初めての帰路
「君は幸せ者だね。天使様と呼ばれる私と付き合えてっ」
「そうだな。まあ……色々と恥ずかしいところを見られちゃったけど」
夕焼け色が目立つ空模様。
俺は振られた今日、一週間だけ天使様と付き合うことになった。
初恋の相手に振られたばかりだったこともあり、彼女の優しさが胸に沁みる。
今、こうして歩いている通学路はきっと、小鳥遊がいなければもっと暗いものだっただろう。
「早速だけど、付き合い始めたばかりなんだからカップルらしいことしないとね」
そう言うと、彼女は俺の手を握ってくる。
母親や幼い頃の椎名以外の女性に手を握られる経験なんてなかったもので少しドキリとしてしまう。
しかも、俺と彼女は今日付き合い始めたばかりだ。
それも少し変わった形で。
でも、彼女の堂々とした姿を見ていると何故か心を許してしまう。
「帰路、手を繋ぐカップル。といえば何かな?」
なぞなぞのような物を、首を傾げて小鳥遊が出してくる。
「……恋愛小説の読みすぎじゃないか? 絶対お前携帯小説とか好きだろ」
「失礼だね! まあ好きだけど! 憧れてたけど!」
ふくれっ面になった小鳥遊は、一歩前に出てにっこりと笑う。
「ここの通学路にはクレープ屋さんがあります。というわけで、寄り道しちゃいましょう!」
「ああ、そんなのあったな」
最近出来て、近場の女子高生に話題の店だ。
あまりデザートとかには興味がなかったから、彼女の一声で存在を思い出した。
クレープ屋の前は、多くの女子高生が列をなしている。
時間は十七時前。まあ、この時間帯なら女子高生が多いのも分かるな。
小鳥遊は駆け出して、列に並ぶ。
そして、手を振りながらこっちに来るよう促してきた。
「えへへ。行列に男の子と並ぶなんてことが、まさか現実になるなんてなぁ」
「これも携帯小説のシチュにあったのか?」
「もう! 携帯小説は分かったから! ……ちなみにありました」
少し落ち込む姿も、さすがは天使様だ。
様になっている。
それにしても、長い行列だな。
待ち時間は二十分くらいはありそうだ。
「ね、みんな私たちのこと。ちらちら見てるよ」
つま先立ちをして、小鳥遊が俺の耳元で囁いてくる。
そこで、周りを見てみると通り過ぎていく人たちや、列に並んでいる人たちがこちらを一瞥していた。
制服からして、俺の学校に人たちだろう。
男子生徒もたまに通りすぎていて、「なぁ、多分俺たちは幻覚でも見ているんだよな」と言いながら去っていく。
「なんか……恥ずかしいな」
「それもまた一興」
なんて駄弁っていると、俺たちの番が周ってきた。
俺は何を頼んだらいいのか分からなかったので、とりあえず定番そうなバナナチョコクレープを選んだ。
「えーと、私はバナナホイップチョコクレープの、クリームとチョコソース多めで!」
「今にでも魔法が発動しそうな長さだな……」
「こんな短いワードで魔法なんか発動しないよ……もしかして年齢詐称してる? 四十代だったりする?」
「……ピチピチの十六歳だ」
「十六歳が自分のことをピチピチなんて言わないよ」
そんな会話をしていると、クレープが完成したらしい。
俺は通常の大きさのを、彼女は「これ、食えるのか……?」と思ってしまうほどのサイズのクレープを持っていた。
小鳥遊はその巨大サイズのクレープを美味しそうに頬張る。
俺も倣って、クレープをかじる。
……甘いな。
幼馴染に振られてすぐに食べるには、少し甘すぎる。
俺が微妙な心境でクレープを眺めていると、
「えいっ」
急に俺の頬に彼女は指を当ててきた。
「なんだ?」
「クリーム付いてたよ?」
「ああ、ありがと。今ティッシュ出すから――」
バッグの中を漁ろうとした瞬間、彼女はクリームを自分の口に頬張った。
ちょっと待て。それは少し問題だぞ。
「お前……本当に恋愛小説の読みすぎはよくないぞ」
「でも、ドキドキしたでしょ?」
「……それは、まあ」
恋愛小説というか、携帯小説も悪くはないかもな。
こんなシチュなんて普通なら体験できない。
彼女は恋愛に飢えていたからこそ、このような現象が発生しているのだろう。
「おいしー!」
美味しそうにクレープを食べる小鳥遊を見ながら思う。
彼女は、学校の天使様と呼ばれている。
クラスメイトから神聖視されていて、自分でも言っていたが距離を置かれていた。
かえってそれが、彼女を孤独にしていたというのも事実だ。
どこか、自分と同じように思えてくる。
俺の場合はただの陰キャだけど、友達なんて片手で数えられるくらいしかいないけど。
彼女も俺と同じで、孤独だったんだ。
「どうしたの?」
ずっと見つめていると、彼女が小首を傾げて不思議そうに尋ねてきた。
「いや、ちょっと小鳥遊との関係も悪くはないかなって」
「卒業できるから?」
「……ノーコメントだ」
「ふふふ、可愛い子だねぇ」
この様子だと、これからの一週間。ずっとからかわれてばかりだろうな。
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