ゴブイーター
街道に蠢く多頭の蛇。丸太より太い四本の首は、それぞれの意思で動いている。それが一つの胴に繋がり、ズルズルと這っている。
「あれか。」
「にゅおー!でっかいニョロニョロだにぃ!」
数人の冒険者が、ボロボロになりながら剣や斧を振るっている。少し離れて、倒れた冒険者達を魔術師が回復していた。
「無事か!」
「あ、あんたは!……助かったぁ……」
「猛毒の牙が厄介だ。並の毒消しじゃ、治癒しきれない。」
「もうすぐ応援が来る。気をしっかり持て!」
ラキュオスが話している隙に、らっくはゴブイーターと対峙している。
「シュララァ!」
「フーッ!」
威嚇するゴブイーターに、しっぽを立て、髪を逆立てて威嚇を返すらっく。指先にマナが集まり、爪へと形を変えた。
ゴブイーターがらっくに牙を向ける!らっくは寸前で飛び退き、ゴブイーターの目に爪をたてる!
「シャァッ!」
目から血を吹き、のたうつゴブイーター。
「らっく!下がれ!」
別の頭が、らっくの着地を狙った!らっくは顔を蹴り、大きく下がって牙を逃れた。
「無茶するな。」
ラキュオスはらっくの横に立つと、木の棒を抜いた。
「お前の爪、参考になった。試してみるか。」
ラキュオスは、棒にマナを込める。今までのように、ただ闇雲にマナを注ぐのではなく、木の棒を剣に変えるが如く。
「参る!」
一つの頭が、ラキュオスの気配を捉えた。口を大きく開き、ラキュオスに牙を向けるゴブイーター。
「ふんっ!」
ゴブイーターの口へ、横薙ぎの一閃!ラキュオスを襲った頭は、下顎をドサリと落とす。
「なっ!棒で切っただと?!」
今まで何度剣を突き立てても、鱗に阻まれ傷一つ付けれなかった冒険者達は、ラキュオスの技に驚きを隠せない。
「これがランクBの冒険者か……」
ゴブイーターの攻撃が激しくなる。ラキュオスを餌では無く、敵と認識したのだろう。片目を潰された頭も、下顎を切り落とされた頭も、四つがそれぞれラキュオスに襲い掛かる!ある時は交互に、ある時は同時に。
「捌いているだけでは、埒が明かんな。」
「うぉーりゃぁ!!」「ガキーン!」
グレートアックスが頭を一つ弾く!切れはしなかったが、脳震盪を起こしたらしい。
「待たせたな。旦那!」
ルドルフが、冒険者を連れ追い付いた。
「魔術師は治療と回復。冒険者は手数で攻めろ!毒消しもたっぷりあるぞ!ケチらずに使え!行くぞ野郎ども!」
「「「うぉーっ!!」」」
「俺達が隙を作る。旦那!仕留めてくれ!」
「心得た!」
「らっくも行くにぃ!あのニョロニョロ、なんか嫌いだにぃ!」
それから怒涛の攻撃が始まった。同じ箇所に手数で打ち込み、鱗が剥げ落ちると剣でも刺す事が出来るようだ。ラキュオスは距離を置き、剣化した棒に詠唱する。
「荒ぶる闘神よ、その手より放たれる稲妻を我が剣に宿し、邪なるものを斬り伏せる刃となり、我に力を与えよ。魔剣、雷の型。雷刃一閃!」
ラキュオスは光の帯となり、ゴブイーターの首の付け根、首と首の間を駆け抜ける!胴は切り裂かれ、鎌首を擡げていた頭も、力を失いドスンと地に落ちた。
「ふぅ、なんとかなったな。」
「「うっしゃぁーっ!!」」
冒険者達は歓喜に沸いた。こうして、ゴブイーターと呼ばれるヒュドラの討伐は、無事完了した。
「なるほど。これが魔剣士ってヤツか。」
ルドルフはそう呟き、皆に撤収を告げた。




