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四話

予約投稿をミスしたみたいです。遅くなりました。

~loading~

「君がまず第一に体験する事になる世界()は、水星の名を冠するマーキュリー。和名と裏腹に暑い世界。最も基本的な世界と位置付けられ、ゲームとして、世界(現実)として体験しやすいとされる世界を、再現しよう」


猫が地面をトントンと叩く。地面が揺れ、叩かれた点を中心に波紋が広がる。波紋は光り輝き、浜と海を呑み込んでいき、波紋の内。水と熱気が世界を広げていく。


驚く間もなく、少年はその波紋に呑み込まれる。


『何を望みますか?』


その囁きに…。

青の光が過ぎ去り、街並みが現れる。


「 、な、なにが」


絶句する少年の前にまたもや猫が現れる。姿、形はほぼ違いないが、色が違う。浜の猫の色は紺青色と薄群青の二色であったが、この場に現れた猫は、水色を基本とし斑に黒色が入っていた。


「ようこそ、と言っておこう。チュートリアルという事でできる事は限られるがまあ、方向性ぐらいはつかめるだろうさ。ここですることは単純だ。基本的なステータスの関係性と、スキルの確認。まあ、動作確認の延長線上を行って貰う。仮想感覚のテストだな」


そう猫は言い、いやに現実離れをし、同時に見慣れたもの。所謂コンソールパネルを表示する。


ファンタジー(中世的)な見た目とこういったコンソールパネルから連想しやすいと思うが、所謂剣と魔法の世界がここマーキュリーだ。君は今回、そうだなぁ、アレク、騎士アレクになりきってもらおう。恥ずかしいと思うならまあしなくてもいいが…踊らぬ阿保に踊る阿保とも言うしな。楽しめるだけ楽しんだ方がいいだろうな。さて、本来ならキャラクリエイトに合わせ、名前、スキル振分け等させるが今回は体験だからな。いろいろ判りやすいだろ?ちなみに、体験してもらうのは、ノーマルモードの更にストーリ、もっと言うならオフラインプレイだ」


ここでいったん猫は言葉を区切る。猫は騎士アレンの方を見て、


「不満そうな表情だ。だが望んだのはお前だぞ。なぜ望んだのかは知らんが、恐らくこれ以上ないほど良い体験を得られるだろうさ。さて、貴様の立場を教えてやろう。騎士団入隊予定、騎士家クォーラーが三男、アレン・クォーラー、ここから旗が見えるか?そうだその旗だ。その旗の立っている建物、本来は屯所の詰め所であるが本日はそこで入隊審査が行われる。ここからまっすぐ向かえば、よほど迷わなければ問題なくたどり着けるであろう。残念ながら私はこれでお暇する。チュートリアルを中断、或いは終了したければ呼ぶがよい」


それだけ残して、水色の猫は去って行った。


いきなりにほっぽりだされ、唖然とする。はっきりと言って、中途半端なプレイの説明、他方細かい設定等の説明。チュートリアルの体験という名のゲームプレイ等、チュートリアルとしてはどこか破綻を感じさせる。


「せっかくなら魔法が使いたかったが、騎士なら馴染み深い。散々焦らされたんだ。よし…」


そう言い、手に力を籠め、頭を切り替える。彼は足を踏み出した。…とはいえ、気合を入れた半面、今から行うのは、移動。屯所とやらに向かうのみである。入隊審査とやらがどうなるかはわからないが、何をするかわからない以上思い入れもなく、どうにも空回った感があり苦笑をせざるを得なかったが。


中世の街並み。モデルは何か判らなかったが、石で形作られた白の建物。区画がきちんと整理されているのか、見渡す限り直線の道が多い。同時に、幾つもの屋台が存在し、通りには活気が満ちていた。


道行は判らなかったが、まあこの綺麗な街並みである。問題ないだろうと歩いていた。


道行く人、客引きの声。まれにみる武装をした人間に、恐らく旅人。日常の中にどこか不自然であるがありえそうなワンシーン、所持金あるいは、持ち物を見ていたかコンソールを見て頭を抱える者や、満足そうにする者もたまに見かける。ただその中で違和感を伴って映る姿があった。察するに重い荷物を持った老婆であった。だが、他の住人//NPCがコンソールを使えていた以上、その姿はありえないと感じたのである。


当然、無視をしてもいい。よくよく辺りを気にしなければ気付けなかったであろうし、少年はサブクエストなどは基本的にメインの後にこなすタイプである。

そのメイン、詰め所に行くことは恐らく時間制限がある。ここまでリアルを重視する描写があるのだ、ほぼゲーム的なお約束は働かないと思えた。メインとシークレットの比重はゲームによって違うが、唯の街並みにいる老婆の悩みが、騎士団への入団、人生の晴れ舞台に勝るリターンを持っているとは到底思えない。


だが、である。姿形も知らない、少年の体であると思われたこの騎士に入団するはずの少年は、アレクは既に騎士である筈なのだ。最低でも、ノランはそう考えた。であるなら、自分がアレクなら、騎士ならば…騎士になりきっていた自分ならどうするか?


