第二話
ダンジョンに向けて市街地を歩いている途中、十匹ほどのホブゴブリンに囲まれている人が居るのを見つけた。
どうやら、冒険者のようで、軽装に双剣と言った素早さ重視の装備をした高校生くらいの女の子だった。
戦闘を見ていると、攻撃はなんとか躱してはいるものの、ときどき当たってしまっており、女の子の攻撃の方はホブゴブリン達には軽く、決定打になっていないようだった。
基本的に冒険者が戦っている所への介入はマナー違反とされており、苦戦しているように見えても勝手に介入してしまえば余計なトラブルの元になってしまう。
その為、冒険者が苦戦しているように見えたら、自分が戦って勝てるのかを解析し、勝てるのならばまずは手持ちのスマホなどで動画機能を回して記録を残せるようにし、それから交戦中の人へと手助けはいるかと確認し、いるようであれば介入する、と言った少し面倒な手順を踏む必要がある。
まあ、これを徹底していなかった時代では作戦を練って戦っていたのに横槍に邪魔されたり、手助けを頼んだ後で俺は手助けを頼んでいないと喚き散らかし最悪ダンジョン内で殺し合いになったりと様々なことがあった様だ。
俺は、スマホを取り出して動画を回し、そのままポケットへと戻す。
そして、女の子が戦っている場所へと近づく。
「手助けはいるか?」
女の子はびっくりした様子で一瞬こっちを見ると、
「お願いします!」
と返してきた。
その返事を聞くと同時に詠唱する。
「戦闘技能 魔法剣」
唱え終わると、立方体の一部が光の粒子へと姿を変え手の付近へと集まり、ロングソードと呼ばれる剣の形へと姿を変える。
その剣のを握ると一気に加速してホブゴブリンに駆け出す。
ホブゴブリンの一部はさっきの女の子への問いかけでこちらに気を取られていた様でこっちを見ていた。
一瞬で距離を詰めた俺は、剣でホブゴブリンの首へと斬りかかる。
「まず、一匹」
斬りかかられたホブゴブリンの首は抵抗もなくストンと地面に落ち、黒い粒子へと変わる。
その勢いのままに二匹目へと斬りかかり、一匹目と同じように首を切り落とす。
「戦闘技能 貫き尽くす一の弾丸!」
二匹目の首を落とすと同時に詠唱をし、先ほどよりも少ない弾丸を生成する。
この貫き尽くす弾丸は数字を変える事で消費する容量が変わり、その数が増える。
一につき消費容量は1/10増えていき、弾丸の数は十発ずつ増える。
コストパフォーマンスがなかなか良い技でクールダウンも10秒ほどと短く扱いやすいのだが、威力がそこまでない為、防御力が高い敵やオークなどと言った脂肪で守られている敵には効果が薄い。
ただ、ゴブリンは一部の上位種を除けばこの弾丸で貫けるので、同じく消費容量1/10の戦闘技能である弾道解析機で弾道を制御し、使うことが多い。
ただ、今回は弾道解析機を使っている暇は無い為、自分自身で弾道を制御しなければならない。
「発射!」
ホブゴブリンに狙いを澄まして弾丸を発射する。
弾丸は吸い込まれるようにホブゴブリンの眉間へとヒットしていく。
ヒットしたホブゴブリンは、先程と同様に眉間から紫色の血を噴き出しながら後ろに吹き飛んでいく。
「残り一匹」
しかし、残りの一匹と俺との間には先程の女の子がいる為、弾丸で狙うわけには行かない。
周りの仲間がやられたことに気が付いた残り一匹がヤケクソで女の子へと攻撃しようとする。
「戦闘技能 設置型盾」
攻撃しようとしているのを認識すると同時にそう唱えると立方体の一部が粒子となり、女の子とホブゴブリンとの間に殺到し、そのままバリスティックシールドの様な形へと変形してがんっという音を鳴らしながらホブゴブリンの攻撃を受け止める。
それに驚いたのか、女の子は転倒してしまった。
