十九話
今回は間に合ったでしょうか。
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少しの思考、或いはほんの少しの油断。考える事が持ち味である以上、それを捨てる事も出来なかったが、その固執があの時の光景の再現となった。
左ストレートにより、次に続ける殴りと、右蹴りによる単純な多段攻撃。その後の攻めも軽く意識したが故に、この程度万葉は軽くよけるという理解が、ある種の信頼が仇となる。反撃もまた拳闘と、先程の言葉を聞いた後だというのに間合いがあるが故に油断した。
一瞬、一瞬である。視界の上下が、否自分の体が上下逆さまになる。唯地面に落ちただけだが頭がバグったかのように動く事もできない。
受け身も取れず、強かに背を打ち口から息が漏れる。
アレクの体が地に落ち、かすれた音を出す。軽くすったような音と共に万葉は即座に転んだアレクの上に立つ。流れる様に自身の立ち位置に近い方の腕、右腕を右足によって踏みつけ動きを封じ、同時に軽く腰を落とす。アレクの顔の近く、首の横に左膝が突き立てられる、
「さて、近づくまでは組内とは別だが、およそ右の突き出し以降は組内の技術によって対応した。つまり、これを習得しろと言いたい。やった事は簡単だ。右の突き出しを受けたのは技術ともないともいえるが、大雑把に言えば見切り。右手を取った後は、右手が伸び切っていた事を受け、籠手回し。地面に落ちた所に影歩。その後は流れだが、強いて言うなら地震といった所か。さて技名を言っては見たが重要な事はその内容だ。簡潔な技故、説明しきれるだろう。まず一はまず右手をつかむ、組技の基本、相手をつかむ部分はまあ努力としか言えないが、掴めるなら胴や腰、時点で腕、その次は足というか太腿だろう。それ以降は大差なし。今回説明する籠手回しは、その名の通り元々籠手を掴んで相手を転ばす術だが、そこに捻りと、力の誘導を加え本来以上に相手を動かした。アレクを反転させたのはお茶目と言う訳だ」
「次は相手が起き上がらない内に間合いを詰める為、歩法でもって素早く正確に移動した。影歩はまるで影が動くかのようにといった意味があるが、腰が下ろせる状態かつ間合いが十分に近い。私の場合腕二本程度か、が正確かつ素早く動ける。細かい説明は後でするが、重心のブレを無くす移動であり、ばねをうまく張る事に注力した立ち方からほぼ平行に前にだけ移動をし、後は後に残った足を引き付けるのだ。後は、適当な位置でもって、膝を落とす。大抵は急所である首、良くて肩に落とす形になる。ここは気にする必要はないだろう」
そこまでいってようやく万葉はアレクの上からどく。立って聞くよりも集中できただろうと言わんばかりの態度に、ただでさえ屈辱的なのにはらわたが煮えくり返る思いである。
「これが特に対人戦でもって最適化され、戦場で最も強いと評せるかもしれない、戦いの基礎を身に着けるに最適な戦闘術だ」
「正直よく判らない」
立ち上がりつつ砂埃を払う。その脳裏にはあまりにもマイナーな武術を戦いの基礎とのたまう不自然さにどうしようもない気持ち悪さを覚えた。
その表情に気付いたのか、そうではないのか。離れた状態から少し虚空を見つつ万葉は語りだす。
「何をもって最適化とするか、何をもって最強とするか。諸説も有るし決めつける気もない。さりとて、理屈の上で最も効率的と言える考え方は何か。例えば剣術であれば、守らせずに切る。だが、一方でこちらが剣を持つ事、相手との力量差、あらゆる面で困難の原因が存在する。組内術もそれは変わらないが、特に戦場、集団戦で発達した事もあり大抵の状況から必殺を出せる。間合いの近さも、一部の武器を除けば詰めるだけなら存外に簡単な物だ。なにより、相手が転んでいたら必殺、相手が立っていてもその状態にする。相手と触れる部分があれば必殺に持ち込める応用力、同時に決め手はおよそ三手。状況への持ち込みに技術はいるがとどめに技術は、覚える事はあまりない。戦闘とは本来、殺せる時に必殺を、殺さずとも無力化を行えなければならない。急所を狙う物は暗殺術と言われるが、ある種暗殺術こそが武術に必要である。それを備えつつ、本来必要な術の守りを必要としない、達人特有の術理を比較的簡単になせるのも特徴的である」
