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腹黒な兎のエッセイ

歯医者に行こう

作者: 腹黒兎

これは、エッセイになります。

作者の実体験。


 届いたハガキには『定期検診のお知らせ』と行きつけの歯医者の名前が書かれていた。

 溜息が出る。

 行きたくないが、行かなくてはならない。歯のために。分かっていても嫌なものは嫌だ。

 歯医者が苦手だ。大好きという人の方が少ないんじゃないだろうか。

 あのキュイィィィィンという機械音と独特の匂い。

 入った瞬間に足が止まる。

 苦手でも行かねばならない。芸能人じゃなくとも歯は命。後何十年も世話になる永久歯はサメみたいに生え替わらないのだから。


 私を歯医者嫌いにさせたのは、近所のじいちゃん先生だった。

 前歯を麻酔なしで治療されて痛くて泣いたら「泣くなっ!隣の子は泣いてないやろが!」と大声で怒鳴られた。隣の子とは治療内容が違うだろ。と思ったが、当時8歳の私が大人に口ごたえできるはずもなく、我慢して治療を受けた。

 後で聞いた話だが、家族経営のその歯科医院ではじいちゃんが1番下手らしい。ジーザス!

 子供の時に嫌な思いをしたので、自分の子には歯医者の評判を調べて定期検診を受けさせている。

 いくら良い歯医者でも苦手は変わらない。もう魂レベルで苦手だ。


 花粉アレルギーを持つ私は、スギ花粉時期は片方が必ず塞がっている。故に、花粉が舞い散る季節の歯医者はキツい。万が一鼻が両方詰まれば呼吸ができなくなるから。

 けれど、どうしてだろうか。花粉の時期に行かなきゃと思い出す。どMか。

 届いた定期検診のお知らせを見ながら躊躇い、色々と理由をあげつらって定期検診を受けなくなり2年が過ぎた。

 違和感はあったのだが、騙し騙し来たが限界が訪れたのがGW目前の4月。

 歯が欠けたのだ。

 元々、生え方がおかしくて、虫歯になりやすい歯だった。その歯を舌で触ると一部欠けているのが分かる。

 やばい。これはまずい。嫌だけど、心底行きたくないけど歯医者に行かねばなるまい。

 他にも絶対に虫歯があるはず。なんで、定期検診に行かなかったんだ、私。

 ああ、行きたくない。行きたくない。

 過去の自分を責め立てながら向かったかかりつけの歯科医院で告げられたのは「神経抜かないとダメかもね」という無慈悲な言葉だった。


「神経(抜かなきゃ)ダメですか?」

「うーん。もうちょっと削ってギリいけそうなら残す?神経ないと歯が脆くなるからね」

「じゃ、見てからお願いします」


 しかし、やっぱりダメだった。


「神経までやられてるから、取った方がいいよ。取るってより切るんだけどね。いい?」


 ダメという選択肢は無いに等しい。

 泣く泣く承諾した私に医者は更なる選択を迫った。


「削ったとこを被せるんだけど、どうする?銀とプラスチックなら保険効くけど、セラミックは保険効かないんだよ」

「プラスチックとセラミックの違いって何ですか?」


 よほど大口を開けなければみえない場所だが、斜めに生えていた上に治療で3分の1が無くなっている歯だ。なるべく保護してあげたい気持ちはある。


「セラミックは高いけど耐久性は1.5倍ぐらいあるよ。見た目も違和感ないしね。まぁ、お財布と相談なんだけどね。保険効かないし」


 そりゃそうだ。治療代含めてお値段10万円程。

 これは家計から出せやしない。

 悩みに悩んだがセラミックでお願いした。

 今なら貯めたヘソクリがある。これは旦那の稼ぎから貯めた金では無く、純粋に私が貯めた金だ。なので、どう使おうと私の勝手。

 まだまだ人生長いのだし、このくらいの贅沢はしてみたい。

 って事で。旦那様には内緒で高額な歯を入れる事にした。

 決意した私に医者は「セラミックだとちょっと準備がいるから次回は1時間半ぐらい時間取っててね」と軽く言った。軽く聞いた私はまさか2時間もかかるとは思ってもみなかったし、あんなに大変だとは思わなかったのである。



