一週間(中日)
レミ姉さんの査定は、完璧だった。冒険者としての腕の悪さを次々と言い当てられ、強気だった四人組が、次第に口を開かなくなった。
「見ろよ。こんな穴だらけの擦り切れた毛皮、誰が買うんだい!」
周りの冒険者が笑う。それを聞いて四人組は、顔を真っ赤にして歯噛みする。
「内臓は破裂して、血管も所々切れてる。これじゃ薬には出来ないし、肉にも毒が廻って食えない。嘘だと思うならあんた、食ってみるかい?」
周りの冒険者が食え!食え!と囃し立てる。四人組はそれを睨むが、誰も食ってやる!とは言えない。
「骨にも剣の刃こぼれがくい込んでる。使える所と言ったら、手足の僅かな肉と、毒抜きして畑の肥やしにするくらいだね。解体料を引いたら……銀貨二枚だ。これでも無理矢理値を付けてるんだぜ?どうする?」
ラキュオスは銀貨二枚をピンと指で弾いた。四人組の一人がそれを掴み、ドタドタと逃げるようにギルドを出ていった。
冒険者達は笑いながら、レミ姉さんの指示でポアゾングリズリーを運び、床板を戻した。
「レミ姉さんはな、マスターの一番弟子だったんだ。姉さんには見えるんだよ。持ち込まれた魔獣が受けた太刀筋ってヤツがな。
身体を壊して引退した時、姉さんはギルドに残る選択をした。姉さんにとってギルドは、家族なんだよ。」
冒険者の一人が言った言葉に、ラキュオスはハッとする。ギルバートがここで学ばせたかったこと……レミの解体の手さばきには迷いが無く、骨の位置や急所を熟知し、太刀筋を見切る。ギルドのメンバーが持ち込んだ魔獣も、解体しながらアドバイスをしていた。
「上手くなったね。」「踏み込みが浅いんだよ。」「お前の太刀筋は見え見えだ。だから魔獣に躱されたのさ。」
この人は、数多の経験と修練から、感覚的に太刀筋がわかるのだろう。剣士ならば、それに従い踏み込み、刃を繰り出す。呼吸をするように……
三日目からはレミ姉さんの一挙手一投足を目で追った。時々、
「あんまりジロジロ見んなよ。」
と言われたが、気にしている場合じゃない。そこにギルバートが来る。
「ちょっと来い。」
呼ばれたのはまた執務室。入った途端、ギルバートが聞いた。
「お前は何を見ている?」
「え?レミ姉さんの足さばきとか、解体の手際とか、見極めとか……」
「わかってないな……お前は解体師にでもなるつもりか?」
「え?でも……」
「まぁ、レミは確かに優秀な剣士だった。見ていて参考になることもあるだろう。だが俺が見せたかったのは、アイツのギルド愛だ。
お前は全部説明してやらんとわからんようだな……三日じゃ無理か。諦めろ。」
ラキュオスは、技術の修得しか頭に無かった。剣士の心、愛する者を守りたいと願う心、今の今まで、何度も言われてきたはずだった。
愛されなかった訳じゃない。むしろ愛に満ちた家族だった。父という存在のプレッシャーに負け、我流を貫き、聞く耳を持たず、心は恨みで塗り固められた……
ラキュオスは、愛を感じ取ることが出来ないのだ。周りに溢れる愛を 素通りして生きてきた……心の成長が止まったまま、彼は今を生きていたのだ。
諦めろと言われ、途方に暮れたラキュオスは、ギルド裏の水場に座り込んだ。顔を洗い、しばらく空を眺めていると、レミがやってきた。
「なんだい、シケたツラして。こんな所でサボってたのか。」
言葉はキツいが、表情は柔らかく、声にトゲもない。レミはラキュオスの隣に座り、一緒に空を眺めた。