「纏めれば、相手を転がせば殺せる武術に、守りはいらず、特段の技術も必要ない。だからこそ戦闘は比重にシンプルかつ分かり易い、一方だからこそそこに至る道筋が重要ではあるが、先程の一戦で感じたかもしれないが間合いの近さもあり勝負はどうしようもなく一瞬。だからこそ最適なのだよ。…さてこれがすべてと思っているが、まだ身についているとは思えない。続けるか」
ここまできて、ようやくプレイヤー視点から、色々と追いつき、判ってきたが、どうにも熱しやすくなっている頭を冷やそうと思いつつ先程の教えを振り返ってみる。
「…それじゃあ頼む」
それ以降はあまり詳しく記憶できないような激しい戦闘が続いた。激しいは違うのかもしれない。唯只管にボコられたというのが近いのだろう。如何にも熱しやすくなっている。或いはゲーム内のキャラに引っ張られているのかとも思ったが、このアシストのおかげか、最後まで訓練という名の、受け身練習を続けられた。
ここまでにしようという言葉と共に、脱力する。普通のゲームには見られない、中身の人間を鍛えようとするかのような激しい訓練にはさすがに値をあげたくなったが、なんというか体を激しく動かしたかのような爽快感があった。
そこで視界は暗転する。
恐らくはまた白昼夢の様な追体験。久しぶり故に何とも懐かしい感じではあるが、そんな何とも言えない感覚とは別に、全く逆の地獄の様な訓練という物を追体験させられる。
或いは、痛覚、疲労、鮮明ではない光景、それらの条件が無ければこれはゲームとして成り立っていない事が容易く想像できるアニメの様な特訓風景。見るのは楽しいが実際にやりたくないという物が幾つも幾つも脳裏を過るかのように体験していく。
そして、最後適当な紙に万葉の名と、恐らくは剣術の流派、鳳朝関山皆伝を綴られた物を手渡されそこで視界が途切れる。
「戻ってきたか…よかったな、恐らくプレイヤーが考えるであろう強化イベントという意味では、なかなか良い結果を得られたようではないか。さて、今まではあまりにも進展が無い故に様々な意味で役割を放棄していたようでな。如何にも暇を持て余していたのだよ。まあ、じっくり休めたという意味では貴様には感謝かな…ククッ、そう嫌そうな顔をするな。では、次のシーンの解説と行こうか。詳しい説明、身の回りの状況は前回の様にクエストの詳細を見るのだな。さて、と。先程のシーンあれから大雑把に六年後か。二十九の頃、季節は秋。免許皆伝されたことからも判る様に高い実力を持つアレクだが、高い実力を持つという事はそれだけ様々な責任、任務、様々な物を章という事だ。それに対して確かな実力でもって応じたアレクは昇進を重ね、中一位。通常の昇進における最高位に、若くして上がったという事で、件の砦における総隊長、砦の戦闘員の総取締を行う人材となったわけだ。だが、当然そこまでの昇進、それ相応の任務も授けられる。今回はそんな任務においてを体験していって貰おうか」
唐突に表れ、言うだけ言って、去って行った猫の後姿を眺めつつ、どうした物かと考えを巡らせつつ、前回は失敗した現状の把握が出来るかの確認をする事にした。
ステータスをオープンするために手を動かす…。
文章力ぅですかね。なんかいろいろボロボロですいません。どうにかしたいですね。




