第三話
ダンジョンに着いた俺は既に駆けつけている冒険者協会の男性職員に声をかける。
「すみません、個人依頼を受けてきました。」
「あ、はい、って鳳優斗さんですか!?前回の危険区域探索の配信見てました!!」
「あははは…ありがとうございます。」
男性職員は俺を見るなり名前で呼んでくる。
見た目的に結構若そうなので今年入った新人とかだろう。
まぁ、おそらく俺よりは年上だろうが。
そんなたわいもない話をしていると、よく見知った顔の女性職員が近づいてきた。
「こら!石井!冒険者の方に馴れ馴れしくするんじゃない!冒険者の方はお客さまだ。もっと丁寧に接しなさい!」
「はぁい…」
若い男性職員はしょぼんとしてからとぼとぼと歩いて去っていった。
時々こちらを伺ってくる辺り、未練たらたらと言った感じだろう。
「すまないねぇ、鳳くん、うちの若いのが。」
「いえいえ、神谷さんも大変ですねぇ。」
「はははは、いやいや、冒険者の方に比べちゃあ楽なもんだよ!」
豪快に笑うこの人は、この近くの冒険者協会の支部で支部長をしている人で名前は神谷麻美子と言い、冒険者からはマムやおかん、ボスなどと呼ばれている人だ。
この人は『冒険者はお客さま、でも私の眼前で問題を起こすやつは客じゃ無い』をもっとうに掲げている人で、冒険者からの信頼も厚く、特に初心者の冒険者に色々とノウハウを叩き込んでいる人だ。
かく言う俺も、初心者の頃は色々とお世話になり、頭の上がらない存在の1人だ。
「そんで、個人依頼だったっけ?どうせ、新島に押し付けられて来たんだろ?」
「あはは…まぁ、そうです…」
「一度あいつにガツンと言ってやろうかい?」
「いえいえ、新島さんにはお世話になっていましたし…」
「そうかい、まぁ、困ったことがありゃあなんでも良いな!そん時は力になってあげるからねぇ!」
そう言うと、神谷さんは豪快に笑いながら仮設テントへと帰っていった。
相変わらず、元気な人だなぁ。
そんな事を考えつつ待っていると、色々な方向から他の冒険者達が集まって来た。
ここに集まった人たちの目的は全員同じだ。
それは、反攻作戦とも呼ばれる氾濫したダンジョンに逆に乗り込んでいくと言う作戦に参加する為だ。
先程も説明した通り、氾濫を起こしたダンジョンから出て来た魔物は確実に魔石を落とすのだが、それはダンジョン内部でも例外では無い。
しかし、違いとしては、内部のモンスターは進化している段階が一段階や二段階ではなく、最低でも四段階は進化している。
さらに、ボスも平常時とは異なり、氾濫前のダンジョンの二段階上の難易度のボスが出てくる。
今回の場合は、Cランクダンジョンの氾濫なのでAランク相当のボスが出てくる事になる。
さらには、道中の雑魚敵もゴブリンやホブゴブリンでは無く、ゴブリンメイジやゴブリンソルジャーと言った特殊な敵がうじゃうじゃといるだろう。
その為、反攻作戦に参加できる冒険者はランクA以上のみと決まっている。
ちなみに反攻作戦の参加は強制では無く、希望者のみの参加となっている。
ただ、反攻作戦に参加した場合、収入は魔石他に冒険者協会から支払われる特別報酬が入ってくる。
ちなみに俺は個人依頼も引き受けている為、そちらの報酬も入ってくる。
やったね!
……ってなるわけがないだろ!