それを確認すると、もう一度加速して残っていた一匹の元へと斬りかかり、その首を飛ばす。
「討伐完了」
全てのホブゴブリンが魔石に変わったのを確認し、最初に出していた剣と先程出した盾を解除する。
そして、座り込んでいる女の子の元へと近寄っていく。
女の子をよく見ると、黒く長い髪を後ろで結んでおり、顔立ちは整っており、17〜18くらいにみえる。
「大丈夫か?」
「は、はい!ありがとうございます!」
「怪我は無いか?」
「さっきゴブリンから受けた攻撃で足をやられたみたいで…」
足を見ると、そこには打撲痕から血が出ていた。
「歩けそう?」
「すみません、無理そうです…」
女の子は下を向きしょんぼりとしていた。
「ふむ…スキル『簡易回復』」
怪我をした箇所に手を向けてスキル名を唱えると、女の子の足に黄緑色の光が灯る。
すると、血が出ていた箇所が止血され、打撲痕が薄くなった。
「これで歩けるかい?」
「は、はい、ありがとうございます!」
「いやいや、ちゃんとした処置は冒険者協会か病院で受けてくれ。」
「は、はい。」
女の子は立ち上がると頭を下げてお礼を言ってくる。
「それじゃあ、早めに避難するんだよ。」
「あ、あの!」
俺はホブゴブリンの魔石を回収し終えて立ち去ろうとすると、女の子に呼び止められる。
「何かな?」
「連絡先を教えて頂けませんか?ち、ちゃんとしたお礼をしたいので。」
「別に気にしなくても良いよ?」
「い、いえ、私が気にするので…」
ふむ、律儀な子だな…
そう考えつつ、俺はポケットのスマホを取り出す。
録画状態になっていたのでキャンセルしてメッセージアプリを開き、QRコードの画面を出す。
「これで良いかな?」
「は、はい!今すぐ読み取ります!!」
女の子はあたふたしながらスマホを取り出すと、すぐさま操作して俺のスマホの画面に映し出されたQRコードを読み取る。
読み取られた俺のスマホには友達追加の通知が来た。
俺がスマホに目を向けると、そこには『白石由奈があなたを友達に追加しました』と表示されていた。
「白石さん、で良いのかな?」
「は、はい!白石由奈って言います!」
「俺は鳳優斗だよ。」
俺の名前を告げた途端、白石さんは一瞬固まる。
「そ、それって、前回の第16回目の特別ダンジョン指定危険区域探索隊の1人の鳳優斗さんですか…?」
「そ、そうだけど…」
「じゃあ、あの『黒翼の弾丸』の!」
「ぐはっ…!」
俺は思わずひざまづく。
『黒翼の弾丸』とは俺の二つ名だ。
ちなみに自分でつけた物では無い。
いや、こんな恥ずかしい二つ名自分で付けてたら相当痛いだろ。
この二つ名を付けたのは、昔に一時期パーティーを組んだことがあるSランク冒険者の人だ。
黒い翼で駆けつけて何発もの弾丸で敵を滅ぼす姿に感銘を受けただそうだ。
ちなみにその人の二つ名は『黒柩の執行者』だ。
自分で付けたらしい。
正直、そんな名前で呼ばれて恥ずかしく無いのかと思う。
本人は大層気に入っている様だが。
「その二つ名はやめてくれ、羞恥心で俺が死ぬ…」
「ご、ごめんなさい!」
「いや、良いんだ、悪いのは君じゃない…」
そう、悪いのは白石さんじゃ無い、悪いのは黒柩のやつと冒険者協会の上層部に居ながら悪ふざけの化身と化している新島綾人だ。
新島綾人は黒柩が俺の二つ名を提案した時に悪ふざけで了承した。
俺の意見も聞かずに。
「ま、まぁ、気をつけて避難するんだよ…」
「は、はい、ありがとうございました!」
俺はよろよろとしながらダンジョンの方へと歩いて行く。
その後、幸いにもダンジョンまでのモンスターは他の冒険者達によって狩り尽くされており、立ち直れていない心のまま戦うことは無かった。