 治療当日。ドキドキしながら、口を開ける。

 そこからは痛いというより、口の渇きと顎の痛さとの闘いだった。

 麻酔してるし、途中で追加麻酔もしてるから、歯は痛くない。神経切っても痛くない。

 ただ、顎が痛い。ほぼ開けっ放しの唇はカサカサに乾いて「うがいしてください」と言われても唇が張り付いて上手く動いてくれない。

 何よりも、ずっと器具をつっこまれ、工事現場さながらの音がずっとしている。

 もう何をされているのか分からない。頭の中では「虫歯建設株式会社」という歌の文句しか出てこない。あれは虫歯で、私のは治療だけれども。

 ようやく半分と言われて、うがい休憩をもらう。


「今、土台作っててちょっと尖ってるから舌で触らないでくださいね」


 と歯科助手が告げる。

 土台ってなに……。

 頭の中では建設会社が基礎工事してる様しか浮かばない。

 土台……。なんの……いや、歯だろう。治療してるんだから。

 触るのが怖くて、全力で舌を逆側に固定する。

 次のうがい休憩で「もう少しですからね」と言われ、恐る恐る舌で付近を探ってみる。

 すると、無いのだ。何って歯が。

 いや、歯はある。あるはずだ。

 だが、斜めに生えていた、そこにあるはずのエナメル質が無いのだ。

 え?かろうじてあった外側を削ったの?歯茎付近に無いんですけど、どこまで削ったの?

 怖くて確認できない。確認したところでもう後戻りなどできやしない。

 まな板の鯉、あるいはドナドナの仔牛の気分で工事は続く。


「セメントで仮歯を接着しますね。ちょっと苦いですよ」


 私の不安を置き去りにして、口内の工事現場は着々と進んでいく。


「仮歯なんで固いものは噛まないでくださいね」

「ふぁい」

「次は、GWを挟むんで技師さんとかお休み入るので1ヶ月後ですね」


 1ヶ月も仮歯なのか。と、色々思わなくも無いがカサカサパリパリな唇と疲労困憊で「ふぁい」と返事して帰宅した。


 その翌々日、器具を突っ込まれて引っ張られていた口端が口角炎になり皮膚科へ直行する羽目になる。

 口が開かない。控えめな「い」が精一杯、「あ」の口にすると切れる。

 1週間近く唇が痛かった。



 1ヶ月後に出来たセラミックの歯はどう見ても差し歯だった。歯じゃんそれ。マジで私の歯どんだけ残ってるの?

 小心者な私は聞けないまま治療は終了。いまだに謎です。多分中身がちょびっとしか残ってないんだろうなぁ。


 でも、1ヶ月がかりの治療よりも、次に治療した前歯の方が精神的にキツかった。

 トラウマはどこまでもトラウマだ。



 こんな話を聞いてもらった姉は、親知らずのせいで口腔外科で治療しないといけないらしく、その治療内容を聞いて戦慄した。歯の治療で全身麻酔とか怖すぎる。

 全身麻酔に抵抗のある姉は部分麻酔で、手術に近い親知らずの摘出を4回受けた。脱帽である。普通に歯医者で対応出来た私の親知らずを褒めてやりたい。


 自分じゃどうにもならない事もあるが、虫歯予防は自分次第。

 定期検診って大事。恐れずに行こう!


 そうは思うが、行くのを躊躇う自分の未来が見える。ただ、今度は1年と開けずに行きたいと思う。


お読みくださり、ありがとうございました。


たぶん、そんな大変な目にあった訳じゃないけど、私的には十分大事でした。

あれからちゃんと検診には行ってます。

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様でした……。 夏月は、歯医者を苦手って思った経験は無いので、未だに抵抗感は無いのですが。苦手な人って多いですよね。 でも、子どもの頃にこんな体験してれば、そりゃあ嫌になるなって思いま…
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