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#2 晴天の下で包帯は勲章を語る

 空間いっぱいに広がっていたダークオレンジの線香花火のような細い最後の火花が今、柔らかに消えた。

 初めてのたった1人の戦闘は生涯記憶に残り得るほど壮大なもので、手応えのようなぼんやりとしたものを得たような気がしている。

 ダークオレンジスパークルの光が消えて1度暗闇に返ったあの時、そう……ただ月の光だけが青緑の瞳をギラリと輝かせていた1時間前、恐れ慄く自分をくしゃくしゃに丸めて、どこかに投げ捨てるまで3秒もかからなかったのは同級生と厳しい修業を辛くも思い出深く乗り越えられたという気持ちがあった故だろう。

 長く鋭い爪で空を切り裂く音、焦げた匂いと田んぼの匂い、戦闘の激しい様子に逃げる生物も入れば、戦闘中もいつものように鳴き続ける虫もいる。そんな生命を感じて………………、3分。目を瞑ったまま体を大の字の仰向けで息をしていた。その間、おじいさんは何も言うことなく黙ったまま見届ける。時間はかからないだろうと予想していたかのようだ。上体を起こし、手をついてライガは立ち上がった。

 現在は21時18分。切り傷を負った至る所に汗が染み込み、激痛が走る。


「……うっ、ああぁっ……くっ……」


 血の色が徐々に変色し始め、固まり始めても傷口の中心はまだ生々しい。初任務の成功を己の身を通じて感じ取りながら帰路についていた。

 怪我を負ったおじいさんと共にようやく家に戻ってきた。玄関で待っていたお婆さんは2人の様子を見て、すぐに手当てをする準備を整えてくれた。町の医師が駆けつけ、おじいさんと共に傷の手当てをしてもらった。消毒をしてもらったり、包帯を巻いてもらったりした。


「ありがとうございます」


「今日は泊まっていきなさい」


 おじいさんのお言葉に甘えて、そうすることにした。和室に引いてもらった布団にライガは疲れ果てていたため、その夜はとのおじいさんの家に泊まり布団に入るなり、ものの数分で寝息を立て始めた。寝返りも少なく天井を見たまま、彼は戦いの疲れを癒している。疲れ切った体では布団に飛び込むことさえ不可能だ。


 チュンチュンと鳥の囀りが耳に届き、徐々に眠りが冴え始めた。夢の中でも青緑と戦い続け、現実と区別がつかないほどの対決に勝利した幻の後の朝ではまだ体の疲労は70パーセントも残っていたというところだろうか。

 夜中に何度も覚醒しそうになるも、その度に青緑の幻に夢の世界へ引き戻された。永久に戻れないかもしれないとさえ、勝利したから起きられるとさえ、彼はそんな気がしていたのだ。

 首が痛く思うように首が動かない。実戦からこんなに筋肉を使っていなかったかと少しショックを受ける。足も痛い、腕も痛い、全身が痛いってのが布団の中で動かなくても分かるもんで、体が重い。


 ……痛っ???


 筋肉ではなく骨がなぜか痛んだ、いや圧迫されたのか、なんてことを寝起きの状態で感じ取っていた。

 ぼんやりと開いた目で世界が見え始めたと同時に誰かの声が聞こえる。何かで突かれた?


「…………っさい…」


 やっと目の霞みが取れてきた……、馴染みのある声だ……。


「……っさ…きな……い!」


 仰向けで寝ているライガの上に誰かがいる。


「さっさと起きなさい……よん!!」


 パッと目が覚めた視界の先には枕元で膝をついた女の子がいた。


「あっ、……ああぁー。……ふぅわあぁぁぁああー」


 その知り合いの顔を見て、ライガの頬が緩む。大きなあくびをした後に背伸びをして、掛け布団の上に手を置いた。


「おはようー」


 まぶたが完全には開ききっていない状態のライガは少々かすれ気味の寝起き声でそう言うと、


「はい、おはよう。よく起きられましたねー。パチパチパチ」


 ふん、とライガは少し笑って、


「なんじゃ、そりゃ」


 指で額を突いていたのは共に小さい頃から修業をしていた幼馴染の佐保風涼花(さおかぜすずか)であった。年は同じく、小学3年生。ライガのライバルの1人である。

 昨夜、初めての1人の任務ということから4つ上の先輩から連絡が来たようだ。4つ上ということで先輩は中学1年生である。

 途中まで楽勝でしたとか、そうすると気を抜いてしまって、、、などと話し、それを聞いて涼花はやって来たようだ。まぁ、その先輩っていうのが涼花の兄だったりするわけだが。


「大丈夫なの?」


 本日は土曜日。起き上がって正座したライガは、涼花越しにこの日本家屋越しの日本晴れの空を見て、深呼吸をすると自然と疲労が一時的としても心の中から消えていくような気がした。

 目をしっかり開けて、


「ああ! 大丈夫だぜ!!」


 ライガの笑顔は涼花を笑顔にする。英訳してみるならRaiga’s smile makes Suzuka smile. といったとこだろうか。このような英語の授業で使われるような文章で表現ができるこの部屋におばあさんが入ってきて、


「朝食できましたよ。遠慮なく食べてくださいね」


 気づけば、いい匂いがキッチンの方から漂ってきていた。2人とも自然と食欲がわいて、迷わず、


「はいっ、いただきます!」


「すみません、私まで」


 布団を片付け、服を着替えた。食卓に向かう廊下で取るに足らない話とかではなく、同じく昨日の夜に初任務を終えた涼花の話を聞いた。そっちの方は4体の青緑が出現したらしい。30分前後で任務クリアだったとさ。


「修業で学んだことをきちんと実戦でも行うってことが大事ね!」


 なんて涼花は言っているが、この時、ライガは思った。


きちんとやってるんだろうなー


心の中でそう思いながらうなずいていた。


 椅子に座り、目の前の朝ご飯に胸が高鳴る。白いご飯、焼き鮭、豆腐とわかめの味噌汁、卵焼き。心身ともにお疲れーーーーなライガにはまったりとできる朝になった。


「ごちそうさまでした! すんごくおいしかったです!!」


「よかったわ」


 おばあさんとの話をひととおり終えると、涼花の眼差しが少し鋭くなる。


「そ・れ・で・ライガ、次の任務よ。この町から南南西に5キロの町、そこが次の任務地。悪いけど、休んでる暇はないわ。今日は土曜日だからまだ余裕あるなんて思わないでね。宿題の計算問題100問。まだ終わってないんだから、私たち」


「朝から嫌なこと思い出させないでほしいかったなー」


 出発の準備を整え、玄関の引き戸をスライドさせて外に出た。


「お世話になりました」


 深くお辞儀をすると、


「いえいえ、それはこちらの方ですよ。本当に助かりました。これで町に笑顔が戻ります」


「お前さんのおかげじゃよ。またいつでも来なさい、ごちそう用意して待ってるぞ」


「ありがとうございます。では、また」


「失礼します」


 ライガが振り向いて進んだと同時に涼花はそう言いながらお辞儀をしてライガについて行く。次の町に進む途中、後ろを振り返って見送るおじいさんとおばあさんに大きく手を振りながら、涼花は横にいる同級生の包帯が朝の光でより一層白く輝いているように見えた。

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