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その四 突撃

十月十九日に佐賀を立った鍋島の軍勢は両国の国境(くにざかい)でもある筑後川の浅瀬を、一発の銃弾も浴びずに渡り終えた。


侵攻してくる敵の大軍が最も無防備になる渡河中を狙って、銃撃を加えない手はなかったはずである。


それも戦国最強最速の速射術を誇る立花軍がである ・・・・


鍋島と立花との不自然な決戦はこうして幕を切った。


筑後川を渡り終えた鍋島の一隊は国境を警備する城島城に突入したが、勇猛を誇る立花の守備隊はすでにも抜けの殻であった。


その報を得た鍋島直茂は、立花宗虎が徳川への恭順を決心したことがいよいよ本物であるとの確信を得た。


後は安心して与えられた役回りを演じるのみである。


戦国最強の鉄砲隊とうたわれる隣国、立花の矢面に立つのは不本意ではあったが、これで鍋島は正真正銘の東軍(・・)と歴史に刻まれることが約束された。


一方の立花宗虎も最期まで豊臣家に忠節を尽くした、正真正銘の西軍(・・)として長く人々の心に刻まれることになるである。


それぞれの事情と意地をかけて、小野鎮幸(しげゆき)率いる立花3千と鍋島三万二千は、予ねて決戦の地と取り決めを交わしていた江上八院で対峙した。


立花の突撃力を知る鍋島勢は三万二千を十二段に及ぶ段構えに布陣して待ち受けた。


多段構えの陣であればたとえ幾段か突破されても敵の突撃が止まったところを一気に包囲して殲滅できると踏んでいた。


立花の突撃部隊は三隊でしかない。


その第一陣は安東久照、第二陣は石松政之が率いた。


「頭数ばかりの鍋島など、筑後川で蜂の巣にして綺麗さっぱり有明の海まで流し清めてくれたものを ・・・・ 」


久照が未練がましく鍋島勢を睨んだ。


「致し方あるまい、勝つための戦ではないのだからな」


「本気で勝とうと思うならまだ手はあるぞ。

城下に引き入れて水路や堀り越しに鉛玉を浴びせ掛ければ相手の人数などかえって多いほうが無駄弾丸を気にしなくて済むだけだ。

我らの鉄砲がその威力を最も発揮するのは、城砦の高みや堀越しから寄せる敵めがけ雨あられと速射を浴びせかける籠城戦でござろう ・・・・ 」


「左様、しかし野戦に於いても我らの鉄砲は他家とは一味も二味も違い申す。

鍋島はたっぷりとそれを味わうこととなるであろう。 

我らは命より大切なも(・・・・・・・)のを守るための捨石となるのだからな ・・・・ 」


「 ・・・・ 」


「さて、腰が引けているとでも思われて、御家老より催促が来ぬうちに仕掛けるとするか」


「おう、今度貴様と会うのはあっちでだな」


「ああ、あっちでだ」


果たして第一陣安東、第二陣石松らは次々と鍋島勢十二段の軍陣の中へ突入していった。


双方の鉄砲が火を噴いた。


鍋島の鉄砲隊は、一、二射撃っただけで両脇から後ろに下がり、次いで長槍隊が前面に立って突進してきた。


長槍隊の背後からは山なりに弓隊の援護射撃も加えられた。


一方、立花は鉄砲を前面に据えたままずんずん前進した。


撃っては弾を込め前進し、撃っては弾を込め前進しで、間合いはあっという間に詰まり鍋島の槍隊と弓隊は一切仕事をさせてもらえずに崩れた。


背後の騎馬隊も堪らず左右に割れた。


次いで鍋島の二段目が鉄砲を一、二射撃ちかけ、またすぐに後ろに下がった。


立花は途切れることなく鉄砲を速射して前方の敵を圧倒し、その進撃速度は一向に衰えることを知らなかった。


鍋島の二段目が崩れた。


これが延々と繰り返された。


立花の突撃部隊はどこまでも深く鍋島軍に突き刺さった。


立花は鉄砲を突撃銃として活用した世界初の軍隊だった。



   家康はこれを恐れた!



だからこそ大津城を囮の砦に仕立てて、井伊直政の調略により立花を関ヶ原から遠ざけていたのである。



   かつて松平元康の頃の自分が、信長によって桶狭間から遠ざけられたように ・・・・

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