金という魔法
後にラキュオスは語る。
冒険者ギルドのマスターとは、人格者であり、ギルドのメンバーの信頼厚く、面倒見が良い。
今まで旅先で出会った、ほぼ全てのマスターがそうであった。ただ一人を除いて……
執務室に通されたラキュオス達。
「ようこそ我が街、我がギルドへ!私がマスターのバッケスだ!」
「バッケス?この街の商人に、バッケスという名の者が居ると聞いたのだが……」
「その通り!私のことだ。前はギルドの下請けをやっていたがな、経営難だったここを 丸ごと買い取ったのだ!今ではギルドが私の下請けよ。」
「聞いた事が無いな、そんな話。」
「こんな事が出来るのは、国中探しても私だけだろうよ。言わば私は、金という魔法を自在に操る、大魔導師だ!」
(なるほど。トンキーさん達が困窮する訳だ。ギルドを私物化しているのか。)
「大魔導師とは凄いな。誰にでも効くのか?その魔法。」
「そうだな。金はいくらあっても腐る物では無い。欲しがらぬ者も居ない。
前に、俺は金では動かん!などと言ったヤツも居たが、金額が上がるにつれ目の色が変わり、最後には私に土下座しおった。あれは笑えたぞ!はっはっはっはっ……」
(虫唾が走るとは、こういう事なのだな……)
「そうか。」
「そこでだ、旅の方、一つ依頼を受けてくれんかね。」
「どんな依頼だ?」
「隣街の商人で、ウチの邪魔をする者が居る。おかげでウチは大損だ。今日も一人、従業員がやられた。ちょっくら、退治してくれんか?」
「せっかくだが、急ぐ旅でな。依頼を受けている暇は無い。」
「そうかい、そいつは残念だ。急ぎじゃ仕方がない。ま、気が変わったら受けてくれ。気が変わったらな。」
「すまんな。」
「いやいや、気にしない気にしない。まぁ、今日は街でゆっくりしたらいい。」
ラキュオス達は退室し、宿を探しに向かった。
「おい、ヤツを監視しろ。あの連れの獣人の娘、使えるかもしれん。コレを持って行け。」
「わかりやした。」
-らっくは不満気な顔で言う。
「ラキ様ぁ、らっくはアイツ嫌いだにぃ。」
「そうか。私もだ。」
「だったらやっつけるにぃ!」
「待て待て……嫌いなヤツ片っ端からやっつけるつもりか?」
「ダメだにか?」
「それはさっきのヤツと、やってる事同じだぞ。お前、あんなヤツと同じになりたいのか?」
「……それはやだにぃ。」
「まぁ、アイツらがこちらに危害を加えるなら、迎え討たねばなるまいが……」
ラキュオスは、つけてくる気配を察知していた。
(ただの監視か?襲って来るか?)
宿を決め、街に買い出しに出る二人。やはりその気配もついてくる。
(誘い出すか……)
ラキュオスは買い物を済ませると、人気のない路地へ入った。
「何か用か?」
ラキュオスの言葉に、五人の輩が姿を現す。
「いやいや、旦那には用は無いんで。そちらのお嬢ちゃんにコレを……」
輩の一人が袋を取り出す。スンスンと鼻を動かしながら、らっくは袋に吸い寄せられて行く。
「おい、らっく!」
ラキュオスの声も届かず、らっくは酔ったように輩の足元にまとわりついた。
「旦那、動いちゃいけねぇよ。この娘の命、助けたかったらな。」
「らっく!!」
らっくは無抵抗のまま輩に捕まっている。
「猫にマタタビとは、言ったもんだな!こんなに効き目があるとはよ。じゃあな旦那。」
輩共は、らっくを連れて姿を消した。