反攻作戦は正直に言ってとても面倒臭い。
と言うのも、敵の数が表に出てきた数の比ではなく、およそ3〜4倍程いる。
さらには、事前に記録されていた地図が地形の変化のせいで使えず、冒険者は各自で冒険者アプリのマッピング機能を使ってマップ埋めをしていかなければならない。
正直、反攻作戦まで参加するのは、この付近やそのダンジョンで活動している冒険者か、名声や金、実績狙いの冒険者しか居ない。
俺は誰にも該当しない為、新島からの個人依頼でも無ければ今すぐにでも姉へのプレゼントを買って帰りたかった。
だが、このまま帰ろう物なら新島に何をされるか分かったもんじゃ無い。
俺は早く帰るために気合を入れるのだった。
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それから数分後、冒険者達に呼び声がかかった。
集まった冒険者は21人。
全員がAランクを超えている。
そうして冒険者達が一箇所に集まり始めた時に前に立って大きな声を上げる人がいた。
メガホンも持っていないのによく通る神谷さんの声だった。
「よく集まってくれた!これからこのダンジョンへの反攻作戦を開始する!依頼は単純だ!マッピングしながら最下層へと降りて、そこにいるボスを倒す事だ!ルールはもっと簡単だ!問題を起こすな!生きて帰ってこい!以上だ!それじゃあ!反攻作戦開始!!」
「「「「「「おおおおお!!!!」」」」」」
神谷さんの説明に冒険者達は大声で答える。
「おおー」
俺も小さいながらも答え、キューブを形成する。
そして、他の冒険者達の後に続いてダンジョン内部へと侵入していく。
周りを見るとほとんどの冒険者はパーティを組んでおり、1人なのは俺とその為数人だけだった。
いや、別に悲しくは無いけど…
そんな事を考えつつダンジョン内部に到着する。
ダンジョンの入り口付近は氾濫の際にほとんどが外に出てくるため、モンスターが居らず、嵐の前の静けさとでも言わんばかりの静かさだ。
そして、しばらく進むと道が4本ほどに分かれていた。
「さて、どうしたものか…」
そう悩んでいると、他のパーティに居た女性冒険者が他の冒険者達に声をかけ始める。
「集まったのが21人ならさ、一つは6人、残りは5人で分かれて探索したら良いんじゃね?ほら、パーティ同士で分かれて、人数少ないところは1人の人とか他の人数が少ないパーティの人と入るとかさ。」
まぁ、定石だろう。
何本も道が分かれていて人が多くいる場合、一つの道にこだわらず均等に分かれて探索を行うと言う方法を取る。
とくに、今回の場合は戦うにしても人が多く乱戦になった場合に事故が起きたり争いの元になりかねない。
どう別れるかだが、どう分かれても俺は1人なので構わないが、他の人達の分配次第と言った所だろう。
「じゃあ、俺たちの所は4人パーティだから、先に分かれておく。」
なかなかに強そうな社会人らしき男4人組が一塊になる。
「俺たちは5人だし、そのまま行く事にするよ。」
最初に声を上げていた女性冒険者が居たパーティはどうやら5人だったらしく、そこも一塊になった。
「ウチら3人なんだけど、2人パーティの人いない?」
大学生くらいの女性3人のパーティが他の冒険者に声をかける。
「じゃあ、僕たちが入りますよ。ちょうど2人なので。」
そこに、同じく大学生くらいの男二人組が入ってそこも一塊になる。
「では、残りの中からソロの人が1人俺たちのパーティに入ってそれで決まりで良いだろう?」
そう、最初に分かれていた男だけのパーティのリーダーらしき人が言う。
「じゃ、じゃあ僕が。」
そう言って手を挙げたのは、気が弱そうな高校生くらいの冒険者だった。
気が弱そうな高校生くらいの冒険者は男性4人のパーティの元へと向かう。
「よし、では決まりだな。お互い健闘を祈る。」
そう言うと、男性4人+気が弱そうな高校生冒険者のパーティは一番左の道へと入っていった。
「では、俺たちもこれで。お互い気をつけて行きましょう。」
そう言って5人パーティだった人たちはさっきの人たちが入って行ったところの一個右の道へと入って行った。
「じゃ、ウチらも行こっか!」
「はい、よろしくお願いしますね。」
軽く言葉をかわしてから3人の大学生くらいの女性と男性コンビもその一個隣へと入っていく。
「では、我々も行くか。」
そう言ったのは、俺と同じ所へと進むことが決まったパーティの1人だった。
その言葉に皆が頷くと、一番右の道へと進んで行った。
少し進んだ辺りでお互いに自己紹介をして行く。
どうやら、俺ともう1人以外の4人は同じパーティらしく、全員大学生の同級生だと言う。
