02 わたしと発達障害1
わたしの名前は、皇綾音、23才。
「綾音、オリーブオイルって、まだありましたっけ?」
「流しの下の開き戸になければ、もうないと思う」
「あっ、ありました! ありがとうございます!」
大学を出て、某印刷会社に就職したわたしは、半年で精神を病んだ。
会社でサンドバッグ状態になっていたからだ──わたしが仕事を全く出来ないせいで。
情けないことに周りの指示や状況が、何ひとつ理解出来なかった。
何を言ってるのか分からないだろう? わたしも、うまく説明出来ない。
「綾音、晩御飯はカレーでいいですか?」
「あ、うん。ありがとう」
朝のミーティングで、みんなが何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
会社の中はいつも何かしらの機械音が鳴り響いていて、その音と人の声が重なると人の声が消えてなくなるのだ。
「じゃあ、ちょっとスーパーに行って来くるので、お財布お借りしますね」
「あ、あぁ。ありがとう。よろしく」
仕事の手順が、まったく覚えられなかった。
先輩たちは、「こういう風にやるんだよ。ちゃんと見ててね。明日から一人でやるんだよ」そう言いながら目の前で実演してくれた。
次の日、一人でやろうとしても、やり方が全く思い出せない。
あるのは断片的な視覚イメージだけ。
そのイメージ同士に繋がりは無く、手順を頭の中で再現出来ない……。
同期の子たちが一回で覚えた仕事を、わたしは半年経っても出来ないでいた……。