七話
投稿予定ミスしていました。すいません
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雑に棒に藁が束ねられている。その形は、例えるならアメリカンドックであろうか。
ここで重要なのはどうやって纏められているのかである。
棒にダメージを与えようとしても、先程の通り、一本の棒の周りに藁があり、この藁を叩いても棒に痛打は与えられない。ならば、藁をどかせばいいと考える。ここで藁はひとりでに棒にくっついているわけではないのだ。棒の上に藁の束、その上を縄によって棒に藁は括りつけられているのだ。
縄が太いのもあり、狙いやすい。おまけに使い古されていてぼろっちい。ならば強度もそれ相応のはず。
おおよそ1.5m程度の束を五本の縄で纏められている。これをすべてとは言わずとも、半分切る事ができれば恐らく藁はばらける。それならば棒を直接叩けるようになる。流石にそうなれば、棒を折る位はできるはずだ。
騎士アレクは、普通非道な行いなどしない。されどこれは技術のいる事とも思え、真正面から防具を破壊するのは戦術と捉えられる。RPも十二分。
気合を十分に込め尚且つ、距離を意識する。一足一刀。それより少し遠く。空ぶらないギリギリ。
先程から何度も殴っているのだ。凡その距離はつかんでいる。
今更ながら、純粋に集中する段に入り、見ている人の姿が非常に気になってくる。集中のし始め、ある種最も脆い精神に他者の影が入り込む。極度の緊張により、つばを飲み込む。出ている音、無いはずの音、雑多に聞こえてくる気がする。 だがそれは、必要のない物でもある。集中しきれば気にならなくなるはずの物。VRによるRPという物を久々に感じる。
もう一度騎士アレクの猛々しく、激しい魂と、プレイヤーとしての自分のある種の冷徹な精神を落とし込んでいく。想像するは兜割。実行するは表面を撫できる。全てが、自分に集約していく感覚。
未だ掴めない蛇口は力を籠める程度で放っておく。一瞬に息を吐く。
シッ!!吐き出す息を置き去りに、腕が跳ね上がり即座に振り落とされる。
「くそっ」
悪態をつく。力を込めて打てたのはいいが、深すぎた。
特段の集中を見ていたのだろう。諦めるかと声が騎士グレンからかかる。先程までの他の受験者の騒めきが明確に大きくなり、罵倒が聞こえてくるようになる。
集中が解けるのも無理はないとはいえ、確かに時間が掛かっているのは事実。焦りは禁物だが、急く必要がある。一度の深呼吸により完全に切り替える。
再度の構えに、十秒は掛け、ゆっくりとしっかりと。
先程の後継の焼き直し、違いは
今度は藁人形に掠るかのように当たった事だろうか。
周囲から見てそれが何であるかはわからなかった。最低でも、藁人形の表面だけを切るかのような姿は普通とは感じれなかった。ふざけて居るとも思えなかった。或いはここまで真剣にふざけるとはどういうことなのかという状態になってきていた。しかし、騎士からのやめの合図はない。なれば何かあると察するが、それだけである。いつの間にかその姿の前にざわめきはなくなっていたのであった。
騎士グレンから見てその姿はどうであったか。
その態度や、その視線。凡その目標は理解したが、よくもやる気になったというのが彼の本音であった。同時に、繰り返す内に高まる気力。悪癖は見えるが、気力の扱いは初心者の筈であったので、才能が無いなりにその成長は目を見張る物がある。
詰まる所、この段階において既に入団を認めても良いと考える程度には彼に姿は好印象であった。但し、その良さの一方当然悪癖も見えてくる。鍛えがいがありそうだと思いつつ、彼が諦めるか、或いはその狙いを成就するか。彼はその時を待つ事にして、静かに待っていた。
徐々に狙いは正確に。描く軌道にぶれは少なくなり、縄だけに当たる事も多くなり時を忘れて、構、打つの流れを繰り返す。始めは鈍い風切り音が少しだけ鋭く、早くなっていた。
