ロビー
「ラキュオス!旅の話を聞かせろよ!」
こうやって私に話しかけるのは、ギルドの中でもガンツだけだ。
私がこのギルドに来た頃から、強さばかりを追い求め、弱い者を見下していた。おかげで誰からも話しかけられること無く、孤高の剣士と揶揄されることも多かった。
そんな私に、能天気に言葉をかけて来たのは、当時から皆に一目置かれていたガンツだ。今思えば、今日他の冒険者に話を聞くように言ったガルシアが、あの時も同じ理由でガンツに話したのだろう。
(私がギルドで孤立しないように……か。)
どうせ剣を探す旅に出るのだから、皆と仲良くなる必要は無い。私はそう思っていた。
「みんなに心開いてみろ。力だけが強さじゃねぇぞ。」
あの時ガンツに言われた言葉。
「別にここの連中と馴れ合えってことじゃねぇ。だがな、コイツらの持っている知識や情報、戦闘では使い道のねぇスキルだってよ、お前が戦うまでの下準備には、欠かせねぇものなんだ。
持てる力をフルに使って、戦闘に集中出来るのは、コイツらのお膳立てがあっての事なんだぜ。ギルドってぇのは、そうやって回ってんのさ。」
それから、私は弱者を蔑むことは無くなった。
今までなら、足でまといだと切り捨てていた者にも、ギルドでは重要な役割がある。私はそれを理解した。
「ガンツ、私が居ない間に、凄腕の冒険者が入ったそうじゃないか。」
「おう、まどかのことか。アイツは底が知れねぇ。あの華奢な小娘の、どこにあんだけの力があるのか……アイツは本物だぞ。」
「華奢な小娘?私はてっきり、筋骨隆々の大女だと思っていたが?」
「「え!ガンツさん、まどか様の話ですか!それなら親衛隊の俺達も混ぜてくださいよ!」」
近くにいたヤツらが、私達を取り囲むように集まってきた。私が何も聞かなくても、皆が挙って喋り出す。
そのほとんどが、女神だの、美しいだの、可憐だの、容姿に関する話だったが、戦闘に関する話には、凡そその容姿に似つかわしくない話ばかりだった。
視認出来ぬ程のスピード、洗練された無駄の無い動き、一撃の破壊力、戦闘知識と判断力、とても人の……しかも少女の技では無い。
「聞けば聞くほど、わからんな。」
「わからんついでに言おう。俺達が見たまどかは、あれでも多分、本気じゃねぇぞ。」
「本当に、人、なのか?」
「さぁな。それはお前の目で確かめるこった。まどかは、帝都に向かったぞ。」
「帝都か。次は王国を目指そうと思っていたところなんだ。道中で会えれば良いがな。」
「強者は引かれ合うと言うからな。そのうち会えるんじゃねぇか!」
「まぁ、別に会えなければそれでも構わない。私の旅の目的は、あくまで剣を探すことだからな。」
気にはなるが、無理に会おうというつもりもない。私は私の目的がある。私の全力のマナにも耐えうる剣。それを見つけ出し、必ずヤツを倒す!神を自称し、我が父を母を妹を……祖国を滅ぼした者……エレボスを倒し、無念を晴らす!
「おい、どうした?急に怖い顔して。」
「いや、なんでもない。」
「せっかく帰って来たんだ。美味いもん食って、美味い酒でも飲もうぜ!」
「この村に美味いもんなんか、あったか?」
「ハッハッハッハー……違ぇねぇや。でもよ、仲間と喰うメシは、何食ったってうめぇぞ!ラキュオス、ここはお前のホーム。そしてみんなは、仲間だ!」