旅立ち
武器屋にある、ありったけの剣を買い、収納アイテムに収める。
これがラキュオスの旅立ちの合図だった。
「行くのか?」
武器屋の親父は無愛想に尋ねる。
「あぁ。いつも買い占めて、すまん。」
「いいさ。他の冒険者も分かってる。また来いよ。」
それがこの親父なりの餞別の言葉だった。生きてまた帰って来い。言葉の裏に込められた思いが、ラキュオスには嬉しかった。
村の出口に差し掛かった頃、ギルドの使いの女が走って来た。
「ラキュオス様ー!」
「なんだ?」
「これ、ギルマスから。あと、もしまどかに会ったら、渡して欲しいって……」
手渡されたのは、皮袋と手紙。皮袋には、金貨が入っている。
「会えない確率が高いと思うが?」
「その時はしょうがないって。じゃあ。ちゃんと渡したからね。」
女はそれだけ言うと、走り去って行った。
(忙しないヤツだな……)
ラキュオスは収納からマントを取り出し、それを羽織ると、村を出た。今度の旅も長くなりそうだ……そう思いながら、次の街を目指すラキュオスだった。
-サクラシティ。
川沿いから少し離れたこの街は、その昔 水不足に悩まされていた。そこへたまたま通りがかった聖人の発案で、川から水路を掘り、水車の力で水を汲み上げる仕掛けを作った。
以来その技術は受け継がれ、畑を潤す農業用水として利用されている。
そしてこの用水路には、もう一つの逸話がある。
帝国統一戦の頃、ある一人の武人が居た。並み居る敵を斬り伏せ、小国の王を守り抜いたその武人が、この用水路で剣に付いた血糊を洗い流した。その一本の剣により、用水路は赤く染まったという。
その武人が使っていた剣ならば、自分のマナにも耐えうるかもしれない。そう思ったラキュオスは、その剣の手掛かりを探すため、この街を訪れたのだ。
(とりあえず、鍛冶屋でも覗いてみるか……)
この街の鍛冶屋は、その八割以上が農具や調理用のナイフを扱っている。まともに剣を打っている鍛冶師は居ないようだ。ラキュオスはそれでも、腕のいい鍛冶師と評判の店に入った。
中には先客がいる。どうやら料理人のようだ。
料理人は店主から一本のナイフを受け取ると、袋からトマトを取り出す。
よく熟れた真っ赤なトマトだ。料理人はナイフの刃を トマトにあてる。スッと抵抗なく沈んでゆくナイフ。素晴らしい切れ味だ。
「凄いな。」
ラキュオスは思わず声に出した。それを聞いた店主は、
「これはナイフの切れ味だけじゃねぇ。料理人の腕だよ、お客さん。」
「腕?」
「あぁ。物には切り方ってもんがあるんだよ。どんなに切れるナイフでも、無闇に叩き付ければトマトは潰れちまう。
硬いもんなら刃こぼれだってする。それをちゃんと見極めて刃を入れてるから、スッと切れるのさ。刃物ってぇのは、使う者によって切れ味が変わるのさ。」
頭を殴られたような衝撃だった。剣聖の子という重圧の中、ひたすらに剣を振ってきたラキュオスだったが、どう頑張っても父に比べれば見劣りしてしまう。
使い手によって、同じ刃物でも切れ味が変わる……自分は本当の意味で、剣を使いこなせていなかったのではないか……剣がマナに耐えられないのは、剣の性能だけではなく、己の未熟……
「すまない、料理人殿、私に刃物の使い方を 御教授願えないだろうか?伏して頼む!」
ラキュオスは、今出会ったばかりの名も知らぬ料理人に、頭を下げた。