適材適所
「誰なんですか、貴方は?」
「申し遅れた。私はラキュオスという。冒険者をしている。訳あって剣を極めようとする者だ。」
「その剣士殿がなぜ?」
「私は、剣にマナを込めて戦う魔剣士という職だ。だが、マナを込め過ぎると、剣は壊れてしまう。今まで私はそう思っていた。
だが店主殿の話を聞き、私の未熟ゆえの破壊では無いかと思い至った。もし私が正しく剣を振っておれば、壊れずに済んだ剣もあるのでは無いかと。
私は、今まで壊した剣に報いたい。頼む!」
「なるほどなぁ、お客さん、あんた剣を使い捨てにしていたのか……」
「……返す言葉も見つからぬ……すまぬ事をしたと、今なら理解出来る。」
店主の言葉に、ただ俯くラキュオス。それを見て、料理人が声をかける。
「どうやら真っ直ぐな人のようだ。だが、私が教えることは出来ません。」
「なぜです!」
「私共料理人は、技は見て盗め!と教えられてきました。口で説明出来るものでは無いのです。」
「それになお客さん、剣ってヤツは大別してブレードとソードって別れている。あんたの腰に下げてるのはブレードだな。
そいつぁ剣の重みで相手を叩き、ぶった斬るもんだ。逆にソードは、切れ味鋭く、相手の柔らかい所を狙って切る。物にはちゃんとした使い道ってのがあんのさ。」
二人の言葉に、ラキュオスはその場で膝をついてしまった。
今まで自分は、マナによって威力を増し、相手に叩き付ける事で、大抵のモノは倒してきた。魔獣であれ、鎧を付けた者であれ。基本など知らなくても勝てた……その事でラキュオスは、今まで知ろうとしなかったのだ。
(私など、剣士を名乗る資格も無かったということか……)
「そう落ち込むなよお客さん。もう日も落ちる。今日はもう、宿でゆっくりするんだな。一晩寝りゃ、気も落ち着くだろう。」
-その夜。この街の冒険者ギルド近くの酒場にラキュオスはいた。
「お前の剣、中々使い込んでるな。」
「まぁな。今じゃ俺の相棒だ。この剣がもし折れるような事があったら、俺は冒険者を引退するぜ。」
冒険者達の会話に、耳を傾けるラキュオス。
(本来剣とは、そうあるべきものなのだな……)
「いいよなお前は。数少ないマスターの弟子なんだから。」
「その代わり、死ぬほど厳しいぜ。言葉通り、何回死にかけたことか……」
「まぁ、俺にとってもあの人はマスターだ。厳しさは知ってるよ。」
「だな。ギルドのマスターにして、嘗てソードマスターと呼ばれた男。剣聖と互角に渡り合えたのは、後にも先にも、ウチのギルバート様だけだ。」
ラキュオスは立ち上がった!
「話の途中すまない。今の話、詳しく聞かせてくれないか?」
「誰だお前?盗み聞きしてやがったのか!」
「見たところお前も剣使いか。ここいらのもんじゃねぇな。」
「勝手に聞いていたことは謝る。私は旅の冒険者だ。そのソードマスターのこと、詳しく聞かせてくれないか?頼む!」
「まぁ、減るもんじゃねぇし、いいぜ。座んな。」
ラキュオスは男の向かいの席に座った。
「ウチのギルドのマスター、ギルバートさんはな、若い頃旅をしていたらしい。目的は、剣を極めるため。そして旅の途中、ある小国に立ち寄った時、剣聖と呼ばれる男と出会った。
ギルバートさんは、試合を申し込み、最初は断られていたが、粘りまくってやっと受けてもらったって話だ。
なにしろ相手は騎士。無闇に私闘は禁じられている。だがギルバートさんの話が王様の耳に入ってよ、王様の御前で、一度きりの試合が組まれたのさ。」