事の始まり
「事の始まりは、エラン王国の前国王キルト・バレンシアが亡くなられた事から始まる。前国王亡き後、国王の一族、高位貴族などの一団の領袖となる立場の人間が派閥を作りあげて、エラン王国の王の座を得るために内紛を始めたのだ」
お家騒動ってやつか。
「その内紛のせいで、エラン王国の国力はどんどん低下していき、他国からの侵略を受けかねない状況になっていった」
いつの時代も上に立つ者のやる事は変わらないのか。少し冷静になって考えればわかる事だろうに。
「私たち親キルト国王派の旧臣は、どちらの一族のグループに属するかを話し合ったのだが、皆、自分の利益だけを考えて国の事、民の事を考える人物を見出す事は叶わなかった」
「そこで私達は、この国に相応しい人物が居ないのなら、他国から招くのはどうだろうか?」
「しかし、その案は他の重臣から強い反対にあった。もしも、他国から招いた人物が裏切って、国を売るような人物だったらどうするのかと」
確かに他国から招いた人物に自国を任せるのは不安要素が多い。
「私は一計を案じた。異世界から召喚した者ならば、私達を裏切る事も無いのではないかと」
いや〜。その考えはどうだろう? どこの世界から来ようと裏切る人間はいるだろうし、それは各々が持っている性格と環境に寄る部分が大きいから、単純に異世界から召喚した者が裏切ら無いと言うのはね〜。
「私の持つ召喚能力と、古から伝わる旧世代の召喚方法を混成させた新たな召喚術を試して見る事にした」
ああ、それがあのガチャガチャ方式なのか……。
「それが見事に成功して我が主であるノボル・H・ジョウ様を召喚するに至った」
ノボル・H・ジョウ? 誰それ?
「あの〜、話の腰を折るようで悪いんだけど、そのノボル・何とかさんって誰?」
アライアはみるみる顔を赤くして怒り始めた。
「何を失礼な事を言っているのだ! 大切な我らが城の主だ!」
城の主ってことは、高城先輩のことなのか。そのヘンテコな名前は!
先輩のフルネームは高城 陽。ノボル・高城の高いが英語でhighでH・高城の城が音読みでジョウでノボル・H・ジョウか……。
クックックックッ………………。
我慢はしているんだけど笑いが止まらなくなる。
「水波くん。そんなに笑わないでくれよ。これでもこの世界に馴染むような名前を必死で考えたんだから」
高城先輩は僕の笑いを堪えている姿を見て、困った表情を浮かべている。
「アライア。両手を広げ朗々と語っているけど、さっき、君が知らないと言い切った僕と一緒に転移した人ってこの人だよ!」
僕は高城先輩のことをビシッっと指さして言った。
「え、えっ、それは……。って事は……」
「そうだ。俺が五年間アライアに召喚を止めないように言い続けたのは彼を召喚する為だ」
高城先輩は玉座でニヤリと笑う。