混じっていた。
情報を収集することが己の責務だと知っているが、それでも目の前の現状を止めたいと切に願ってしまっている。それが己の責務を放棄することだと理解できているが、頭で理解していても、心がそれを求めていた。
「動きたいか」
いつの間にか背後を取られていたが、責務を放棄しようとした己を罰することのできる唯一の存在に頭を垂れる。任務中に背後を取られることが死を意味することは身を以て知っていた。
「忠実すぎるのも、困ったもんだな」
世界で唯一人、忠義を尽くす人。
けれど本当はそれを望まず、国民という一人となって生き、自由になりたいのだとよく聞かされた。それでも忠義を尽くし、この国に在り続けてほしいのだと、示すことしかできない。
「行け」
己以外の者も頷く気配があり、混乱に陥っている現場にそれぞれ散っていった。