反抗期
なんだろうこの居心地の良さは……
ラキュオスは、トンキー夫妻ののんびりに影響されたのか、お茶を飲みながら寛いでいた。らっくもテーブルに突っ伏して、むにゃむにゃと寝てしまっている。
「ただいま!ん?お客さんか?」
あまりの声の大きさに、らっくはビクッ!として起きた。
「あぁ、おかえり。息子のホンキーです。こちらは旅の冒険者さんだ。」
「ラキュオスと申します。」
「らっくだにぃ!」
「あ、あぁ、どうも。こんな街に来たって、何も無いでしょ。とっとと次の街に行った方がいいっすよ。」
「こら、なんだいその挨拶は。」
「うっさいなぁ、今日商人来たんだろ。ポーション貰ってくよ。」
「それがなぁ、ポーションが値上がりして、数があんまりないんだ。無駄使いしないでおくれ。」
「オヤジは俺に死ねって言うのか?ポーションが無きゃ、魔獣狩れないだろ!」
「それはお前が、無闇に突っ込むからだろ?もう少し戦い方を工夫して……」
「また説教かよ……いいよ!もうメシ食って寝る!」
ドカドカと奥に入って行くホンキー。
「ハハハ……いやいや、お恥ずかしい。反抗期というやつですかねぇ、冒険者として独り立ちさせたのですが、まだまだひよっこで……」
ラキュオスは、昔の自分を見せられた思いだった。親や環境に反発し、自分の力を過信する。たぶんあの頃も、父は助言をくれていただろう……それを 説教はたくさんだ!と、聞く耳を持たなかった。
「トンキーさん、ちと尋ねたいが、もうじき日も落ちるでしょう。この街に宿はありますか?」
「おや、もうそんな時間ですか……生憎この街に宿屋は無いんです。まぁ、この街に仕方なく泊まる人が居たら、農家に泊めてもらうくらいですかね。
もし宜しければ、ウチに泊まってください。大したおもてなしは出来ませんが……」
「いいんですか?では、お言葉に甘えて。勿論、宿代はお支払い致します。」
「とんでもない!旅のお話など聞かせてください。それが何よりのお代です。」
-食事も終え、そろそろ寝ようかという時、隣の部屋から声がする。
「……どうすんだよ!金も無い!ポーションも無い!こんな街で冒険者やってる意味なんてあんのかよ!」
「あるだろう。この街は結界も無い。魔獣が街に入り込んだら、街の人が困るだろ?」
「それでウチの生活が困ったら、意味無いだろ!俺は街を出る!冒険者も辞める!」
「辞めてどうする?あてなど無いだろう?」
「あるよ!表で商人と話したんだ。王国で魔獣ハンターと言うのを集めてるらしい。」
「魔獣ハンター?」
「あぁ。ギルドを通さない仕事だ。指定された魔獣を 殺さず生け捕りにする。そうすれば、素材よりも高く引き取ってくれるそうだ。
仮に魔獣が死んだら、ギルドで買い取って貰えばいい。リスクはあるが、損はしない!スゲーだろ!」
「生きたまま連れ帰るなど、街で暴れたらどうするんだ?」
「そんときは倒すさ!」
「簡単に言うなよ……危ない仕事じゃないか。」
「そんなんだから、みんなに呑気さんなんて言われるんだよ!もう決めたんだ。親父はここで一生、呑気さんやってろ!俺は王国へ行く!」
聞くつもりは無かったが、かなりの怒鳴り声に目が覚めてしまった。
(魔獣ハンターか……そんなリスクを犯して、生きた魔獣をどうするつもりだ?これは、確かめる必要があるかもしれない……)
なにやらきな臭い話に、ラキュオスは一抹の不安を感じていた。王国へ行く理由が、また一つ増えたラキュオスだった。




