表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/29

破壊



『ラキュオス、見ろよ。我の言った通りであろう。ニンゲンとは、争い、憎み、自滅する生き物なのだ。我はきっかけを与えたに過ぎぬ。』


『こ、姑息な……』


『さぁ、仕上げだ【神技】メルトダウン!』


『や、やめろーっ!!!』


『……』


「はっ!……またあの夢か……」



-西ゲルム王国と東ゲルム帝国。内戦を経て二つに割れた国、そのうちの西側にラキュオスは居た。剣聖と言われた父のあとを継ぎ、騎士となったラキュオスは、日々心と技を磨いた。

父は厳しく、母は優しい。妹は少し我儘だが、母の手伝いを良くする。幸せな家族だった。あの日までは……


最初の事件。ある日王宮に、神の使いを名乗る者が入り込んだ。ラキュオス達騎士団で取り押さえようとしたが、全員が金縛りにあい、身動きが出来ない!

必死に藻掻くラキュオスの頬を撫で、ニヤリと笑うと、棒立ちになった騎士団の中を悠々と歩き、王の前で跪く。


「三月のうちにこの国は、東側との戦になる。やがてどちらとも滅ぶであろう。我が主神のお告げだ。」


それだけ言うと、その者は床に沈むように消えた。

王宮は混乱し、最大限の警戒とともに、戦争の準備に入った。


慌ただしく人の出入りする王宮。そんな中、二つ目の事件が起きる。国宝とまで称される美麗な姫君の姿が、突然消えた。お付のメイドも、近衛の兵も、誰も気付かぬウチに居なくなったのだ。


懸命の捜索にも、手掛かりすら無く、二月が過ぎた頃、東側よりの贈り物という、一つの葛籠が届いた。

術による罠が無いことを確認し、葛籠を開ける。するとそこには、見るも無残な姫君の亡骸が横たわっていた!


衣服を纏わず、両手を縄で縛られ、慰みものにされたであろう痕跡があった。


王妃は正気を失い、王は激高する。直ちに出撃の命令を出し、東側の殲滅を指示した!


出陣するラキュオス。その背後で声がする。


『お主、いい目をしておるな。我の一番嫌いな目だ。脆弱で矮小なニンゲンのクセに、何かを信ずる者の目だ。』


『誰だ!』


『我は破壊と混沌を齎す神。ニンゲン、お前の信ずるモノが、如何に無価値でくだらないものか、その目に焼き付けてやろうぞ。』


次の瞬間、辺りは何も無い世界。身体の身動きもとれず、声も出ない。やがて元の景色に戻るが、人々はラキュオスの身体をすり抜けて行く。


『どういう事だ……』


『まぁ慌てるな。お前の信じた世界を見せてやってるだけだ。周りの者にはお前は見えぬ。声も聞こえぬ。ニンゲンの愚かさを ゆっくり楽しむがいい。』


そこに繰り広げられるのは東西の戦争。殺戮、破壊、略奪……騎士の誇りなど欠片も無い、怨嗟と狂気の世界。

ラキュオスの目の前で妹は犯され、父は取り囲まれ槍で突かれ、母も惨殺される。ラキュオスは血の涙を流し、声なき声をあげた。


『知恵を得たニンゲンは、いつしか欲に塗れた。互いを高め合うのでは無く、相手を引きずり降ろす事で自分の立場を守る。その繰り返しじゃ。

おかげで進歩どころか後退するばかり。この世界には害でしかない。だから我が混沌を与え、ニンゲンを自滅させ、世界を再生してやろうと思ってな。

さあ、よく見ろ!魂に刻め!そして輪廻より戻ったら、その罪を悔いて生きるがよい。フハハハハ……』



神を名乗る者の術で、両国は焦土と化した。瓦礫すら残らず、誰もここに国があったなど思いもしないだろう。

その只中に放り出されたラキュオスは、ようやく身体の自由を取り戻した。


どこまで歩こうが、どれだけ叫ぼうが、人影も返ってくる声も無い。それでも歩き続け、体力も気力も尽き、倒れている所を ガルシアに拾われたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