心眼の剣士
「隊長、場所を変えよう。」
ラキュオスは、ルドルフを連れ部屋に戻った。
椅子に腰掛け、食堂から持ち込んだ葡萄酒をタンブラーに注ぎ、話の続きを語り出す。
「レミは師匠から独り立ちして、修行の旅をしていた。そんなアイツをパーティに誘ったのは俺だ。いや、パーティと言やぁ聞こえはいいが、俺達は、凄腕のアイツを仲間にすりゃ、楽に冒険者やって行けると思ったんだ。下衆な考えだよな。」
「まぁ、ありそうな話だな。」
「そんな俺達でも、世話好きなアイツは、仲間だと言ってくれたんだ。ほっとけないってよ。俺は自分を恥じた。それからだよ、俺は本気で強くなろうって思ったのは。」
「確かにな。今もギルドでは、姉さんと呼ばれ、みんなに慕われている。」
ルドルフはフッと笑う。
「変わんねぇな……まぁ、それから俺は、結構無茶な討伐にも参加したんだ。少しでも上のレベルの仕事を熟しゃ、早く力を付けられると思ったのさ。焦ってたんだな……」
「まぁ、気持ちはわかるよ。」
「その頃レミは、心眼の剣士という二つ名で呼ばれるようになった。相手の急所を見抜き、一撃で仕留める。
一度アイツに聞いたが、相手の身体が、透けて見えるような感覚があるんだとよ。そして急所が光って見えるらしい。凡人にはわからねぇ感覚だな。
ますますアイツとの差が広がった気がしてよ、俺は更に無茶な仕事を受けるようになった。」
「なるほど……(あの時の光った感覚かな?)」
「それがちと欲張り過ぎた。ある日俺じゃあ手に負えねぇ魔獣の討伐に参加したんだ。レミには止められたが、力を付け始めた俺は、調子に乗ってた。
俺は足をやられ、動きが鈍った所に魔獣のブレスが来た。レミは俺を庇い、俺を突き飛ばして、代わりにブレスを浴びたんだ……」
「そうか……」
「命があっただけでも奇跡だった。俺はアイツの薬代だけでも稼ごうと、仕事を選ばずとにかくこなした。
だがある日、アイツは姿を消したんだ……俺に無理をさせたくないと思ったんだろう、行き先も告げず、置き手紙も無かった。」
ルドルフは葡萄酒を一気に飲み干した。
「まぁ、アイツが無事に、元気でやってるならそれでいい。そうか……師匠んとこに帰ったんだな……」
ラキュオスには、今まで味わったことの無い感情だった。互いが互いを思いやる気持ち、ただルドルフが責任を感じているだけでは無い、それ以上の感情……ラキュオスはまた一つ、新たな感情に触れた。
(パーティとは、ただの利害関係では無いのだな……)
「あぁー、こんなところにいたにぃ!みんな探してたにぃ!」
らっくが匂いを嗅ぎつけ、部屋に入って来た。
「しゅやくが居ないと、始まらないって言ってるにぃ!何が始まるにぃ?」
「お嬢ちゃん、たらふく食ったか?」
「にゅ?まだ食べれるにぃ!」
「そんじゃ、食いに戻るか!」
「食べるにぃ!」
「旦那!戻りましょうや!」
食堂に戻った途端、皆に囲まれる。胴上げでもされそうな勢いだ。戦闘の疲労も忘れて、全員いい笑顔だった。
心が軽くなったのか、ルドルフは皆と大いに笑った。周りの冒険者達も、
「なんか今日の隊長、ホントに楽しそうっすね!」
と、口々に言った。街の全員での大宴会は、夜どうし続けられた。ただ一人、マリーの姿だけが何処にも無かった。




