7つの節目の倣い事
目が覚めたばかりだからと寝ているように言われたが現状把握をしたいので話を頼んだ。
が、先に着替えだけはと二人に勧められて従う事にした。
確かにこの汗まみれの肌着も服も気持ち悪いし。
皐月さんが着替えを手伝ってくれているうちにお医者さんは私の両親へ連絡してくると言う。
この部屋を見る限りそこそこお金持ちのお家のようだ。
両親共に仕事でどうしても出なくてはいけなくてお医者さんを呼んだと言っていたので間違いないだろう。
訪問医だけならば田舎でも珍しくはないがその医者に留まってもらうのはお金持ちか死に際の患者の家くらいなものだろうし。
着替えのついでに布団も新しい物を用意してくれた皐月さんは先程の騒々しさが嘘のように身の周りの世話をこなしてくれた。
そのうちお医者さんも戻ってきてここ数日、私の熱が出た経緯を教えてくれた。
そもそもゆかりと呼ばれた私はなにやらその道の名家らしい。
その道、とは陰陽師、祈祷師、呪術師なんて呼ばれるような日本の霊能力者だそう。
その中でも稲荷に縁のある家系らしく私もその能力の開花により発熱したそうだ。
こうして能力開花時に身体に変化が訪れるのは珍しい事ではないそうで私の遠縁にあたる皐月さんも風邪を引いたと言っている。
「7歳までは神の子、という言葉がありますでしょう?
才能のある子は大体7歳前後でこうして能力に目覚めるんです」
「7歳…?」
それにしてはこの身体はせいぜい4、5歳くらいの発育程度だと思うんだけど…
私の疑問をお医者さんがにこやかに答える。
「7歳と言っても数えで、ですよ」と。
ならば納得出来る。
数えで7歳ならば実年齢で5歳くらい。
幼稚園くらいで間違いない。
「能力が高い程熱が出たり体調を崩すんですよ
お嬢様も一週間程高熱だったので先に身体が駄目になるのではと心配しました」
「い、一週間も…」
「あまりに続くと脳細胞が破壊されますからねぇ」
「先生、怖い事おっしゃらないでください!
お嬢様はこうして無事だったんですから脅かさないでも良いじゃないですか」
「構わないわ
変に隠し立てされるよりよっぽど信用出来るし
それで先生、私の能力は強い方なんですか?」
「そうですね……日本でもトップクラスの可能性を秘めていると思いますよ
お嬢さんはまだご自身の狐と契約はまだでしょう?
その狐次第になるとは思いますが」
「狐と契約?」
「私も先生もお嬢様と同じ家系なので自分の狐がいますよ!
遠縁なので血が薄くてそんなに力も強くはありませんけど」
「そうなの?
その契約ってどうするの?」
「焦らなくてもご両親がお帰りになられたらすぐにでも行くとは思いますよ
今までは神の子という事で無条件で八百万の神から護られていましたが神の子から人の子になった今はその加護が薄れてしまっているので
お嬢さんの体調が戻れば直ぐにでも狐の住処に行くでしょうね」
「ふぅん、そういうモノなのね
ねぇ皐月さん、その狐の住処ってどんなところ?」
「たっくさん鳥居があるんですよ
イメージとしては千本鳥居が近いですかね
ほら、あの鳥居がトンネルみたいに幾つも並んで立っている
その鳥居の一つ一つに狐が宿っているんです
その中から自分に合った狐を探すんですよ」
「へぇ、楽しそうね」
「あの光景は本当に素晴らしいですよ
さて、そろそろお嬢さんは眠った方が良いですね
早く治すなら睡眠と食事をしっかりとらなくては」
「分かりました
じゃあ皐月さん、お粥が出来たら起こしてもらえる?
それまで少し眠っておきますから」
「はい、準備してきますね
先生もありがとうございます
また何かありましたらお呼びしますので」
「頼みましたよ
それとご当主様が帰られたら連絡ください
また出向きますから」
二人が細々と打ち合わせしながら部屋を出て行く。
全てを燃やし尽くすんじゃないかと思っていた熱もだいぶ落ち着いている。
少し休んだらもう少し回復しているだろう。
そうしたらこの聞き覚えのあるこの家の事を考えなくては。
千本鳥居は京都にある稲荷。
この小説では魔法ではなく霊能力が出てきます。
あまり馴染みがないとは思いますが分かりやすい説明や解説が出来れば良いなと思います。