破壊
『ラキュオス、見ろよ。我の言った通りであろう。ニンゲンとは、争い、憎み、自滅する生き物なのだ。我はきっかけを与えたに過ぎぬ。』
『こ、姑息な……』
『さぁ、仕上げだ【神技】メルトダウン!』
『や、やめろーっ!!!』
『……』
「はっ!……またあの夢か……」
-西ゲルム王国と東ゲルム帝国。内戦を経て二つに割れた国、そのうちの西側にラキュオスは居た。剣聖と言われた父のあとを継ぎ、騎士となったラキュオスは、日々心と技を磨いた。
父は厳しく、母は優しい。妹は少し我儘だが、母の手伝いを良くする。幸せな家族だった。あの日までは……
最初の事件。ある日王宮に、神の使いを名乗る者が入り込んだ。ラキュオス達騎士団で取り押さえようとしたが、全員が金縛りにあい、身動きが出来ない!
必死に藻掻くラキュオスの頬を撫で、ニヤリと笑うと、棒立ちになった騎士団の中を悠々と歩き、王の前で跪く。
「三月のうちにこの国は、東側との戦になる。やがてどちらとも滅ぶであろう。我が主神のお告げだ。」
それだけ言うと、その者は床に沈むように消えた。
王宮は混乱し、最大限の警戒とともに、戦争の準備に入った。
慌ただしく人の出入りする王宮。そんな中、二つ目の事件が起きる。国宝とまで称される美麗な姫君の姿が、突然消えた。お付のメイドも、近衛の兵も、誰も気付かぬウチに居なくなったのだ。
懸命の捜索にも、手掛かりすら無く、二月が過ぎた頃、東側よりの贈り物という、一つの葛籠が届いた。
術による罠が無いことを確認し、葛籠を開ける。するとそこには、見るも無残な姫君の亡骸が横たわっていた!
衣服を纏わず、両手を縄で縛られ、慰みものにされたであろう痕跡があった。
王妃は正気を失い、王は激高する。直ちに出撃の命令を出し、東側の殲滅を指示した!
出陣するラキュオス。その背後で声がする。
『お主、いい目をしておるな。我の一番嫌いな目だ。脆弱で矮小なニンゲンのクセに、何かを信ずる者の目だ。』
『誰だ!』
『我は破壊と混沌を齎す神。ニンゲン、お前の信ずるモノが、如何に無価値でくだらないものか、その目に焼き付けてやろうぞ。』
次の瞬間、辺りは何も無い世界。身体の身動きもとれず、声も出ない。やがて元の景色に戻るが、人々はラキュオスの身体をすり抜けて行く。
『どういう事だ……』
『まぁ慌てるな。お前の信じた世界を見せてやってるだけだ。周りの者にはお前は見えぬ。声も聞こえぬ。ニンゲンの愚かさを ゆっくり楽しむがいい。』
そこに繰り広げられるのは東西の戦争。殺戮、破壊、略奪……騎士の誇りなど欠片も無い、怨嗟と狂気の世界。
ラキュオスの目の前で妹は犯され、父は取り囲まれ槍で突かれ、母も惨殺される。ラキュオスは血の涙を流し、声なき声をあげた。
『知恵を得たニンゲンは、いつしか欲に塗れた。互いを高め合うのでは無く、相手を引きずり降ろす事で自分の立場を守る。その繰り返しじゃ。
おかげで進歩どころか後退するばかり。この世界には害でしかない。だから我が混沌を与え、ニンゲンを自滅させ、世界を再生してやろうと思ってな。
さあ、よく見ろ!魂に刻め!そして輪廻より戻ったら、その罪を悔いて生きるがよい。フハハハハ……』
神を名乗る者の術で、両国は焦土と化した。瓦礫すら残らず、誰もここに国があったなど思いもしないだろう。
その只中に放り出されたラキュオスは、ようやく身体の自由を取り戻した。
どこまで歩こうが、どれだけ叫ぼうが、人影も返ってくる声も無い。それでも歩き続け、体力も気力も尽き、倒れている所を ガルシアに拾われたのだった。