やはり、彼女は天使様だ
今回の件は多くの生徒たちが注目していたこともあり、廊下の窓からも生徒たちが覗き込んでいる。
その誰もが口を半開きにさせて、彼女の発言を聞いていた。
多分、というか彼女は間違いなく今。
とてつもなく恥ずかしい発言をしているのだろう。
自覚しているのだろうか、顔を真っ赤に染めて肩を震わせている。
「私は、夏樹くんのことが本当に好き! 脅されてなんかいないし、もしそうなら誰かに助けを求めてる!」
ぎゅっと拳を握って、高らかに宣言する。
俺はただ、その光景を呆然と眺めていた。
多分、心境としては他の生徒たちと同じだったと思う。
どうして俺なんかのためにここまでしてくれるのだろう。
どうして夏樹みたいなやつのために、ここまでしているのだろう。
結論としては、いくら考えたって出てこなかった。
だって、まだ俺たちは付き合いはじめて一週間ちょっとだ。
確かに……キスはした。もちろん頬キスだけど、確かにした。
でも、それでも俺たちの関係はたった一週間なのだ。
「小鳥遊……お前……」
思わず声に出てしまった。
それほどまでに衝撃だったのだ。
「みんなはあまり夏樹くんのことを知らないかもだけど、すごくいい人なの。例えば……そう。見ず知らずの人にも、困っていたら身を挺してかばってあげるような優しさを持った素敵な人なの!」
小鳥遊はお腹の底から張り上げるような声で叫ぶ。
……俺はそこまでいいやつじゃないよ。
一瞬でも、椎名に復讐したいなんて思ってしまうくらいには悪いやつだ。
それに、見ず知らずの誰かを助ける勇気なんて俺にはないと思う。
でも……何故か彼女が言っていることは正しいように思えた。
理由は分からない。
……俺は、見ず知らずの誰かを助けたことなんてあるのか?
この一週間ちょっと。彼女の目の前で誰かを助けた記憶なんて一切ない。
なんなら助けてもらってばかりだ。
俺は……もしかして俺は知らないだけで見ず知らずの誰かを助けていたのか?
記憶にすらない、遠い昔に。
……いや、そんなわけがない。俺に、そんな勇気はない。
けれど、小鳥遊がそう言ってくれたのはとても嬉しかった。
自分がどれだけ恥ずかしい思いをしたとしても、俺を守ろうとしてくれる姿勢に感動すら覚えた。
「小鳥遊さん、それって本当なの?」
「本当に小鳥遊さんは大丈夫なのか? 本当に夏樹に脅されていないのか?」
「本当だよ! 夏樹くんは、そんな人じゃない!」
そう叫ぶと、俺の方に駆け寄ってきて手を握ってきた。
「自分から手をつなぎに行って、幸せだな。なんて思うくらいには好き!」
正直、俺の頭は真っ白だった。
分からない。どうしてここまでしてくれるのか分からない。
でも、嬉しい。
「……そうなのね。分かった。わたしたち信じるね」
「夏樹、悪かった。俺たち、お前を嫉妬していたのかもしれない。そんな時に、こんな都合のいい情報が流れてきたから、疑いもせずに信じちまった」
先程、俺に殴りかかろうとしてきた生徒が頭を下げてくる。
俺は「顔を上げてくれ、俺は大丈夫だから」とすぐにお願いした。
それからは早かった。
すぐに情報は間違っていたことが学校中に広がり、事態は沈静化した。
お昼休み。
俺たちは屋上に集まって、お弁当を食べていた。
もちろん、小鳥遊の手作りだ。
今日も今日とて、彼女の手料理は美味しい。
「なぁ、小鳥遊。お前はどうして俺のために、そこまでしてくれるんだ?」
俺は小鳥遊に尋ねてみる。
すると、破顔してみせて、
「お礼だよ。覚えていないかもだけど、ずっと前のお礼をしているだけ」
ずっと前。
俺は、昔彼女と会ったことがあるのか?
分からない。分からないでいたが、彼女はそれからも笑ってみせていた。
「それよりも、喫茶店。楽しみにしてるね」
やはり、彼女は天使様だ。
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