体の中に感じる力、蛇口の存在。徐々に明確に輪郭を掴み、最初と比べ物にならない力を感じるが、どうにもその力を腕に持ってはこれずどうしても威力にしきれない。もどかしさを感じつつ、されど綻びが大きくなる縄を見てのめり込んでいく。遂に、木剣が猛禽のように風を切ったと感じる程に鋭く空を裂いたとき、ついに一本目が切れる。途切れそうになる集中の糸、今まで意識していなかった、できなかった体の疲れ。
悪条件ばかりそろう中、一本を切った事実が、アレクを後押ししていく。
そこからはコツをつかんだか、或いは縄が減り、力がかかりやすくなったからか。二本目、三本目と、一本目と比べ物にならない速度で、引きちぎっていく。
全身が汗だくになり、尋常でない疲労感の中、三本の紐が切られ、藁がだらしなく垂れ始める。二本切った際とは比べ物にならない、例えるなら剥いたバナナの様な形になり、芯の棒が見える。
その瞬間、彼はこの瞬間を待っていたと言わんばかりに、今までとは比べ物にならない速度でもって、踏み込み、振り上げ、切り落としを行う。
体内にあった力、熱が体全体を行き渡り、まず足に。
踏み込みは地を揺らし、土煙をあげる。その猛烈な反動を受け、体がボールか何かの様に跳ね上がる。それを体の動きでもって、前にと捻じ曲げ、一歩の踏み込みとする。反動の制御を兼ね、足に跳ね返る衝撃と共に熱は腕にと移っていく。熱が体を通っていくとき、体の不安定さを認識し、強く体幹を保つ。
全ての熱と動き、土台となる体の固定、全ての合致が最後の一振りでなされる。
その一閃は、今までと違い一切の音を立てず、滑らかに一本の線を描く。
その線上にあった棒はきれいに切り落とされ、ついで空中に不安定に浮いていた藁も空中に切り離され、空を舞う。
その訳の分からない、熱に浮かされたような状態で、彼はなんと表現すればいいのかもわからないその感情に流されそうになりながらも、半ば反射の域で声を張り上げる。
「アレク、見事棒を切りました!!」
世界が暗転する。
「パチパチパチ。素晴らしいプレイと言っておこう。本当だったらもっと続けてもいいのだが余韻も大切だ。君にとっての終わりはここでいいだろうと判断して切らせてもらったよ」
そう、心底つまらなさそうな猫の声が聞こえてきた。
「余韻という物は、この様な場面展開で失われる。確かにその通り。だが現実はそうもうまくは行かない。あの試験の評価は主に次の三点で行われる。思い切りの良さ、身体能力、特殊な技術。さて、まず試験内容に対しての主な回答だけど、これも三つ。一つ目は自分の身体能力で棒を折る、切る。つまり、お前が最初に試みた藁ごと殴り倒すという奴だ。王国全体の入団試験、毎年200名弱の中、まあ、1、2%がいい所の突破法。二つ目は、お前が試みた、気力の操作。或いは魔法。なんでも良いが足りない力を何かで補う方法。これは、約三割か。最後は簡単。諦める、だ。とはいっても切りかかりもしない奴は大抵落とされることになるがな。そして、それ以外、四つ目だ。先の方法が六割弱。つまり残りの一割未満は全く別の方法を取る。例えばお前の様に藁を避ける方法、お前と同じ方法は、尋常ではなく珍しいが、結果自体はこの中では多いほうだ。簡単な話、藁は地面近く、或いは上には藁がまかれていない。その露出部分を打つとかな。さて、そんな珍しい、課題のクリア方法をしたお前は試験官である騎士グランには好評価を得たが、一方で一律の評価からすれば、中から中の下といった評価になるだろう。その為、まあ、入隊は叶ったが、お叱りを受ける事になる事が確定したので、慈悲の心で、比較的冷めるだけで済む呼び戻しが行われたというわけだ。」
なんというか、言いたい事は判ったような気がする。あの達成感。熱。そこに怒られるといった、冷や水のぶっかけと、不完全燃焼感のある、醒める方のこの現状。なってみないと分からないが、自分の性格上前者の方が良い思いをしないのは判る。が、そもそもなぜそうなるのだとは思わずにいられない。
~continue~




