表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/60

第2話 師事 ~運命の出会い~

「とりあえず、こんなものかな」

 必要な量の薬草を取り終え、あとは町に帰るだけであったが、アクシデントが発生する。


「なっ! 魔熊(イビルベア)!? こんなところになんで!」


 魔熊(イビルベア)、角を持ち、熊に似た姿の魔物である。

 普段は森の奥に生息しているが、まれに餌を求めて、森の奥地から出てくることがある。

 レオネスは運悪く、餌を探して徘徊していた魔熊(イビルベア)に遭遇してしまったのだ。

 魔熊(イビルベア)は空腹であり、機嫌が悪く、レオネスを見るなり襲い掛かってきた。

 魔熊(イビルベア)の突進をレオネスは間一髪で避ける事に成功する。

 突進は空振りに終わるが、方向転換し、魔熊(イビルベア)はレオネスと対峙する。

 先に動いたのは魔熊(イビルベア)だった。

 剛腕を振り回し、斧の様な爪による攻撃を繰り出す。

 レオネスは身を(かが)め、また身を反らし、魔熊(イビルベア)の爪撃を(かわ)す。

 魔熊(イビルベア)の猛攻と、それをギリギリで避けるレオネス。

 一進一退の攻防は続き、決着はなかなか付かない。

 攻めているはずの魔熊(イビルベア)だが、その攻撃はレオネスに当たらず、次第に焦りと怒りを滲ませていく。

 爪撃、噛み付き、突進、頭突き、持ちうる武器、あらゆる手段を用いて眼前の獲物を倒さんと攻撃を仕掛けるが、獲物(レオネス)は未だに健在であった。


「こんなところで、やられてたまるか!」


 レオネスは魔熊(イビルベア)に向かって吠え立て、己を奮い立たせる。

 冒険者として、回収者(レトリーバー)として、数多の冒険を行い、鍛えられたレオネスは、魔熊(イビルベア)を倒せないまでも、倒されない実力を持っていた。

 互いに決定打を持たず、戦いは膠着(こうちゃく)状態となる。

 睨み合いが続く中、先に動いたのはレオネスだった。

 レオネスは魔熊(イビルベア)に向かって薬草を入れた袋を投げつける。

 咄嗟に投げつけられた袋を払い落す魔熊(イビルベア)

 魔熊(イビルベア)はレオネスから視線を外し、袋を払い落とす、その一瞬の隙を突き、レオネスは魔熊(イビルベア)に正面から飛び掛かる。

 狙うは生物の急所である眼、採取用のナイフを魔熊(イビルベア)(まなこ)に向かって突き立てる。

 魔熊(イビルベア)の右目に採取用のナイフが深々と突き刺さる。

 突然の痛みに暴れ出す魔熊(イビルベア)、その四肢を振り回し、痛みから逃れようともがく。

 ナイフを手放し、暴れる魔熊(イビルベア)から距離を取るべく、離れようとするレオネス。

 だが、荒ぶる魔熊(イビルベア)の腕がレオネスの腹部に直撃する。

 衝撃により吹き飛ばされたレオネスは木に背中から激突する。

 

「がはっ!」


 木に背面から叩き付けられた衝撃で、肺の中の空気をすべて放出し、また、魔熊(イビルベア)の腕が直撃した腹部の痛みで(うずくま)る。


「うぐぅ……」


 右の眼球を襲う痛みに怒りの炎を灯す魔熊(イビルベア)は、(うずくま)るレオネスを見つけ、好機と捉え、一気に畳み掛ける。

 痛みに(うずくま)り、満足に動く事が出来ないレオネス。

 確実に仕留めるべく魔熊(イビルベア)は近づき、そしてレオネスの首を落とさんと腕を振り上げる。

 もはやこれまで、そんな言葉がレオネスの脳裏をよぎる。

 振り下ろされる魔熊(イビルベア)の剛腕。


 だが、地面に転がったのは魔熊(イビルベア)の腕の方だった。

 一閃、目にも留まらぬ剣閃が魔熊(イビルベア)の剛腕を斬り落とした。


「ここらで助けてやるか」


 そう呟き、草陰から現れたのは老齢の男だった。

 老齢の男は、老齢とは思えぬ身のこなしで魔熊(イビルベア)との距離を詰め、その手に持つ剣で魔熊(イビルベア)の胸部、その深奥にある心臓を刺し貫き、魔熊(イビルベア)を絶命させた。

 一瞬の出来事だった。


「今晩は熊鍋だな」


 老齢の男は息も切らさず、何事もなかったかのように剣に付着した血を払う。

 突然の出来事で、何が起きたのか理解できないレオネスだったが、自分はこの老齢の男に助けられた、それだけは理解できた。


「ありがとうございます、おかげで助かりました」


 レオネスは力を振り絞り、何とか立ち上がり、老齢の男に礼を言う。


「気にするな、俺が勝手にしたことだ」


 老齢の男はレオネスを観察する。


「お前、冒険者か?」


「まあ、そうです。この前まで回収者(レトリーバー)だったんですけど、リストラされちゃって……」


 老齢の男の質問に答えるレオネス。

 だが、老齢の男はレオネスの言葉に驚いた。


回収者(レトリーバー)だと? 非戦闘職で魔熊(イビルベア)の攻撃を(さば)き、片目を奪ったというのか」


 老齢の男はレオネスを見て考え込む。

 実は、老齢の男はレオネスと魔熊(イビルベア)の攻防を途中から見ていたのだ。

 森にたった独りで訪れた少年が魔熊(イビルベア)を相手にどのように立ち回るか興味があり、しばらく観察していたが、魔熊(イビルベア)の一撃により少年が窮地に陥ったことで姿を現したのだった。


「ふむ、磨けば光るかもしれんな。お前、剣術に興味は無いか?」


「剣術に興味はあります。冒険者として強くなりたいですから。でも、どうして?」


 老齢の男の問いの意図がわからないレオネス。


「俺がお前に剣術を教えてやる」


 老齢の男は答える。

 剣術を教えてやると。


「本当ですか!」


 レオネスは驚きを隠せなかった。

 目にも留まらぬ身のこなし、魔熊(イビルベア)の腕を切り裂き、胸部を刺し貫く剣(さば)き、そんな剣の達人が、仲間に必要ないと言われた自分に剣術を教えてくれるというのだ。


「俺はテューン、お前は?」


「レオネスです。レオネス・レオルクス」


「よし、レオネス。お前は今日から俺の弟子だ!」


 突然の弟子への勧誘、しかしレオネスは喜んだ。

 クランから追い出され、孤独だった自分に居場所が与えられたのだ。


「お前を一人前の剣士にしてやる、覚悟しておけ!」


「はい、師匠!」


 これが、レオネスと剣の師匠、テューンの出会いだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