ラッキースケベはいらない!
鬱蒼と生い茂る木々や草。
熱帯地方のジャングルのような高温で湿っぽい空気が僕の身体に纏わりつく。
そして、その不快な空気に俺の気力と精神力がガシガシ削られている。
「はぁ、はぁ…………」
僕は肩で息をしながら辺りを見まわした。
濃い緑色をした大きな葉を広げた無数の蔓が、太い木々の幹を覆い、足元からは高さ二十センチ位の草が生えている。
まあ簡単に言えば、どちらの方向を見ても緑一色、つまりは僕は道に迷って彷徨ってるってことだ。
「はぁ、はぁ……こんなときにモンスターに襲われたらひとたまりもないぞ」
あ、ヤベっ! このセリフってフラグになる?
そう。これはお約束。大概起きてほしくない時に限って、事は起きるものである。
ガサッ、ガサガサ……。
嫌な物音がする。
俺が辺りを見まわした限り異変は感じられなかった。が、しかし、これもよくあるシーンの一つだ。ほら、よくホラー映画とかであるだろう。まわりを見て安心した時に襲ってくるっていう。多分これはそのパターンだ。
そして、それは案の定、僕が気にも止めてなかった頭上から降ってきた!
僕の頭上から降ってきたそれは、体長10メートルはあろうかという大蛇だった。頭上の木から大蛇が降ってくるなんて予想もしなかった僕は、あっと言う間に大蛇に巻きつかれ、体の自由が効かない状態に陥れられた。
「くっ、苦しい…………」
胴体に巻きつかれた部分も締まっていって苦しかったのだが、最も苦しいのは喉に巻きつかれている部分で、ぐいぐいと締めつけられ呼吸が困難になっていく。
「ぐっ…………、だ、だれか…………たすけ…………」
息も絶え絶えで助けを求めた瞬間…………僕の目が醒めた。
「えっ?」
どうやら、僕はいつも通り必要以上にだだっ広いベッドの上で寝ていたようだ。しかし、この首とお腹に乗っかっている重みはいったいなんなんだ?
目を下の方に持っていくと、僕の首の上に長細くて白い物体がでんと乗っている。ゆっくりと顔を横に動かし、その白い物体の先を見ると茶色の短い髪をした女の子がすやすやと睡眠をとっている。
「お、おまえか! アライア!」
どうやら、僕の首とお腹に乗っている白い物体は彼女の両足だったみたいだ。
とりあえず、俺は真っ白ですべすべした柔らかい両足を、俺の体の上から引っ剥がした。
「ふぅ〜、やれやれ、毎日毎日、こんなのが乗っかってくるからロクな夢を見ないん…………うわわわわぁーーーーーーっ!」
今しがた引っ剥がしたアライアを見ると、布切れ一枚のようなナイトウェアが着乱れして、胸にある小ぢんまりした双丘や、キュっと引き締まったお尻のラインが丸見えになっている。
僕は慌ててその場にある柔らかな毛布を、そっと上から掛けた。
「はぁ〜っ、疲れる〜」
まったく、なんで、毎日こんな思いをしなきゃいけないんだ。
ここに来てからというもの、トイレに行ったアライアが必ず自分の部屋には帰らず、僕の部屋のベッドに潜り込んでくる。
だからといって、これは単純にアライアが悪いとは言い切れない。
僕にも責任があるからだ。
誤解を招きそうなので言っておくけど、責任があると言ってもアライアに何かを言ったとか、何かを行ったとかでは無くて、問題があるのは僕のステータスだ。
運だけ最強って何なんだよ!
ってか、これってラッキースケベの一種だよなあ。正直全然嬉しく無いけど。
いや、僕だって別に女の子が嫌いだって訳じゃ無いんだぜ。そりゃあ、可愛い娘が横で寝ていれば嬉しいし、つんつんなんかもしてみたいなあ、なんて思ったりもする。
しかしだ!
それはあくまでも僕が住んでいた、普通の世界、アニメを観たりグッズを買ったり、アイドルを応援したり、そのためにバイトをしたり、定期でつまらない学校に通ったり、そんな世界だったらの話だ。
そう。
ここは世界が違うんだ。
あれは、一週間前の出来事だった。