高城先輩の死
えっ! 何? 今、彼女はノボルって言ったのか?
ノボル様が亡くなられたって言ったのか……。
高城先輩が死んだって事なのか……。
そんな訳あるはずが無い。だって、さっき僕と話してじゃないか。
五年間も僕を待ち続けていたって言ってたじゃないか。
彼女は何馬鹿な事を言っているんだ?
あんなに、異世界に来たいって言ってた人が死ぬわけが無い!
僕はフーアの言っている言葉を理解する事が出来なかった。いや、理解する事を拒否しているのかもしれない。
僕の隣でアライアが大きな目を一層見開いて大きな声で叫ぶ。
「フーア! どういう事なの! 詳しく教えなさい!!」
(アライアとショウがキルト城へ、バーンとランスベルトはエラン王国とギース王国の国境付近の警備に、フーアはライラ姉とメリッサ姉様と街の警備に出ていたの。その時に何者かが城に潜入してノボル様を暗殺したの)
「護衛兵はどうしたの?」
(護衛兵もみんな殺られていたわ)
「それにしたって、ノボル様の能力だとそう簡単に倒されるとは思えないんだけど」
(そうなんだけど……)
「わかったわ。今すぐに城に戻るから!」
そう言って、アライアは今来た道を戻るため走り始めた。
「何やってるの! 戻るわよ!」
その場でぼぉーっと突っ立ている僕に声をかける。
「だ、だって……、高城先輩が死んだって……」
「だから、それが本当かどうか知る為に急いで戻るんでしょ!」
アライアは僕を急かすように強い言葉を投げかけた。その言葉に促されるように僕は走り始める。
「アライアは高城先輩が死んでないって思っているの?」
「分からない……。分からないけど、ノボル様のステータスで、そう簡単に暗殺者に倒されるとは思えない」
アライアの言うとおり運以外のステータスが、全てMAXの高城先輩が暗殺されるはずが無い。というか、チート仕様の高城先輩を暗殺出来るってどんなステータスなんだって話しだ。
やっぱり、フーアの勘違いに違いない。
「何かの間違いじゃないのか?」
「分からない…………」
アライアは口を一文字に結び、それっきり言葉を発することは無かった。
僕らは馬車の降りた停留所まで戻り、アライアが用意してきた二人乗りのミュードラ(さっき馬車を引いていたドラゴンの小型版のような生物)で城へと急いだ。
城に到着した僕とアライアは謁見の間へと急いだ。
城内は異様なまでの静けさに包まれ、兵士たちはひと言の言葉すら口にはしない。ただ、黙々と自らに与えられた仕事をこなしていた。
謁見の間に入る扉の両側に、二人の兵士が倒れている。どうやら二人共絶命しているようだ。
「くっ……」
アライアがぎゅっと唇を噛む。
唇を噛みながら両手を合わせ、暫くの間目を閉じる。
そして、おもむろに目を開くと謁見の間の扉を開いた。