歩を進める…その足が向くのは老婆の方だ。


「そこの人。少しよろしいですか?私は誉れ高き騎士…になる予定のアレク・クォーラーだ。何かお困りの様子ですがどうかしましたか?」


声、表情、理想の騎士像をなぞって、形作って話しかける。

老婆は、救いが現れたと、目に涙を湛えつつアレクに顔を向ける。


「おお、おお、騎士様ですかい。これは真にありがたい事です。この様な老婆に声をかけて頂けるとは」


老婆は恐縮の至りといわんばかりに頭を地にこすり付ける様に地に伏せる。


「その様に地に頭を向けずとも好い。頭を上げてくれ。私は入団予定の者だ、あまりえばっていては笑いものになる。どうか気を楽にしてくれ。


アレクはそういって老婆の肩に手をかける。

そして、再度どうしたのかと問いかける。

老婆は何度かへこへこと頭を下げ、礼を言い、ようやくどうしたのかを口に出した。


「どうしても届けないといけない物があるのです…。」


要約すると老婆の用事は次の通りだ。中身を何故か口にしなかったが、妙に大きな布袋に入った物。これを息子の家に届けなければいけないというのだ。

しかし、その届物は重く、若くない身には持つのも厳しいと。この町までは馬車で、村ではご近所さんと力を合わせ。しかし、ここでは誰も手伝ってはくれないと。どうにか、ある程度門から遠くまで運んだはいいがもう動く事さえ厳しいと。


アレクはもちろん一も二もなく手伝おうと答えた。


とはいえだ、ここで少し驚いた事がある。ゲームである以上、プレイヤーの事情が優先されるのは当たり前である。が、老婆はその届物を何とかアレクが持つ、背負った状態であっても歩けないと零したことである。


「本当に無理なのか?婆さん」


申し訳なさそうに老婆は言う。


「ごめんなさい、もう足が痛くて痛くて。杖も、荷物を持つ為に門において来てしまったし。伝えたい事があると言ったのに私が動けないとはねぇ。不甲斐ないわ、本当にごめんなさい」


ノランは考える。時間は迫っている。されど、今更言葉を翻すつもりもない。

騎士の名誉は重視しない。所謂武士道、騎士道を重視する、正々堂々とした姿。そして、民を守る姿。…そこに見栄えはどれほどいるか?


騎士にとって剣は誉れ。されど死にはしない。

アレクは腰に差していた剣を取り出し、さやが外れないように鍔と鞘を紐で結ぶ。

(単純に剣を外したあと、柄を持ち渡そうとしたら鞘が抜けた。アレクは驚くと共に、老婆に不思議そうに見られた)


「これを杖にすると良い。これほど格調高き杖もそうそうあるまい。大切に使ってくれ」


そういい、老婆にアレクは()を手渡す。


「そんなお、恐れ多い」


老婆は恐縮しきり、触れるのも恐ろしいと言わんばかりに手を震わせる。


アレクは大げさにジェスチャーを交え、やれやれと言い放つ。


「婆さん。恐れ多いというなら、早く杖を取ってくれ。そして、息子の家に行こうではないか。時間は有限だ、待たせる方が失礼だぞ」


茶目っ気を意識しつつウインクをする。

老婆はその軽さに、気遣いに感謝をしつつ杖を手に取る。再び、謝り続ける機会になる前に歩き出す様に促す。


老婆の反応を見、問題はなさそうだと判断する。

歩き出す、その為に足を踏み出す…。


走馬灯?記憶?光景が流れていく。


へとへとになり、家に付き、門前払い。老婆の姿を見、ようやく門を開く。袋を見せ、冷たくあしらわれる老婆。中身は結局判らなかったが、その様子が決して幸せそうでない事だけは判った。


その対応はおせっかいで世間知らずな婆さんと都会で擦れた息子の関係を思わせた。

そこから何をどうしたかは判然としない。


『あなたは、どうしますか』


その質問にアレク(騎士)は、こうしたいだろうと。こうするだろうと思い浮かべる。


「騎士ならば、角が立つかは気にしない、だから…」


~continue~




ようやく物語が動き出した感じです。まだゲームっぽくないですが、お付き合いください

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