年齢を聞いたところ、全員が俺と同じ歳である19〜21とAランクにしては比較的に若い。
その理由はなんと、全員がユニークスキルを持っているかららしい。
正直、身内でこんだけユニークスキルを持っていると感覚が麻痺していそうだが、本来ならユニークスキルの発現率は150人に1人でかなり珍しい。
それなのに全員がユニークスキル持ちって…
自己紹介で聞いた名前は、
パーティが決まった時に最初に声をかけていた人は藤堂元と言う名前で体はがっしりとしていて剣士であり、パーティリーダーをしている21歳の人だ。
次に紹介されたのは女性の冒険者で、篠原亜弓と言う人で年齢は内緒とちょっとお茶目っ気がある人で、出る所はしっかりと出ていて、顔は童顔、パーティ内では回復士をしているらしい。
次は男の人で名前は神崎隼人と言い、年齢は20歳で藤堂さんとは高校時代からの同期らしく、細身だが筋肉はある程度ついておりかなり真面目な人で、魔法使いをしていると言う。
最後に紹介されたのは、女性で名前は赤城陽菜と言い、年齢は俺と同じ19歳、全体的にスラっとしていてどことは言わないがぺったんこで腰にレイピアをさしており口数が少なく、寡黙な印象を受け、パーティ内では騎士と言う特殊な役回りをしていると言う。
後、俺以外にいたソロの人だが、
名前は綾波透で年齢は29歳、普段は会社員をしながら休みの日に同僚達とダンジョンに潜っているらしく、何とこの人もユニークスキル持ちだと言う。
いや、ここまで来るとAランク全員がユニークスキル持ってんじゃ無いかと疑いたくなるが、Aランクでユニークスキルを持っている人の割合は出ており、およそ30%だと言う。
これは、Aランクまで来れる人は才能か努力もしくはその両方をしてきた人のみと言われているからだ。
基本的にAランクまで来れる人は冒険者登録出来る16歳から始めてユニークスキルを持っていれば20までになれ、持っていなくても努力をすれば25までにはなれると言われており、もし30になってもなれなければ諦めろとも言われる。
ちなみに、ここにいる全員が16歳の時に登録したとのことだ。
俺含め。
後、俺の名前を聞いてピンときたのは綾波さんと赤城さんだけだったらしく、やはりSランクの冒険者や表で華々しい活躍をしている人ほどの知名度は無いのだなと痛感した。
それでも、俺と面識すらなかったのに俺のことを知っている人が4人もいた事に驚きだが。
…そう言えば、白石さんは無事に逃げれたのだろうか?
また後で連絡しておくか…
そんな事を考えながら皆んなの後ろを着いて歩いていると、藤堂さんが敵を発見したと言った。
「敵はゴブリンソルジャーが14体とゴブリンメイジが3体、ゴブリンボマーが2体だ。」
「うへぇめんどくさいのいるじゃん。隼人ー、ゴブリンボマーを魔法で打ち抜けない?」
「無理を言うな。余りにも遠いし俺の魔法じゃ威力が足りない。」
ゴブリンボマーがいると聞いて、篠原さんはあからさまに面倒臭そうな態度を取る。
それもそのはずで、ゴブリンボマーは遠距離だとその腕力と投擲術を生かして爆弾を投げてきて、爆弾が少なくなるとそれを持って特攻してくるのだ。
しかも、ゴブリンボマーはやけに装甲が硬く、気付かれて特攻されるとかなり危険だ。
「じゃあ、俺がゴブリンボマーを片付けますよ。」
俺はそう言うと、戦闘技能の詠唱をする。
「戦闘技能 二連狙撃銃」
そう唱えると、キューブの大部分が二つの銃口が付いた1mちょっとの狙撃銃に変化する。
この狙撃銃は、二発の弾丸を同時に発射でき、何故か向いていない方向にも弾を飛ばすことの出来る狙撃銃だ。
ちなみに7/10も使うので、基本は遠距離狙撃で敵がこちらに気づいていない時にのみ使う。
「戦闘技能 白き鷹の眼」
もう一つの戦闘技能を使うと、キューブの残りが完全に光の粒子へと変化し、俺の右眼に集まり、スナイパーのスコープのような物が形成される。
この戦闘技能は白き鷹の眼と言い、狙撃の命中率がほぼ100%になると言うチート技だ。
これと狙撃銃を使うと10/10全てを使うため、隙が大きく、敵に完全に気づかれていないかつ仲間が近くにいる時に敵を減らすための狙撃でしか使用し無い。
その為、普段の攻略ではソロのときに使うことは無いが、今日はパーティが居て、敵にも気づかれていないと言う最高の条件だ。
「何それ、すっごい!」
「ちょ、声大きいって」
篠原さんが大きな声を出した事に神崎さんが注意し、篠原さんははっとしたように口に手を当てる。
気づかれてたら使えない所だった。
