商人とは
「独立……ですか?」
「あぁ、この人がな、バッケスの野郎をふんじばってくれたんだ!」
「なんと!バッケスを!」
「あたしはスカッとしたんだが、ほっといたらダザイシティの流通が滞っちまう。街の人が困るだろ?祝いのついでだ。ヤスを連れて、あっちでやってみる気はないか?」
「お嬢、行くのはやぶさかでないですが、支所という形ではダメなんですか?」
「あぁ。あっちもこっちもなんて、あたしは仕切れないよ。この街で手一杯だ。ウル爺も親父の時から尽くしてくれた。もう自分の店構えるべきだろ。」
「お嬢……」
「ヤスもただの倉庫番じゃ勿体ねぇ。あっちで若いヤツら仕切って、バリバリやってみてぇだろ?」
「へい!」
「決まりだな。ウル爺、何人か連れて行っても構わないよ。」
「お嬢、バッケスが囚われたのなら、あっちにも仕事に溢れて途方に暮れてる者も多いでしょう。ヤスと二人、そいつ等束ねてやってみようと思います。」
「そうか。まぁ、人手がいる時は言ってくれ。」
「お嬢、お世話になりました。」
「こっちこそ。あたしに商売を教えてくれた師匠だ。ありがとうございました。」
「旅の方、ありがとう!さぁ、まだまだ忙しくなるぞ!」
「お嬢の花嫁修業も、もう少し先になりそうですな。」
「う、うるさいよ!」
ラキュオスは、以前ヤスに言われた、親方としてのナツに惚れちまった……という言葉を思い出していた。
(器というヤツかな……)
やはり長と呼ばれ、慕われる者には、それなりの理由がある……ラキュオスはこの出会いに感謝し、名も告げず倉庫街を後にした。
「らっく、次の街に行くか。」
「行くにぃ!」
足取りも軽く、二人は旅を続けるのだった。
-水晶の樹海。
次のグリンシティに向かう為には、迂回を余儀なくされる、広大なエリア。文字通り樹木のように水晶が乱立しており、植物は一切生えていない。
足を踏み入れれば方向感覚を失い、二度と出られないと言われていて、旅人は樹海を避けるように、砂漠化の進む荒野を歩まねばならない。
「ラキ様ぁ、暑いにぃ……もう歩きたくないにぃ……」
「もう少し先で休もう。」
「にゅー……水晶が氷みたいで涼しそうだにぃ……」
「見た目だけだ。入ったら最後、帰れなくなるぞ。」
「にゅー……」
「もう少し、もう少しだ。」
「ねぇ、ラキ様ぁ……」
「もう少しだ。」
「何か来るにぃ。」
砂煙を上げ、何かが近付いて来る。あと百メートルという距離で馬車の幌が見えた。が、明らかに高さが低い。
五十メートル程まで近付いてようやく謎が解けた。ソリだ!しかも引いているのは、体長三メートル以上もある蜥蜴だった。
サンドドラゴンという砂漠地帯の固有種で、指の間には、水かきならぬ砂かきが付いており、脚が太く、体表の鱗は滑らかである。
「乗りたーい!乗りたいにぃ!おーい!」
「!!うぉー!止めるな!邪魔だ!どけっ!」
跳ね飛ばされそうな勢いの蜥蜴ソリ。その後ろの砂が、土竜の巣穴のように盛り上がり、そのトンネルがソリを追いかけている。
「!魔獣に追われているのか!」
「やっつけて、乗せてもらうにぃ!」
「あ、おい、らっく!」
らっくは跳躍と同時にヒュドラの爪を振り出し、出来たばかりのトンネルに突き刺す!
その瞬間、トンネルの動きが止まり、砂が震えた。
「ドバーン!!」
突如爆ぜるトンネルの先端!砂が波打ち、魔獣が頭を上げた。




