夜の空
屋上で一時間目をサボった俺たちは、その後は普通に教室に戻った。
もちろん、古典の教師にどやされたのは言うまでもない。
ただまあ、それからは特に何もなく平和な一日だった。
椎名がなにか仕掛けてくる気もしていたが、そんなこともなかったし。
学校が終わり、俺たちはいつも通り一緒に帰ってそれぞれの家に戻る。
夜、俺はシャワーを浴びたしご飯も食べたので寝る支度をしているとスマホが震えた。
「あれ、小鳥遊か」
珍しいな。というか、連絡先を交換したはいいもののお互い電話をするなんてことはなかった。
メッセージはしていたけど、大体はそれで済ませていたからだ。
電話に出ると、
『うぇーい』
と溌剌な声が聞こえてきた。
もう二十一時過ぎなのに、元気なものである。
「どうした。電話だなんて珍しいな」
『珍しいこともたまにはしてみないとねー』
と、楽しげに答えた。
声だけで嬉々としているのが分かるのは彼女の良さだろう。
表現が豊かと言うべきなのだろうか。
ともあれ、そんな彼女の声を聞いているとどこか癒やされる。
「あ……そうだ。椎名の件、ありがとう。俺がはっきりと言うべきだったのにな」
『いいんだよ。私も私でイラッときたからさ!』
そう返してくれて入るが、俺はちょっと不甲斐ない気持ちになっていた。
一応椎名は俺の幼馴染である。
そして、こうなってしまったのも元をたどれば俺の責任でもある。
なので、あそこは俺がはっきりと言うべきだったように思う。
「でも――」
『まあみなまで言うな。ガハハ、苦しい時も共有しあわないとね』
『共有』と言う、彼女の言葉が心に沁みる。
そうか。俺たち付き合っているんだもんな。
経緯はなんであれ、俺たちはちゃんと付き合っている。
でも、俺はまだ彼女に何もできていない。
「なぁ。今度の放課後喫茶店にでも行かないか。お礼……になるかは分からないけど、おすすめの場所があるんだ」
『いいねぇ。いいよ、行こう』
小鳥遊はニシシと笑い声を上げる。
『あ、そうそう。電話した理由忘れてた』
「ああ。そういえばどうしたんだ?」
訊いてみると、コホンと咳払いをしたあとなにか擦れるような音がした。
『ベランダに出てみてよ』
「ん? ああ、もちろん構わないが」
言われるがまま、俺もベランダに出てみる。
そこからは、いつも見ている街の風景が見えた。
なんの変哲もない、普通の風景だ。
『空を見てみてよ。今日、すごい綺麗な空してるよ』
「空……あ、ほんとだ」
見上げてみると、綺麗な星々が瞬いてきた。
普段夜のベランダに出て空を見上げることなんてなかったから、少しだけ感動してしまう。
『君はどちらかと言えば、下を向いてばかりだからね。たまには一緒に空でも見上げようかと』
「なかなかいい趣味してるな」
『えへへ。そうでしょ』
俺はスマホ片手に空を見上げる。
今、俺たちは同じ空を見上げている。
距離は少しあるけれど、きっと見えている星々は変わらないのだろう。
『これも共有。幸せの共有だね。いいでしょ? たまには空を見るのも」
「ああ。いいものだ」
電話越しではあるが、隣に小鳥遊がいるような気がする。
それは彼女が、さながら近くにいるかのような話し方をしているのもあるのだと思う。
けれど、彼女自身の優しさの影響も少なからずあるだろう。
俺たちはまだ付き合って一週間ちょっと。
だけど、距離はかなり近づいているのだと思う。
『それじゃ、喫茶店は明日にでも行こうよ』
「ああ。いい場所だから楽しみにしておけよ」
その後も少し離したあと、夜も遅いのでお互い寝ることにした。
床について、俺はしばらく天井を眺める。
「本当にいい子だよな。小鳥遊は」
俺には本当にもったいないくらいだ。
さすがは学校の天使様である。
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