ゴブリン達を見てこちらに気付いた様子がない事に安堵しつつ、白き鷹の眼でゴブリンボマーに狙いを付ける。
まずは2体。
引き金を引くと同時に二つの銃口から、貫き尽くす弾丸よりも長くて先端が鋭利な銃弾が発射される。
発射された銃弾は、ゴブリンボマーの頭に吸い込まれるようにヒットしその頭を完全に吹き飛ばして紫色の血の花が咲く空中に咲く。
ヒットを確認すると、俺は狙撃銃の側端に付いた引き金を引き、引いたことにより生じた穴から濃い紫色の空の薬莢を排出する。
この機能は本来ならば要らないのだが、俺が何となくこう言う感じだろうと言う想像でこの狙撃銃を戦闘技能として登録したため、必要な行動になってしまった。
排莢を終えると、先程のヒットに驚いた様子のゴブリンメイジに次弾を発射する。
次いで発射された銃弾はゴブリンメイジに命中し、ゴブリンメイジは上半身が丸ごと吹き飛びゴブリンボマーよりも大きな紫色の血の花を咲かせる。
ゴブリンメイジとゴブリンボマーが黒い粒子になり消え、魔石になったのを確認した藤堂さんが皆に突撃命令を下す。
真っ先に飛び出したのは藤堂さんと赤城さんで次いで綾波さん、その後に神崎さんが行き、さらに俺と篠原さんも後に続く。
俺は狙撃銃と白き鷹の眼を元に戻してから詠唱をする。
「戦闘技能 魔術師の槌矛」
そう唱えると、手元に光の粒子になったキューブの半分が集まり、メイスの形になる。
しかし、そのメイスの先端は持ち手と素材が違い、宝石のようになっている。
「魔法スキル 瞬雷!」
そう唱えると、メイスの先端が水色に光る。
このメイスは、魔法を溜め込むことができ、打撃によって敵を攻撃すると、その魔法の効果も打撃攻撃に加算されると言う物だ。
ちなみに込めた魔法である『瞬雷』は、発動が早い麻痺攻撃で、少々のダメージと麻痺効果を有している。
これを選んだ理由は魔法を使うための魔力と呼ばれるものの消費がとてつもなく小さいからだ。
俺は、先に戦っている人たちの邪魔にならないようにゴブリンソルジャーの頭を殴りつける。
殴られたゴブリンソルジャーは高い防御力と耐久性から即死こそしなかったが、瞬雷の麻痺効果で動けず、そのまま2撃目を入れる。
そのニ撃目でゴブリンソルジャーは絶命し、俺は別のゴブリンソルジャーへと向かう。
てか、赤城さんがとてつもなく素早く捌いていっている。
突然ゴブリンソルジャーの前に現れたと思ったら瞬く間にレイピアによる何連撃かも数えられない連撃を入れてはゴブリンソルジャーを倒していっている。
綾波さんや藤堂さんもそれなりに強いのだが、赤城さんは頭ひとつ抜けている印象だ。
それから、ゴブリンメイジの方は冒険者のセオリーである遠距離攻撃してくる敵は遠距離攻撃が出来る冒険者が潰すと言うセオリー通りに神崎さんが魔法で倒して行く。
てか、魔法の精度がとても高く、他の人に飛んで行った魔法を空中で自身の魔法をぶつけて相殺している。
後、篠原さんは藤堂さんや綾波さんがダメージを受けるごとに回復したり、皆んなにバフをかけたりしている。
中々にバランスの良いパーティのようだ。
そんなこんなで戦闘が終わり、みんなが一箇所に集まる。
「鳳君の最初のやつ凄かった!あの銃みたいなの何!?」
「あれは俺のユニークスキルですよ。」
「あれのおかげでボマーを気にせずに戦えたからな。ありがとな、鳳。」
「いえいえ、臨時とは言えパーティなんですから。」
「その後の魔法武器も凄かったね。あれは何てアイテム?」
「いや、あれもユニークスキルで作ったやつです。それよりも、神崎さんの魔法コントロールが凄かったですね。空中で相手の魔法を相殺してましたし。」
「僕もユニークスキルに頼っていてね。ただ、魔法のコントロールだけは自分の力でやってるけど。」
え?凄すぎない?魔法は当然動くから、その着弾地点を予測して速度を計算して、その上で自分の魔法の速度も考慮しなければいけないからかなりの神業だ。
「正直なところ割とどう言うところがユニークスキル頼りなのか気になりますけど、マナー違反なので辞めときます。」
冒険者同士のマナーとして、お互いのユニークスキルなどの戦闘能力を詮索しないと言うものがあり、主な理由はスキルなどは冒険者の商売道具のため、それを詮索しては失礼だからと言う物だ。
実際、無理に聞こうとして言い争いから殴り合いにに発展したケースも存在する。
その為、冒険者協会はこの事に直接的には触れないが、そのような場面を見かけた際には注意していると言う。
所謂、暗黙の了解と言ったところだ。
そんな小話もほどほどに、お互いの消耗具合を報告しあってから、先に歩みを進めた。
一日で三話分書き進めて予約しました。