あしあと
白い花が咲きました。
この喜びを誰に伝えましょう。
しゃがみ込み、その花に触れてみました。
触れた途端、
散ってしまいそうで少し怖かったけれど
そっと、ちょんと触れてみたのです。
ふるりとふるえたその姿
それは、
太陽の暖かい日のことでした。
眠りたい。
朝になっても目が覚めず、ただひたすら眠りたいと
そう願っていました。
この願いを誰に届ければ叶うでしょう。
ある夜、夢を見ました。
おかしな夢です。
登場人物はかぐや姫。
それはかのお姫様が月に帰ったあとのお話。
あれほど願って帰った月なのに、毎日思うのは青い地球のことばかり。
恋しい恋しいおじいさん、おばあさん。
懐かしい家と暮らし。
今度は地球へ帰りたい。
逢いたい人がいるからと。
わがままばかり言うお姫様。
かの作者は、月に帰ったあとのお姫様について考えたでしょうか。
なんとおかしな夢でしょう。
ねえ、かぐや姫の願いは叶えられたでしょうか?
幸せって、どうして一つじゃ満足できないのでしょうね。
自転車に乗って、街に出かけました。
目的地はなく、ほんの思いつきです。
前から思っていたことがあるのです。
あの角を曲がれば何があるのだろう?
あそこを行けば何処にたどり着くのか?
見慣れた街だけど、まだ通ったことのない道。
それは、小さな冒険。
高い建物から見下ろした街は意外に広く、
行き当たりばったりの探検をしてみたかった。
感じたことがあるでしょうか、このわくわくした気持ち。
ああ、でも少しの不安もありますが。
だって、ご存知のように方向音痴ですからね。
結果はまたいつか…
家へ帰る途中、桜の木を見ました。
花も葉も付けない季節のことです。
たった一本の桜の木。
こどもの頃からよく見かけていたはずなのに、
それが桜の木だと
とても美しい姿の木だと気づいたのは
ほんの数年前のことです。
猫背のその木は寂しそうで、
この季節、独りなのだと感じます。
私はその木に触れたことはありません。
残念ながら道路との間の金網が、私を拒むのです。
一年に一度、
桃色の花を満開に咲かせるその時でさえ
あの木は独りなのです。
美しく花開いたその風景をいつか見に来ませんか?
雨が降っています。
今日は友人と水族館に行きました。
何年振りでしょう。
真っ青な水はゆらゆら揺らめき、
銀色に光るイワシの群れはそれはそれは美しいのです。
けれど…
魚たちの泳いではすぐに向きを変える、
その姿のなんて悲しいことでしょう。
深く青い海を知らない魚もいるのです。
自分以外にも海に生きるものがいることを知らないのです。
海の上には高い空と熱い太陽があることを、
そこでは人間と触れあう必要などないことも。
短い生涯の中で、その目に映るもののなんと少ないことでしょう。
私は見てきたはずなのに…
なのに、記憶に残っているもののなんと少ないことでしょう。
見ていながら、見えていなかったのです。
私のこれまでは、紙一枚で事足りるかもしれません。
雪が降っています。
この感動をどう表現すればいいでしょう。
ひらりふわり風と踊っています。
日めくりカレンダーをめくること。
それが私の朝一番のお仕事。
一年の始めはあんなに分厚いカレンダーが、
冬にはこんなにも薄いのです。
月日は流れたのです。
ぺりぺり一枚、さぁ今日が訪れました。
今日はとても寒い一日でした。
こんな日はお風呂で幸せを感じてしまいます。
不思議ですね。
白い湯気の中、あれやこれやと考え事をしている自分がいます。
次から次へと
とりとめもなく浮かんでくるのです。
そして、ふとさっき何を考えていたかしら、と
思い出せないことに気づくのです。
ただ残っているのは真剣にそのことについて思いを巡らせていたという感覚だけ。
笑い話です。
ああ、もうすぐ今年が終わります。
こんな言葉を聞きました。
一年の最後の日、その一年を振り返り、
うれし涙も悔し涙も出ないのは時間を無駄にしたことだ、と。
それなら…
私はいつか救われる日が来るかもしれない、
そう思いました。
泣いた「今」を思い出した未来のある日に
無駄ではなかったと思える日が来るのなら
「今」も悪くない。
弱い私の小さな希望です。
消えることのない私の足跡です。