表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/29

父の残したもの



汐が引くように、修練場から人影が無くなった。

一人取り残されるラキュオス。金縛りが解けたかのように、その場で膝から崩れ落ちた。


涙が込み上げてくる。誰も居ない修練場に、ラキュオスの声が響く。


「あぁ。そうだよ!私は仇を討ちたい!神を名乗る厄災を この手で!目の前で家族をなぶり殺しにされ、私が正気でいれるわけが無いだろう!

復讐を心に決め、ただひたすら剣を振るう事でギリギリ立ち直ったんだ!何が悪い!国も家族も失って、これだけが私の生きる術なのだ!

田舎でのんびり暮らしてるヤツに、何がわかるって言うんだーっ!!」


泣きながら床を叩くラキュオス。


「うるせーぞ小僧!……話がある。ちょっと来い。」


腕組みをしたまま、首の動きで合図を出すギルバート。涙を払い、ラキュオスは後について行った。


通されたのは執務室。ソファにどっかりと座るギルバート。その向かいにラキュオスを座らせた。


「で?お前の親父と俺の話、どこまで聞いた?」


唐突なギルバートの問いに、ラキュオスは酒場で聞いた話をそのまま伝えた。


「その話には続きがある。お前の親父に互角と言われ、正直こんな屈辱感は今まで無かった。だってそうだろう!俺は剣を交えれば、相手の事はだいたいわかる。

お前の親父は、明らかに手加減していた。それでなお、俺は負けたんだ。何が互角なもんか。そんなんでソードマスターなんか名乗れるか?だから俺は、お前ん家探して、親父に直接聞きに行ったんだ。」


「ウチに、ですか?」


「あぁ。その時に聞かれたんだよ。お前はなぜ剣を振るうのか?と。技と力が互角だと王に言ったのは嘘じゃないとな。お前の親父と俺の差は心、剣を振るう理由の違いだとよ。」


「心……ですか……」


「あぁ。俺もその言葉の意味を理解出来たのは、つい最近だ。おそらく剣の真髄ってヤツかもな。理解してなお、あの時のお前の親父には、まだ勝てる気がしねぇ。背負うものの大きさの違いかもな。」


ラキュオスは思う。今の自分が背負っているものはなんだ?誇り?矜恃?恨み?そんなもの、個人の感情でしかない。自分の心は、あの時で止まっている。それが成長を止めているのか?


(自分はどうすればいい?仇を討つために強くなりたいと願う……それが強くなれない原因だなんて……

仇討ちを諦める?だったら、強くなる意味も必要も無い。ましてや諦めきれるわけが無い。どうすれば……)


「お前、冒険者ならギルドに所属してるんだろ。ギルドの仲間をどう思っている?」


「……仲間には、助けられている。守るべきものだと思っている。」


「それは、建前だな。そいつらのために、命張れるか?」


「必要ならば……」


「……まぁいい。一週間だけやる。俺は剣でもソード使いだ。ソードの基本なら教えてやる。その間、剣にマナを込めるのは禁止だ。純粋な剣技を身につけろ。いいな。嫌なら帰れ。」


「……!あ、ありがとうございます!お願いします!」


「そうか。なら、とりあえずお前が持ってる剣を売っぱらってこい。そして一振りだけ、自分にしっくりくるソードを用意しろ。

重さ、バランス、握った感触、なんでもいい。選んだらそれがお前の生涯の友だ。それが今日の課題だ。稽古は明日から。いいな。」


「はい。よろしくお願いします!」


後に、人生最大のターニングポイントと呼ばれる、濃密な一週間が始まる。この日のことがきっかけで、ラキュオスの二つ名が決まるのだが、それはまだ先の話……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